美緒の気まぐれエッセー

パッチワークの女

 又、こんな事もあった。
 10年くらい前の夏の話。
 お客がなかなか帰らなくて、店を閉めたのは朝5時をまわっていた。
 つれこみホテル街にある店なので、外に出ると数組の男女がけだるそうに歩いていた。
 少し行くと、群をなした大きなカラスがゴミの山をつついている。どんよりした太陽が、ビルの合間から顔を出している。
 酒と魚の臭いのしみついた汗が、どっとふき出してきた。

 駐車場の脇から、中年の女性が声をかけてきた。遠慮がちに小さい声で、
「5円でも10円でもいいからください」
 腰が90度に曲がっていて、丈は1メートル30センチぐらいだろうか。白髪のまじった髪を無雑作に束ね、コーヒーの麻袋の布に、パッチワークでもしたかのような服を着て、重そうな荷物をひきずっていた。
 私は電車賃にとにぎっていた150円を、なんの躊躇もなく手渡した。その時、色白のシワのない手の平が見えた。
 うー、してやられた。芝居だったのか。
 もしかしたら、ちゃんと家もあり、帰ればきれいな洋服に着替えて、普通に生活している人かも知れない。そう思ったら、しゃくにさわったのです。

 ところが最近、その女性を発見。やはりホームレスでした。
 新宿紀伊国屋の地下道や、マイシティの地下街の人混みの中で、のんびり横になっているのです。パッチワークの服はさすがに着ていないけれど、やっぱり今どきホームレスの人も着ないボロボロ身なり。新宿ならお水のお姉さん方のきれいな服が、そこここに捨ててあるのに、趣味なのかも知れませんね。

 私はといえば、買い出しの重い荷物をリュックに背負い、彼女の前を足早に通り過ぎ、店へと向かうのです。

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