MY FIRST バカラ

 『BEN』は常連が集まる店である。バーテンダーのBENさんがひとりでやっている店で、ある意味隠れ家のようなBARである。まわりにはスナックが軒を連ねており、そのなかでは一軒だけ雰囲気がことなる店だった。店の客も『大人』が多く、それが常連を呼ぶのだと思う。

 私もBENさんの本格的なカクテルに誘われて通うようになったひとりだが、とまりぎによくみかける人がいた。街の開業医で、もちろんこの店の常連のひとりだった。彼は当時40代ぐらいだっただろうか、ひとりで飲むことが多かったように思う。

 ある夜のこと、その客は何杯か飲んだのち、BENさんに『じゃあ、あれを』と頼んだ。するとBENさんは背後のグラスの棚から小さな箱を取りだした。

 いわゆる『マイグラス』である。

 丁寧に包まれているグラスをみて私は『え〜バカラとか〜?』と冗談を言ってみたのだが、それは本当にバカラのタンブラーだった。シャープなカットのタンブラーで、定番のものである。どうも特別な酒はそのグラスで飲むというこだわりらしい。当時20代前半だった私は、大人の酒の楽しみ方に『やられた!』という気分になったと同時に、その粋な飲み方に憧憬の念を抱かずにいられなかった。

 そして今、私はまだ自分自身の『バカラ』を用意できずにいる。やはりそれにふさわしいと自分を認められたときでなければ、まだ手にしてはいけないような気がする。はたしてあと何年かかることか・・・。

 

chiekony@td5.so-net.ne.jp

MENU