私は気に入ったものがあると人に勧めることが多い。だから良い店を見つけるとまた別の友人を連れて行くことが楽しみのひとつである。エスニック料理が定着しつつある昨今(だいたいにしてエスニック料理という名称もいかがなものか、とは思うが)、『サングリア』は珍しいものではなくなった。私はスペイン料理の店に行くとそこの店のサングリアを頼むのが常である。もちろん自家製のサングリアでなくては納得いかない、と『なんちゃってグルマン』の私は豪語するのだが、ことサングリアに関しては“うるさい”かもしれない。ホンモノの『サングリア』がどんなものか、スペインに行ったことのない私は知る由もないが、私の大好きな『サングリア』は『“サングリア”のサングリア』である。
ややこしいのは重々承知だ。でも『サングリア』という店名なのだ。
残念ながらこの味を今日本で味わうことは不可能である。もともと旅行好きなオーナー夫婦は、店を閉め、今海外に住んでいる。もともとブラジルの新聞社で長く勤めていたカメラマンのご主人は、大学で商業写真を教えているらしい。店を開いていたときも年に一度冬の一ヶ月間店を休みにして、海外旅行を楽しむ夫婦であった。写真にも興味のあった私は彼らの店でサングリアを飲みながら旅行の話や写真の話をするのが好きだった。田舎町にもかかわらず集まる人々はどこか芸術的な雰囲気もあったし、店内の壁をフリーのギャラリーとして提供しているのも、その街では珍しいことだったと思う。そのサングリアの味がときどき恋しくなるのだ。