
今月のインタビュー(「東京かわら版」平成11年11月号)
●今月のゲスト <全日本焼きとん愛好会>橘家文吾・春風亭昇太・なぎら健壱
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読者のみなさんは「焼とん」という食べ物をご存知でしょうか。
カシラ(頬肉)・ハツ〔心臓)・ガツ(胃)・シロ(腸)・レバー(肝臓)などの豚の内臓を串に刺して、塩やタレを付けて焼いたものを総称して「焼とん」(または「もつ焼」)と言います。
聞くところによると、豚という動物は野生のイノシシを人間が家畜として飼育するようになって、初めて誕生した動物だそうです。つまり、人との関わりが深い動物と言えるでしょう。しかし「豚」という言葉は英語や仏語で侮辱的な意味にも使われています。
これを悲しんだ?落語協会の二ツ目・橘家文吾さんが「全日本焼とん愛好会」を旗揚げしたのが、三年ほど前のことです。諸事情で活動を休止しましたが、この度、本格的に活動を再開する運びとなりました。
当初からの会の役員であるシンガーのなぎら健壱さんと、落語芸術協会・真打の春風亭昇太師匠にも集まっていただき、焼とんへの熱い想いを語っていただきました。
「志の低さ」に共感
―― まずは、発足のきっかけを会長である文吾さんに伺います。
文吾 知り合いの人に連れられて打ち合わせのために焼きとり屋に入ったんです。店の看板に「高級店」って書いてあるような店なんですよ。そこで「タン・ハツ・カシラを塩で。それとシロを……」って注文したら、店の奴が「うちはそんなゲスなものは置いてません」て言うんですよ。
―― ゲスって言われたんですか。円生師匠みたいですね。
文吾 さいでゲス――って、そのゲスじやありません(笑)。確かに焼とりは美味いですよ。だけど内臓をゲスなものだなんて差別することはないじゃないかと。そこで世間の方々の焼とんに対する誤った認識を改めていただこうと。差別と断固戦っていこうということで、始めたわけです。
―― そこで、お仲間の噺家さんに声をかけたんですね。
文吾 そうです。焼とんと言えば酒、酒と言えば焼とんですから、まずは酒好きの呑んべえな噺家に声をかけました。
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―― 噺家以外の方で、なぎら健壱さんのお名前が挙がっています。なざらさんはシンガーとしては勿論ですが、ラジオ日本の午前中の番組でパーソナリティをなさったりタレントとしても活躍中です。なざらさんとのお付き合いは……。
文吾 私が二ツ目になりたての頃ですが、TBSテレビの深夜番組で「ヨタロー」という番組がありまして、若手落語家の一人として私も出演してました。そこでご一緒させていただいてから可愛がっていたださまして。やはり、焼とんは庶民のための気どらない食べ物ですから、その辺のことに詳しいなぎらさんに、ぜひアドバイザーとして参加していただこうと思って、お声をかけました。
―― なぎらさん、文吾さんからこの会のお話を聞いて、いかがでしたか。
なぎら まあ、売名行為だなと(笑)。焼とんというものに便乗して自分たちの知名度を高めようとする、安易な売名行為なんだなと。それじやあ他の会員と同じ扱いでは嫌だから何か肩書きを付けてくれ、ということで「名誉顧問」(笑)。
それと、蕎麦をたぐろうとか、寿司をつまもうとか、鰻を極めようとかいうことなら断ったでしょうが、世間から少々低く見られている焼とんというものに愛情を注ごうという、この「志の低さ」に共感しました(笑)。
―― 昇太師匠は副会長という肩書きですね。
昇太 最初は名誉顧問だったんですけど、知らないうちに副会長ということで(笑)。果してこれは、昇格なのか降格なのかということが、まったく判らないんですけど。
なぎら あっ、いま気付きましたけど、私も名誉総裁になってるようです(笑)。
昇太 私は、まずこの「全日本焼とん愛好会」という名称に惚れたんです。人に「昇太さん、最近は何か面白いことやってますか」と訊かれた時に、この話題だけで十五分は大丈夫かなと・・・・・・。よく判らないけど楽しそうな集まりなんじゃないかというこの名前の響きに惚れました。
なぎら あれっ、芸術協会辞めちゃったの?
昇太 辞めてませんよ・・・・・・・(笑)
なぎら 焼とん愛好会一本に賭けるのかなと思ったよ(笑)。
―― この会の名称は文吾さんがお考えになったんですよね。
文吾 はい、私です。
なぎら 安易ですね(笑)。
昇太 ひねりがないですね(笑)。
文吾 色々考えたんですよ。「内臓研究会」とか。いずれにしても得体が知れない名前に違いないんですけどね。
楽しく呑んで食べて
―― みなさんが最初に「焼とん」というものを意識なさつたのは、いつ頃でしょうか。
昇太 東京に出てきてから初めて食べましたね。前座の頃で、お金のない頃ですよ。仕事帰りに……確か池袋でしたね。焼とんのあの手軽さと店の雰囲気が、その頃の自分に合ってるなと思いました。焼とんを焼いてる煙の向こうに未来の自分を見ていた――とでも言うんでしょうか。今でも焼とん屋の煙を見ると前座時代の自分の姿を想い出しますね。
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文吾 現在の自分があるのは焼きとんのお陰ということですか。
昇太 そうは思わない(笑)。
文吾 私は子供の頃から食べてましたね。親父が夜中にお土産で買ってきた焼とんを、翌朝、ご飯の上に乗っけて食べてました。
なぎら 私は、まず焼とんから入ってますからね。小学生の頃に母が鳥を買ってきた時に「こんなものを食う奴がいるのか」と思いましたね。「まず焼とんありき」ですから(笑)。
昇太 総裁は違うなあ。骨格がしっかりしてるもん(笑)。
―― この愛好会は、具体的にはどんな活動をなさってるんでしょうか。
なぎら これから何をやっていこうかということを、集まって呑みながら、焼とんを食べながら話し合っているところです(笑)。
文吾 三年ほど前に池袋演芸場で決起集会を開いたことがありました。沢山の方に来ていただいて、打ち上げも焼とん屋でやったんですが、五十人ぐらいの人が参加して酎ハイが三百杯以上・・・・・・。店の人も途中で数えるのを諦めちゃつて、お勘定は三百杯分でいいや、ということにしてくれて。
昇太 私もなぎらさんも、決起集会に出演したんですけど、よく覚えてないんです(笑)。まあ、今後も楽しく呑んで食べられればいいなと(笑)。
焼とんかわら版
――「全日本」と言うくらいですから、やはり活動は全国展開を目指しているのですね。
なぎら 「世界」です!!
文吾 まずアジアからですね。
なぎら そう、お隣の国「韓国」からですね。本場ですから。
昇太 本場なんですか(笑)。
なぎら 多分(笑)。
―― こう申し上げては何ですが、あまり内容が見えてこない団体のように感じるのですが。
昇太 それはまさに、焼きとんの存在と同じように「何ものなのかよく判らないもの」ということですね。
―― はっさり言わせていただくと、ただ集まって呑むための会ということですね(笑)。
昇太 それが理想です(笑)。
なぎら まあ、みんなで痛風になろうと(笑)。
文吾 勿論、楽しく呑んだり美味しい店を探したりもしますが、会報を発行して焼とん好きな人達との情報交換もしたいですね。
なぎら 夢は『東京かわら版』よりも厚い会報を発行することです。
文吾 『焼とんかわら版」(笑)。
昇太 今は我々芸界の人間が中心で活動してますが、一般の方々にもどんどん入会していただきたいですね。ただ現在は例えるならば、まだ串に内臓を刺してるところで、タレにしようか塩にしようか焼き方も色々と考えているという状態なので、今後、歩みながら内容も決めていこうかな、というところです。一般の会員の意見も参考にして「内臓だけに腹を割った話し合い」が出来る会にしたいですね。
―― 上手いまとめですね。昇太師匠は古典(落語)の人だったんですね。
昇太 ちゃんと修業してますから(笑)。
キミちゃんの居る店
―― 焼とん好きのみなさんがイメージする「通いたくなる店」とは、どんな店でしょうか。
なぎら やはり「構え」がよくないといけませんね。そそる構えでないと。
文吾 全体が茶系の色ですよね。
昇太 壁が茶色で、カウンターが茶色ってことですかね。
なぎら で、親父も茶色(笑)。焼とんばかり食ってるとこうなっちゃうぞ、という見本のような、茶色。
文吾 肝臓が悪いんですね。
なぎら それと、親父が焼いてる横で身体の弱い娘さんが黙々と串にモツを刺しているという図が泣かせるじゃありませんか(笑)。
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―― 身体が弱くないといけないんですか。
なぎら でないと飽きちゃうから(笑)。
昇太 娘でなく奥さんでも可、です。
なぎら 二時間ほど呑んでる間に、この娘さんは、ひと言も喋らない。時々親父に「キミコ! 早くしろ!!」なんて怒られたりする(笑)。
文吾 なんでキミコなんですか!
なぎら だいたいキミコって名前が多い(笑)。
昇太 店の裏には一度もブラッシングしたことがない犬が居たりしますね。客の残り物を時々もらったりして。
なぎら その犬も、痛風(笑)。
文吾 時々姿が見えないと、客同士が、「煮込みの味が変ったようだけど、まさか……」って噂する。
なぎら そこへ散歩から犬が帰ってきて、客が「あ−、よかった」って(笑)。
文吾 焼とん屋では、よく会社帰りのサラリーマンが一人で呑んでますよね。カウンターで新聞を広げて。あと、かならずテレビが置いてあって野球中継堆かなんかを放送してて・・・・・・。
なぎら そのテレビの下には、キミちやん!!
一同 (爆笑)
昇太 こういうお店があっても女性の方は一人では入り難いと思いますけど、愛好会に入会していただくと、我々がご案内して差し上げるということですね。
文吾 会員証を親父に見せると大騒ぎですね。
なぎら あらら、たいへんな方が来ちゃつた……なんて言われますよ。
―― 会員証を見せると何か特典があるんですか。
文吾 ……いや、これからそうありたいと(笑)。
昇太 ゴールドカードを発行したり。
なぎら とにかく若い女性の方々は自分のおとうさんが普段どんな所で呑んでいるのかよく知らないから、入会していただければ我々がそれを教えてあげようと。たいがいのおとうさんは、焼とん屋のテレビの下に座って、テレビを観ながら呑んで、CMになるとキミちゃんの顔を見て「そろそろ毛は生えたのか」なんて話しかけてます(一同・爆笑)。でも、キミちゃんは黙々と串にモツを刺してる(笑)。
―― キミちゃんに会いたくなりますね(笑)。今後も活動に注目しています。今日はありがとうございました。
(聞き手・構成・写真=北村真澄)
