美緒の気まぐれエッセー

赤い扉の共同便所

飲み屋に生まれた宿命か。それともかえるの子はかえるか。
美緒、二軒目小茶のやとわれママとなる。
嫌だったナー。
父の酒乱がすっかりトラウマになっているのに、マッチ箱のような店の、こしかける所もないカウンターでの12時間労働は、苦痛以外のなにものでもなかった。
お客は小茶のおばちゃんに一言もさからえないので、その仕返しか、若い私をおだてておいて、瞬時にドーンと奈落の底へ突き落とすようなことを言う。うれしそうに。
私ときたら赤くなったり、青くなったり、くやしさとはずかしさに、とっさに言葉が出てこない。
そんな時、赤い扉には、ようお世話になりました。
それはこの三番街という50軒くらいある飲み屋の、2つしかない共同便所なのです。
もうダメっとおもった時、赤いトビラにかけこみ、ためこんだ涙をおしっこと一緒に、便器の中に流したものです。

今考えると、あれも洗礼。
そして今があるのだと、あの赤い扉が懐かしい、と、笑って言える年になったようです。

NEXT