
焼とん座談会
僕らは焼とんに真剣だ!
三遊亭円龍 落語界きってのグルメ。著書に「下町人情味処(山と渓谷社)」がある。
春風亭勢朝 自称B級グルメ。たまに赤羽の絨毯パブにいる。
橘家文吾 全日本焼とん愛好会会長。たまに浅草のキャバクラにいる。
北村真澄 社団法人落語協会事務員。たまに本業の予想屋もやる。
秋風がちょっぴり肌に冷たく感じる焼とん日和。 西武新宿線椎名町駅前にある老舗の焼とん店「カド」にて シャイな焼とん好き4人がなにやらひそひそ話を始めたぞ・・・
北村 円龍師匠は初めての焼とんはいつ頃ですか?
円龍 うーん・・・いつごろかなぁ・・あ、そうだ、
初めて食べたのは上野のガード下「大統領」
勢朝 あーーはいはい。有名ですよね、あの店は。
円龍 あれは古い話だねぇ。いつ頃だったかなァ・・俺が高校ン時だと思う。
二才上の兄貴がもう働いていてね、そん時連れていかれたんだから・・・
文吾 じゃぁ、もうかれこれ・・・
円龍 30年ぐらい前だね。上野の大統領自体はもっと古いはずだよ。俺が新聞配達している頃から合ったもん。「なんだこの食い物は?」って
思ったよ。第一噛み切れなかったもん。固くて固くて(笑)
文吾 串一本食べきるのに何十分も掛かる訳ですね。安くすむなぁ(笑)
北村 勢朝さんは?
勢朝 私はこの店(椎名町カド)が初めてです。と、言うのも師匠柳朝がここの常連でね。よく連れてってくれたんだ。もう感動モンでサ。
世の中にこんなうまいモンがあったのかってネ。
円龍 俺の初体験とは偉い違いだ(笑)
文吾 僕はね、子供の頃おやじが酔っ払って帰って来るとお土産が焼とんなんだ。ワァーって家族が群がってゆくと母親が『寝る前にそんなモン食うな』ってんで怒られちゃうからしぶしぶ寝ちゃう。でも次の日の朝飯にはほっかほかの丼の上にカシラやシロ、レバがタレでびちゃびちゃになっているのが乗っかっているの。そんで母親が『さぁ食べな』って(笑)
北村 焼とん丼だ。
文吾 そうそう、それでやっぱりシロなんかは固くてなかなか飲み込めない。クチャクチャ噛みながら朝登校したのを覚えているなァ
北村 私も文吾さんと同じで子供の頃から食べてたけど私の場合は自分で稼げるようになって初めて酒呑んだのが焼とん屋でして・・・
勢朝 落語協会に就職して初月給が焼とん屋?
もうちょっといい所で呑みゃいいのに(笑)
北村 いや、もっとそれ以前。高校時代かなァ。バイトで稼いだ金だったと思う。一人でその金持ってすぐ近所の焼とん屋に入ってホッピーと焼とんを注文したんだ。今考え見ると早く大人の仲間入りしたかった時期だね。それで呑んで食って「はい勘定」って金払ったらこれがまた安いんだ。
またそこであらたな感動を覚えたねぇ(笑)
円龍 それはあるよね。値段がいいのが良い!
勢朝 ねぇ円龍師匠。やっぱり焼とんの発祥は大阪ですかねぇ? ホルモン焼きとか・・・
円龍 うーん。そうだろうね。大阪のほうが食文化は進んでいたから。
文吾 なんであれホルモンって言うのだろう?
円龍 あれは当時内臓なんて要らないってんで捨ててたんだ。みんな放って置いたんだねぇ、それで『放るモン』から『ホルモン』になった。
勢朝 要らない物なら『イラン焼き』でも良かったんだ。
文吾 『ホメイニ焼き』とか
北村 そんなモン食いたかないよ(笑)
勢朝 でも歴史から言えば肉食文化は外国でしょ?
円龍 これは決定的な差だね。肉を食する習慣が日本人には無かったからなァ
文吾 南米山奥のアボリジナルとかが狩りに出かけると捕まえた獲物の内臓を矢じりに巻き付けて火であぶって食う習慣があるんだって。
北村 内臓だけなの?
文吾 うん。狩りに出かけると何日も家に帰らずにまとめて獲物を獲っちゃうの。だから腐り易い内臓は先に食べて肉の部分は家族に持って帰る。
勢朝 じゃあ妻子はまともな肉食べて肉体労働した亭主は内臓なの? どこの国でも男はこき使われるだな。
文吾 こないだ古い本に面白い事書いてあったなァ。明智光秀が戦場において兵隊達に四つ足動物の内臓を食わせていたんだって。少量でもスタミナがつくし飢えも凌げるってんで随分重宝されたらしい。後に明智は信長に大変誉められた。
勢朝 焼とん食べるは昔明智で今ドケチ!(笑)
円龍 戦国時代・・いやもっと前からそういう事はあったんだと思うよ。だってほら鎧兜を作る際には動物のまぁ主に牛だったんだけどそれらの皮を使うでしょ。そうすっと、肉と内臓が残るでしょ
。それを捨てないで塩漬けとか味噌漬とかにして保管しておいて食っちゃう。あまり公にはしなかったみたいだけど。
北村 四つ足だからですか?
円龍 そう。当時彦根あたりの牛の皮が良いってんであそこらで鎧兜を作っていてね。残った物は大阪の商人が目をつけて安く仕入れて薬としてみんなが食べた。でも庶民は口にする事が出来なかった。
北村 高くて?
円龍 いやそうじゃなくて、やっぱり四つ足ってんでね。あーゆー下品な物は口にしてはいけません!って感じ。でも山奥じゃ隠れて猪をとっ捕まえて食べてたからね。役人に見つかっても「あれは鯨でございます。山に居る鯨を食べておりました」ってんでごまかしゃう。「おまえウサギとって食てたろう」って言われても「そんな事はございません。あれはピョンピョン跳ねる鳥でございます。」って(笑)
勢朝 あーだからうさぎを勘定する時は一羽二羽なんだ。
勢朝 なぜ焼とん愛好会なの?
文吾 (笑)それはですねぇ僕の認識不足からなんです。
勢朝 文吾の行動は認識不足と常識外れが多いからね(笑)
文吾 ある雑誌社との打ち合わせで西麻布の「高級焼き鳥店」と銘打った店に入ったワケ。まぁ一杯呑みながら打ち合わせって事なんだけど僕はメニューを見ずに「えーっと焼き鳥、砂肝、レバ、タン、シロと・・」って何気なく注文したの。そしたら店員が嫌な顔してね「ウチは焼き鳥の店です。そんなタンだのシロだのゲスな物は焼いておりません」ってきっぱり言われちゃった。
北村 ゲスなって言われたの?
文吾 そう。それはその店のメニューに無い物を注文しちゃったんだから非は僕に有るんだけど、同じ串仲間でそこまで言うか?ってんで
勢朝 その店員殴った?(笑)
文吾 (笑)殴りゃしないよ。けど不満そうな顔してたら店員が察したのか「ウチの品物は南部地鶏のより優れた、より吟味された部分を備長炭で丁寧に焼きあげ秘伝のタレに付けお客様にお出ししております。串も串職人が一本一本丁寧に削りあげた物でございます。当然ながら唐辛子も『やげん掘』でございます」てんで鼻高々なわけ。自分とこの商品を自慢するのは結構な事だけど何か僕の心に火が付いたね。
北村 それで店にも火ィ付けた(笑)
文吾 口には出さなかったけど二本足だろうが四本足だろうが串刺して焼いてるもんには変わらないだろう。現に姿形は変わんないんだから(笑)
内臓がいけないってんだったら鶏にだってレバ、砂肝があるんだからさ。足の数が違うってだけでやっている事はたいして変わらないじゃないかっ
北村 これは明らかに差別だと・・・
文吾 うん。でもねこんな世の中なんだから差別は有って当然。そんな事は問題じゃない。でもね、差別してるんならされているモンからの見返りは覚悟しておけよって
勢朝 それで店に火ィ付けた・・・
文吾 (笑)だから付けてないって!
北村 じゃあ事の起こりは奴隷根性から始まった(笑)
円龍 でも解るね。その焼き鳥屋に限らず全般的にいつのまにかに焼き鳥屋って高級志向に走っているよね。そこで反旗を翻した訳か。
文吾 ええ、そうなんですけど愛好会を作ったまではいいんですが、なにをどう活動して良いものか・・・
勢朝 愛好会っていうんだからただ焼とんを愛せばいいんじゃない?
文吾 そうバクゼンとしたものじゃなくて、具体的になにをしていいのかって・・・
円龍 まず賛同者を増やす事ですな。
文吾 ええ。それで僕の周辺にいる酒飲みにこれこれこういう事なんだけどって恐る恐る切り出したんです。そうしたらこれがなんと以外や以外。大変な反響があったんです。
北村 袋叩きに合ったとか?(笑)
文吾 (笑)いやその逆。みんなが涙流して喜んでくれて「よくぞやってくれました。ともに戦おう」って。それが一人や二人じゃない!
円龍 焼とんファンは、みな相当コンプレックスが有ったんですな。それは焼とん業界からも反応は有ったんですか?
文吾 いや、焼とん屋さんの方々には実はまだだれにも話していないんですよ。
勢朝 日本中探せばどこかに焼とん愛好会みたいなサークルがあるんじゃないの?
北村 妙な派閥が出来ちゃったりして後で揉めたりなんかしてね。
文吾 でも仮に日本全国探して同じようなサークルが合ったとしても
、焼とんを愛好する事には変わり無いわけですから、派閥が有っても争うんじゃなくして競い合う姿勢でおりますので心配ないと思います。
円龍 なるべくなら敵は作らないほうがいいですからね。
文吾 同士を増やせば自然とそれは組織になります。組織の発展を願うなら逆に敵を作らなければなりません。良きライバル的なものを・・・
勢朝 そうだね。長島には村山、力道山には木村、そして韓国には北朝鮮・・・。じゃあ当面の敵は焼き鳥だな?
文吾 それは考えたんだけど向こうは元々お高くとまっている輩どもですから、こちら側も最初っから焼き鳥は無視しようと思っているのです。そこで、ちょっと視野を変えようと・・・。考えてみると焼とんって元祖ファーストフードですよね。
北村 見方によればね。
文吾 ですから、今現在庶民に愛されているハンバーガーやフライドチキンが当面の敵となるわけです。
円龍 横文字ファーストフードに追いやられた焼とんの逆襲ですね。
勢朝 じゃあ「ケンタッキーフライドチキン」に対抗して「エリザベス女王焼とん」とか(笑)
北村 でも変に横文字使ったり、ミーハー的な物に走らなくってもいいんじゃない? そもそも焼とんって内容は濃いんだからさ。この精神は元々面白い落語界および落語そのものにあい通ずるね。
勢朝 良い仕事するわりには陽の目を見ないところなんてそっくりだね(笑)
北村 うまい・安い・早いって点では吉野家の牛丼なんかも共通点があるね。
文吾 そうですね。考えてみれば大手のファーストフード全部敵に回すのは骨折りですね。
円龍 もっとも、それこそ向こうは相手にしてくれないでしょうけどね(笑)
