【セルフ店フルコース】

*文体「ゲリ通」風

K音寺に初めて出来たセルフうどん店は「銭形」という店であった。(「超麺通団」P42参照)

ガラス戸を開けて左側にテボが浸かった湯がき場があり、おっちゃんに玉数を申告すると、ヒョイヒョイ(この表現は2玉)と直接テボにうどんを入れてくれる。うどんを暖め、天ぷらを乗せて貰うと、店の中央にあるタンクからダシをたっぷり注ぎ、壁際のカウンター席でネギを入れ、うどんを食べる。シンプル、かつ基本的なセルフスタイルだった。テボから流れ落ちる湯で、丼を暖める方法を会得したのも、この店だ。

天ぷらは「小海老のかき揚げ」のみで、今思えば、程良い固さの大豊水産製だったような気がする。

うどんの値段は忘れてしまったが、なにせ30年も前だから、小で数十円、天ぷらを乗せても百円そこそこだったのだろう。

エコパ「ちょっと待てよ。今の池上とあまり変わらんのと違うか?」
H谷川「時間が止まってるみたいですよねー」
エコパ「……」
H谷川「…?」
エコパ「……」
H谷川「止まっとんですか!」


さて、話は遡って私が高校一年の12月のこと。商店街のイベントで「年末大せいもん払い」というのがあり、何千円か分の買い物をすると抽選券をくれるという、要するに福引きだ。
土曜日の放課後、私は母親からこっそりせしめた数枚の抽選券を持って、抽選会場に行った。一等賞品は、たぶん●●温泉旅行招待とかだったのだろうが、それは高校生には興味がない。狙いは結構当たりの確率が高く、10本に1本ぐらい当たっていた「現金つかみ取り」である。
想像はつくと思うが、前面がガラス張りで上面に丸く穴を開けた木製の箱に、10円玉がたっぷり入っていて、片手でつかめるだけつかんで、それが自分の物になるというやつだ。だいたい1500円ぐらいになった。当時の高校生にとって1500円は大金である。ショートホープ30個だ。

エコパ「ショートホープ『30日分』と言う方がええかな」
H谷川「危ないたとえですねー。高校生ですよ」
エコパ「高校生だから、1日1個。大人やったら2個やから15日分」
H谷川「いや、だから…」

ともあれ、それを見事に引き当てた私は狂気乱舞した。

すでに何人かがチャレンジしていて、1300円程度の人、1800円位の人と様々だ。私は、その差にふと疑問を感じた。これは、ただただ手の大きいやつ程有利。他の要素は何もない!

私は急いで学校に引き返した。手のでっかいやつはいないか?

いたっ!

詫間の安D清和である。こいつの手はでかい。バスケットボールを真上からワシ掴みにして片手で持ち上げることが出来るほどだ。
報酬は「銭形」でうどん食い放題という約束を取り交わし、安Dと面白がりのやつ等3、4人と共に私は再び抽選会場へ向った。

そこでは、いきなり挑戦するのでなく、しばらく観察する作戦に出た。挑戦者がつかんだ10円玉は一旦ザルに入れ、それを係員が碁盤の目のような計数器で数える。マス目1つに10円玉が1個、全部のマス目が埋まると500円、というしくみである。
何人かの挑戦を見るうち、ザルにあけた時点で大体の金額が解るようになった。1500円を基準に、ちょっと少ないと1200〜1300円位。多いな、と思えば2000円近い。

数人の挑戦を観察した後、私一人だけの期待を一身に受け、いよいよ安Dの挑戦が始まった。取り敢えずつかんで持ち上げてみる。さすがに多い。2000円級だ。しかし、彼は満足しなかった。手を放し、仕切り直した。
そして何度目かの挑戦で、安Dはついに「来たっ!」と叫んだ。見たこともない程大きい褐色の塊。3000円級だ!鈴なりになった10円玉。ブドウの巨大な房を想像して欲しい。
それは上部の穴を通らない程だったが、無理矢理引き抜いてザルにあけた。

ガッシャーン!

会場がどよめいた。
「何これー?」
係のおねーちゃんが大笑いしていた。
それは、もう笑うっきゃない2830円という大記録であった。

面白がりで付いて来たやつ等も含めて、我々が「銭形」を堪能したことは言うまでもない。

余談であるが、それから数年後、たぶん大学から帰省した時、再びその福引で「現金つかみ取り」を引き当て、「これまでの最高はいくらか」と聞いたら、「何年か前に、2800円位つかんだ人がおる」という答えだった。その記録は今もって破られていない(はずだ)。

エコパ「さて、いよいよ本題に入るぞ」
H谷川「前振りやったんですかっ?ながっ!」
エコパ「大丈夫、本題も長いから」
H谷川「何ですか、それ」

その頃、私は写真部に所属しており、どこかの運動部からの依頼で試合の記録写真を撮ったりもしていた。
2年生の時、そんな依頼を受け、同じ写真部の荻T照男と2人で高松に行った。何の試合だったかは忘れもしない。

H谷川「忘れてます!」

試合時間の関係で昼をかなり回った頃、腹ペコの私達は1軒のうどん屋に入った。それが人生で2軒目のセルフ店だった。何という店だったかは忘れもしない。

H谷川「だから忘れてますって!」
エコパ「いやぁ、忘れてることを忘れてたなー」
H谷川「はいはい」

高校生だった私は、基本的には公共交通機関+徒歩だから、それほど行動範囲は広くない。まあ、同じような条件で県下一円を守備範囲とする別府くんのような人もいるが、彼はベッカム、いや別格。
たぶん、高松駅とか県立体育館とかの近くの「うどん」という看板の店に、とにかく入ったのである。

瞬間に感じた。ここはうどん屋といっても「柳川」のような店ではない。「まきや」でも「でん助」でもない。「銭形」と同じセルフ店だ。
大丈夫、「銭形」で経験を積んだ我々にとっては楽勝だ。腹ペコ高校生達は、声高らかに「特大」を宣言した。

玉を貰い、湯がく。同じだ。「どうよ!」とばかりに丼を暖めたりもする。

次が違った。

前に簡単に述べたように(えっ、簡単じゃなかったか?)、「銭形」のシステムはシンプルで天ぷらは1種類のみ。
ところがその店には、6種類ほどの天ぷらがあったのだ。

私と荻田は、何の疑いもなく、その全てを乗せてしまったのである。

「若い子は、馬力があるなあー」
おばちゃんに言われて初めて気が付いた。

これはチョイスするもんやったんか!

もうダシをかけてしまったやんか!戻せんがな!
食うしかない。ひたすら食うしかないのだ。

荻田T「うどんが見えん〜」
エコパ「とにかく、天ぷら2、3枚やっつけんと始まらん」
荻田T「いかん、ネギがかけれん」
エコパ「天ぷらの隙間から押し込めー」
荻田T「七味はー?」
エコパ「こうやって天ぷら全体を持ち上げてその下にかけて…、ああっ」
荻田T「何ごとぞー」
エコパ「コロモに吸われてダシがあれへん〜」
荻田T「ホンマじゃ…、うわっ、ゴボ天が落ちたあ!」
エコパ「机の上やが。拾え」
荻田T「ある意味、ラッキーやったのにいー」
エコパ「あーっ、そうやって1枚減らそうと思たんかい!」
荻田T「拾うがな。食うがな」

 エコパ「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」
 荻田T「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」
 エコパ「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」
 荻田T「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」

エコパ「…誰じゃ、特大言うたんわ」
荻田T「こんな状況、予想してないきん、しゃーないやんか」

 エコパ「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」
 荻田T「ズズッ、ズズッ…、ムシャ、ムシャ…」

エコパ「うう、飽きてきた〜」
荻田T「もう、味なんか解らん」

帰りの列車で、私達はトイレの近くに座った。戻すおそれがあったのだ。

エコパ「高松のうどんはキツいのー」
荻田T「しかも高いし…」

当り前だ。セルフ店とはいえ、特大+天ぷらのフルコースは、高校生の腹にも財布にも痛かった。
 
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