それはとある夜のことでした・・・
雨音を想像させるピアノの音とともにカレンの優しい声が店に響きだした。
「Why do birds suddenly appear?♪〜」
窓の外を眺めながら口ずさんでみる。
時計は日付変更線を越え、雨はまだ降り続き、
さらに月曜日ということで店の中には女性客二人を残すだけになっていた。
「Wow〜Close to you♪」
「側にいたい!!って願っても思うようにはならないよね」
「そうね、こっちはいくら想ってても通じないものよね」
彼女たちの前にはワイングラスが2つ並んでいたが、
どうやら祝杯というわけではなさそうだ。
「Nothing ever seems to fit
Hang it around
Nothing to do but frown
Rainy days and mondays always get me down♪」
カレンがメランコリックに歌い上げる。
「相手のことを想ってるからってこっちのことを
想ってくれるとは限らないもの・・・」
「そうよね・・・でも、愛に見返りを求めちゃダメだって分かってるんだけど・・・」
「そう考えると、ホント、何をやってもうまくいきそうに
ないって思っちゃうよね」
「特に雨の日とか、月曜日とかね」
「今日は雨の月曜日・・・何をしても憂鬱よね」
彼女たちの前にはため息ばかりで、
グラスの中の赤い液体は、半分からなかなか減る気配を見せない。
「All my best memories
Come back clearly to me
Some can even make me cry
Just like before
It’s yesterday once more♪」
まったく、CDのランダム演奏というのはうまくできているものだ。
こういうときに限って
ストーリーを演出するような順番を繰り出してきたりする。
「イヤだと思っていても、いざ別れてみると寂しいのよね」
「そうそう、良いことばかり思い出しちゃってね」
「戻りたいと思っても、もう後の祭り・・・」
「自分がイヤで仕方がないわ」
「はぁ〜・・・」
そろってのため息に、
心なしか二人からごちそうになったビールが苦味を増したように感じる。
愚痴はただ聞き役に徹するに限るが・・・
そろそろ限界か、
と思っていると
「ねえマスター」
「あ、はい」
窓際を離れ、急いで二人の前に戻る。
「愚痴、聞こえてたでしょ?
今夜の私たちになんかカクテル、作ってくれない?」
「かしこまりました」
私は、フルートスタイルグラスを2つ取り出し、
キューブアイスを入れ、
テキーラとオレンジジュースを注ぎ、
軽くステアした。
そして、最後にゆっくりとザクロの太陽を沈めた。
「テキーラサンライズ?」
ひとりがちょっと戸惑った様子で尋ねた。
「はい。どんなに嘆いたりぼやいたりしたところで
誰にでも朝は来ます。
ならば、せめてきれいな朝焼けの下で
一日の始まりを迎えたいではないですか。
そう思ってお作りいたしました。」
私はそう言うと、グラスを二人の前に進めた。
「そうよねぇ・・・結局また朝が来ちゃって、
で、また自己嫌悪の繰り返しなのよね」
「いつまで経っても変わらないのよねぇ」
「なんか、さらにイヤになっちゃうわね」
私は心の中で「シマッタ!!」と叫んでいた。
どうやら、私のポジティブなチョイスは、
二人には逆効果だったようである。
今更ながら自分のセンスの無さを呪う。
「あ、いや、そうじゃなくて・・・」
私が必死に弁明しようとした瞬間、
再びカレンの声が聞こえてきた。
「So it’s one more round for experience
And I’m on the road again
And it’s going to take some time this time
And I can’t make demands
I’ll learn how to bend♪」
「でも、これもひとつの経験として
自分の人生にいかさないといけないのよね」
「私たちもそろそろしなることを覚えないとね」
「じゃあ、二人の新たな旅立ちに乾杯!」
私はホッとして思わず微笑んでしまった。
最後までランダム演奏にやられるとは・・・
いつの間にか雨は止み、
空はまもなく朝焼けを迎えようとしていた。
Songs by the “CARPENTERS”
♪ (THEY LONG TO BE)CLOSE TO YOU・・・1970
♪ RAINY DAYS AND MONDAYS・・・1971
♪ YESTERDAY ONCE MORE・・・1973
♪ IT’S GOING TO TAKE SOME TIME・・・1972