【食べ過ぎは頭痛のもと】
 
《プロローグ》

私は時々、うどん屋さんの仕事をする。うどん屋さんをする訳ではない。顧客にうどん屋さんも結構いる、という意味である。

1月某日、それは「まき」からの電話で始まった。


「☆☆が不足しそうなんで、急いで来てくれんやろか」


一大事である。うどん屋さんに限らず、およそ日本中の食べ物屋さんにとって、☆☆は不可欠。もし、遠足にこれを忘れて行ったものなら、誰かに二つに割ったうちの一本をもらって、さらにそれを二つ折りにして半分の長さで弁当を食べなければならないほどの重要アイテムである。

これは急ぐ必要がある。その時、「小浜食堂」と「つるや」に諸々の品物を持って出ようとしていた私は、ルートを変更し、先に「まき」に向かうことにした。


《昼食はうどん》

11時過ぎ。うどん屋さんにとっては、昼の準備に忙しい時間帯である。

「すまんなー。きのう電話しよー思て、忘れとったんじゃがな」

大将が、もうもうと立ち登る湯気の中から、茹でたてのうどんを上げながら言った。茹でたて、である。どんどん上がっている。


これは食べないかんやろ。    
 
私は、正規メニューにはない「釜かけ」を注文した。水で締めた男らしい麺と、また違うプルンプルンの優しい麺。
ちなみに私はこの「釜かけ」、もっと注目を浴びてしかるべきメニューと考えている。


次の「小浜食堂」には12時前に着いた。納品を済ませると、ほぼ正午。この時間にうどん屋さんにいて、タダでは帰れない。

しかもこっちは業者で、買ってもらう立場である。270円のかけうどんという訳にもいかん。1ランク高級品の「月見うどん」にする。
本当は、2ランク上の「天ぷらうどん」なんかが良かったのだろうが、ここにはないんだよ。


《天ぷらへのこだわり》

余談であるが、うどんに乗せる天ぷらは、小海老のかき揚げが一番だと思う。

数種類の天ぷらがあるセルフ店でなく、メニューに「天ぷらうどん」とある店のほとんどは海老の天ぷらだ。しかし、大海老がドン!と乗ってきても喜んではいけない。その多くは、ブラックタイガーという東南アジアからの輸入物であって、地取れの車海老などではない。

一方、小海老は瀬戸内海産、いわゆる地物なのだ。「まり」も、「柳川」も、「松本」も、「大喜多」も、「きたの」も、天ぷらにはこの地物の小海老を使っている。

ところがこの小海老のかき揚げ信仰について、先日、「うどんの天ぷらは小海老」派の私とO船(あの修学旅行で○○○を××に△△で●●って★★になったO船である from「恐さぬ5」)、「うどんの天ぷらは大海老」派の亀Iと田Nで議論した時に、どうやら小海老信仰は観音寺近辺だけらしいことが判明した。そしてその理由が、多くのお店が「大豊水産」という天ぷら屋さんから仕入れているからだ、ということも解った。

「藤原屋」のゲソ天に対し、観音寺では「大豊」の小海老天なのである。その衣はほど良く固く、ダシが染みた時、丁度食べよくソフトになり、決してダシの中に溶け込まない逸品だ。

私は、ダシに衣が溶け込む(散らばる)天ぷらが苦手だ。なぜって、ダシを全部飲まないといけないじゃないの。飲め、と言われても困るんですわ。

以前、ジョージ秋山の「銭ゲバ」だったか「デロリンマン」だったかに、ラーメンを食べるシーンがあって、「スープを全部飲み干すと、食べ物に卑しい人間と思われるので、わざと2〜3cm残す」というようなことが書いてあって、なるほどと思った私は知らず知らずのうちにそれを実践し、今では生活習慣になってしまっている。実は、このことは嫁さんに指摘された。


「あんた、いつも味噌汁、少しだけ残っしょる」

 
知らんかった…。



《月見へのこだわり》  

さて、「小浜食堂」の月見うどんに話を戻そう。

この月見というやつは、半熟の黄身を潰すタイミングが実に難しい。
潰して、一すすりか二すすりは麺に黄身が絡み、残りはダシに溶ける。このダシが美味いのだが、タイミングが早すぎると、まだダシがたっぷりある所へ黄身が溶け込むために風味が薄く、遅すぎると風味豊かではあるものの、すでに少なくなったダシの量に不満が残る。

そのタイミングを会得できていない私は、あまり月見うどんを注文しない。
ところがその日、私のタイミングはバッチリであった。あの黄身特有の脂肪分(卵油)と、いりこダシとのハーモニーが口中を舞い、鼻孔で踊る。

至福の味に、思わず声が出てしまう。


う、う…、う・ま・で〜!」  
 
 
ダシを少し残す習慣の私が、全部飲んでしまった。

ちなみに、私は少食である。巡礼中はまだしも、通常、昼の時間帯に2軒ものうどん屋さんに行くことは、まずない。その日は異常だった、としか思えない。


《カレーのささやき》

「つるや」に着いたのは1時前だった。最も混み合う時間で、業者が納品すべき時間ではない。最近出来た広大な駐車場に車を止め、時間を潰す。

やがて1時を15分ほど回り、まだお客さんはそこそこいるようだったが、もう納品しても迷惑はかからないだろうと判断し、お店へ。

「ども、毎度ですー」

するとどうだ!手前のテーブルで、友人N塚が「カレーうどん」を食べよるでないの。

観音寺で「カレーうどん」といえば、「まり」と「つるや」が美味いのである。温めたうどんにルーを掛けたのでなく、しっかりと和風ダシのカレーうどん。しかし「まり」は、大将の体調不良で最近は休業(*1) しているため、「つるや」のそれが観音寺一と言っても過言ではない。
(*1)現在は再開してます。

その「つるや」の「カレーうどん」の香りが漂いよるじゃないですか!


う・ま・げ〜!
 
 
日本人というのは、なんであんなにカレーの香りに弱いのだろう。私は、日本人であるがゆえに「カレーうどん」を注文してしまった。考えられないことだが、3食目の昼飯である。


《エピローグ》

恍惚のカレーだしを飲み干し(また、飲み干した)、今夜、飯が食えんかも知れんと思いつつ車に乗ったら携帯が鳴った。会社からである。

「柳川さんが、機械の調子が悪いから、すぐ来てって言ってます」

うわーっ!「柳川」かい!「大豊」の天ぷらがある「柳川」やんかー!もう、絶対に晩飯は入らん。

私は、恐る恐る嫁さんに電話した。

「あのなー、今夜、ご飯いらんきん」

「ええっ?私、昨日から下ごしらえして☆●◎…!」


ううー、頭が痛くなってきた…。
 
 
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