第3章 判例と学説

 

第1節 近年の判例における「相当の対価」

提訴時期

被告

対象技術

原告算定対価額

提訴額

裁判所認定

「相当の対価」

昭和54

日本金属加工

時計バンド材料等の製造技術

8518万円

2530万円

330万円

(原告算定の約4%)

昭和56

東扇コンクリート工業

コンクリートパイル

1237万円

1137万円

841万円(68%)

平成元年

カネシン

建物用金具

3090万円

3090万円

1292万円(42%)

平成3年

象印マホービン

ステンレス鋼製魔法瓶製造関連技術

15000万円

15000万円

640万円(4%)

平成3年

ゴーセン

釣り糸

二審時:約1635万円

二審時:1635万円

二審:166万円(10%)

平成7年

オリンパス光学工業

CD読取機構(ピックアップ装置)の小型化技術

二審時:

281520万円

二審時:

5229万円

二審:250万円(0.1%)

平成10年

日立製作所

CD読取機構などの光関連技術

第一事件:約1295千万円

第二事件:7060万円

第一事件:9億円

 

第二事件:7060万円

第一事件:3494万円(0.3%)

第二事件:17万円(0.2%)

平成11年

三徳

希土類金属の回収方法

3000万円

3000万円

200万円(7%)

平成13年

ニッカ電測

缶チェッカー技術

400万円

400万円

53万円(13%)

平成13年

日亜化学工業

青色発光ダイオード関連技術

639億円

200億円

-

平成14年

日立金属

Fe-R-N系磁石の構造及び製造方法

90786千円

89749千円

12325千円(14%)

 

上記の表は、近年の職務発明に関する訴訟での、原告の主位的主張による算定対価、実際の提訴額、裁判所認定の「相当の対価」をまとめたものである。原告が算定した「相当の対価」に対する裁判所認定の同金額の割合は、平均すると約16%にとどまり、原告の主張と裁判所の認定額には相当の開きがあることがわかる。

第2節 注目職務発明訴訟

青色LED職務発明訴訟

東京地裁平成13年(ワ)17772

原告:中村 修二

被告:日亜化学工業株式会社

 2001年8月に、青色発光ダイオード(青色LED)の発明者である中村修二氏(現カリフォルニア大学サンダーバーバラ校教授)が、研究者として在職していた日亜化学工業鰍相手取って、特許法35条3項(職務発明の対価の支払い)の規定に基づき約20億円の支払いを求める訴え(予備的請求、主位的請求は権利移転登録手続きの請求)を東京地裁に提起、これが新聞等で大きく報道された。

 

(1)事案の概要

発光ダイオード(LED)は従来の電球に比べて電力消費量が少なく、かつ耐久性が非常に優れている。従来赤色LED、黄色LEDは実用化されていたが、青色LEDは実用化が難しく、かつては20世紀中の実用化は不可能、とまで言われていたが、中村修二教授(原告)は、日亜化学(被告)に勤めていた間にその実用化を実現した。この青色LEDの実用化により、光の3原色がそろい、明るい白色の光を作り出すことが出来るようになり、白色電球にとって変わることの出来る可能性がでてきた。将来的に白色電球にとって代われば、青色LED市場は数兆円を超える規模となる可能性があるといわれる。

今回の事件の被告であり、かつて中村修二教授の使用者であった日亜化学はこの青色LEDの開発以来、急激な成長を遂げている。1994年までは売上高200億に満たない中堅企業だった日亜化学は、1993年11月に青色LEDを世界で初めて実用化させると、急激に業績を伸ばし、2000年12月期の売上高は600億円台を突破し、2001年度には900億円を突破することが確実ということである。
 青色LEDの開発は日亜化学にとって極めて重要な商品であるにもかかわらず、開発者の中村修二教授に対して十分な報酬[1]は支払われていなかった。

 

 

(2)原告の請求

1 主位的請求
(1) 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権につき,持分1000分の1の移転登録手続をせよ。
(2) 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成13年8月23日(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 予備的請求[2](その1)
(1) 被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権につき,持分1000分の1の移転登録手続をせよ。
(2) 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成13年8月23日(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 予備的請求(その2)
   被告は,原告に対し,20億円及びこれに対する平成13年8月23日(訴訟提起の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 

(3)裁判所の結論

以上のとおり,本件においては,本件発明は職務発明に該当すると認められるところ,被告会社の昭和60年改正社規第17号が特許法35条にいう「勤務規則その他の定」に該当するものとして存在したほか,遅くとも本件発明がされる前までには,従業員と被告会社との間で,職務発明については被告会社が特許を受ける権利を承継する旨の黙示の合意が成立していたと認められ,また,本件発明の特許を受ける権利については,原告と被告会社との間で,これを被告会社に譲渡する旨の個別の譲渡契約も成立していたと認められる。
 したがって,本件発明についての特許を受ける権利は,特許法35条の規定の効果として,発明者である原告から被告会社に承継されたものというべきであるから,この旨をいう被告の主張は,理由がある。

 そうすると,本件においては,本件発明についての特許を受ける権利が被告会社に承継されていないことを前提として,本件特許権の持分の移転登録と1億円及び遅延損害金の支払を求める主位的請求(前記第1の1)は,理由がないこととなるので,引き続いて,本件発明についての特許を受ける権利が被告会社に承継され,本件特許権が有効に被告会社に帰属していることを前提として,特許法35条3項,4項に基づいて相当対価を請求する予備的請求(前記第1の2,3)についての審理を行うべきものである。
   よって,主文(別紙特許権目録記載の特許権に係る発明についての特許を受ける権利が被告に承継された旨の被告の主張は,理由がある。)のとおり,中間判決[3]する。

 

(4)現在の状況

 青色発光ダイオード(LED)の発明者で米カリフォルニア大サンタバーバラ校の中村修二教授が、勤務先だった日亜化学工業(徳島県阿南市)に発明の対価として200億円の支払いを求めた訴訟は2003年10月24日、東京地裁(三村量一裁判長)で結審した。判決は来年1月30日。 各種マスコミを騒がせ、職務発明規定について多くの議論を呼んだ事件ということで、その判決で果たして「対価の額」がいくらになるのか、今後の職務発明制度の行く末に大きく影響を与えるものとして注目されている。

 

 



[1] 中村氏が会社から受けた報酬は2万円のみ。(「技術者たちの怒りの反乱」『週間東洋経済』平成13年9月22日号100頁)

[2] 主位的要求が認められない場合に備えて、予備として裁判所の判断を求める請求。

[3] 民事訴訟法245条「裁判所は、独立した攻撃又は防御の方法その中間の争いについて、裁判をするのに熟したときは、中間判決をすることが出来る。・・・」