美緒の気まぐれエッセー

「お仕事しましょうね」

 若い頃の私は、ほとんど自分の力でお金をかせいだことがなかった。いわゆる、スネっかじりの内弁慶。

 ある日、スナックのバイトをしないかとゆう話がきたので、ひきうけた。東京郊外の田舎くさい店だった。
 30代のママと、40代の夫兼マスター、女の子と私。すぐに名前が決められた。「ミオ」なので、「ミミちゃんで行こう」と。
 まだ歌詞カードを見ながら、カラオケを歌っていた時代。
 野暮ったい客が、「銀座の恋の物語」をリクエストし、デュエットの相手に、ニューフェイスのミミちゃんが抜擢された。
 店は盛り上がった。しかし、私は名前がついたばかり。それにカラオケは一度も歌った事がなかったので、当然のように断った。
「できませーん。歌えませーん」
 するとマスターが、笑顔で言った。
「さあミミちゃん、お仕事しましょうね」
 低い、優しい声で。
 血の気がサァーッと引いていった。脳天を一撃された感じがした。
 震えながら、それでも私はピシッと大きな声で歌った。

 お金をいただくとはどうゆう事か、その時気づいた。
 あれからもう30年、マスターさん、ありがとう。

ミミ

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