“マイルス・デイビスの夜”

 私が以前住んでいた三沢市(青森県)は米軍基地の街である。ここにはアメリカン・サイドとジャパニーズ・サイドがある。はっきりと区別があるわけではなく、なんとなくのエリア分けである。米軍基地のメインゲート前の飲み屋は当然アメリカン・サイドとなる。米軍向けのBARが多くこのあたりではドルだって使える。客の半数以上がアメリカ人、日本人の多くが自衛隊という特殊なエリアである。以前『Chie's Special』について書いたことがあるが、そのBAR『Forever』はメインゲートのすぐ前にある。今も健在のBARである。

 このエリアには中塩小路という細い路地があってその路地の両脇には昔からのBARが並んでいる。英語ではBack Alley。そこに『Colors』という日本人が経営するBARがあった。オーナーのAさんは『Forever』のオーナーとも友達で店を開ける前や閉めた後に『Forever』にきていた。『Forever』にしろ『Colors』にしろあの米軍基地独特の雰囲気がある。英語と日本語で手書きされたメニューが壁のあちこちに貼ってある。ビールや酎ハイが主なドリンク。だいたい一杯500〜700円でチャージなし。『Forever』はクラブ帰りの白人が多く、ロック好きがたむろしている。土曜や日曜の明け方はヘビメタルがガンガンかかっていたりする。酔っぱらいがいっぱいいるのでケンカに巻き込まれないようにしなくてはならなかったりもする。

 それに比べ『Colors』はのんびりとした店だった。どちらかというとAさんの趣味の店に近い。客も少ない。でも私にはなんとなく居心地のいい店であった。

 そのときどきの音楽をかけ、ビデオを流していた。すでにハシゴしたあと『Colors』にふらりと立ち寄ってAさんと音楽談義などするのが楽しみだった。ここでは私は市販のワインクーラーなどを飲んでいたと思う。その他インスタントのコーヒーやインスタントラーメンを置いている不思議なBARだった。

 Aさんとは80年代の洋楽から佐野元春までいろんな話をだらだらとしていた。ウゴウゴ・ルーガのビデオをかけながら酒を飲ませてくれるBARなんてそんなに多くはないだろう。マイルスを薦めてくれたのも彼だった。

 ジャズを聴くならマイルスからはじめてみたら、といってマイルスのCDをかけてくれた。そうすると店の中はジャズ喫茶の雰囲気にかわった。マイルスのトランペットにはそんな魔法があった。明け方酔っぱらいどもが帰路につく頃私はまだ家に帰れず安い酒を飲みながらJazzの心地よさに浸っていた。

 『Colors』は数年前に閉めたそうだ。今Aさんは私の生まれ故郷八戸でフィギュアなどを扱うコレクターズショップみたいなものを開いている。これはこれでAさんらしいとしかいいようがない。昔マイルスを薦めてくれたようにチョコエッグを熱く語っているのはいささか奇妙だが、そんなふうに自由に生きているAさんがうらやましい気もするのだ。

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