【メタモルフォーゼ】

大西うどんで遅い昼食をとり、支払いを済ませて店を後にしようとしていた矢先の出来事である。

「ネギ、くれるなー」

どこぞのおっちゃんが言った。

うんうん、確かにネギの好きな人は多い。一般店においても、ネギの追加をリクエストする客も少なくはない。岩田屋では、ほとんどの客がネギをテンコ盛りにする。ラーメンの丼に一杯入ったネギですら、ほんの数人で空になる場合もある。なにしろスプーンですくって掛けるというより、スプーンをヘラ代わりにして、バサバサと移動させるのだから。

ちなみに、岩田屋でネギやショウガが無くなった場合はどうするか?

答えは「自分で冷蔵庫を開けて取って来る」である。一見客に、これはキツイ。大体、他人の家の冷蔵庫を勝手に開けるなどという行為は不謹慎極まりない。常識人であればあるほど、良心の呵責に苛まれる。しかし、このハードルを越えずして岩田屋は語れない。
但し、ネギの補充が出来る位でいい気になってはいけない。まだまだである。店の人の目の前で、勝手にダシをおかわりしても文句を言われなくなって、初めて常連と呼ばれるのだ。

さて、話を戻そう。

加工食品と違って、ネギの価格は変動する。にもかかわらず、客にネギを自由に使わせるセルフ店の姿勢は見事という他はない。そんな事情を知ってか知らずか、中には、うどん屋に行くより、八百屋に行った方が良いのではないかと思う客もいる。

そのおっちゃんもそんな一人であろうと、ふと目をやった私は愕然とした。

おっちゃんの手にあった物は、うどんの丼ではなかったのだ。皿だ。そして乗っているのはおでん。こんにゃくが1切れ、そして2本分ほどの串を抜いたスジ肉。そこにパラリとネギを掛ける。

私は、おでんが別の食べ物に変身する奇跡の瞬間を目撃した。

「スジ肉の煮込みやんか!」

う・ま・げーっ!

席に戻ったおっちゃんは、ハグハグと食らい始めた。ハグハグと…、ハグハグと!うわーっ!
再度、申し上げます。

う・ま・げーっ!

たぶん、このおっちゃんはいつもこのような食べ方をしているに違いない。皆さんの中にも、こんな食べ方の人がいるかも知れない。しかし正直なところ、私は知らなかった。何と大損しとったことか。

おでんのスジ肉は、やや固めがうまい。ところがこの食べ方では、柔らかめが合うのではないだろうか。これは柔らかいスジ肉を探さなければならん。しかし相手はおでんである。串から抜ける程の柔らかさは期待出来ない。おでんとして成り立ちながら、尚且つ柔らかいスジ肉。相方のこんにゃくも忘れてはならない。よく煮込まれているものが理想だ。

また、新たな命題が生まれた。
 
 
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