鉄火場
天国のお母ちゃん、お元気ですか。
生活力のない夫をもって、お母ちゃんは家を出ましたね。
淋しくても、学校の給食費が遅れて先生に叱られても、私は感情を表に出さない子になっていきました。
ある時どうしても逢いたくて、父に内緒で、柏木(現在の北新宿)のお母ちゃんの住んでいるところへ一人で行った事、覚えてますか?
お母ちゃんは広い座敷で、花札をやっていましたね。大勢の人が向かい合わせに、座布団をはさんでずらっと並んでいました。(今思うと、あれが鉄火場という所でしょうか)
「みよちゃん、よく来たねー」
縁側に出迎えてくれたお母ちゃんは、小さな私を隣に座らせて、何度も何度も頭をなでてくれましたね。
周りのお兄ぃさんや姉さん達は、
「ホイキタ チョーサン マッテタ・・・」
お互いにかけ声のような言葉を言い合って、真剣に札を見ていたっけ。
お母ちゃんは両手に持った札を私に見せて、
「どの札を取る?」
って聞いたこと、覚えてる?
一瞬戸惑ったけど、この状況はいつまでも愚図愚図してはいけないのだ、と子供ながらに思った。
黒い山に真っ赤な太陽が照っている札がきれいだったので、私は「これ」って、指さした。(あれは月だそうですね)
お母ちゃんはその札を、座布団の上に広げてある札にパチッと強く当てて、又何か手品みたいにしていました。そして上機嫌で、
「みよちゃんはすごいねー。いい子だねー」
なんだか知らないけど、お母ちゃんに誉められて、私も嬉しかった。
花札の1年とかが終わって、お母ちゃんの部屋に戻りましたね。
入り口の戸は障子で、2畳間にはぽつんと布団だけが淋し気においてありました。まるでタイムスリップした時代劇のようだった。
そして私は手作りのごちそうと、愛を、お腹いっぱい詰め込み、帰路へと急ぎました。
帰りが遅くなり、父にどこに行って来たのかと、しつこく聞かれたけど、がんとして口を割らなかった。お母ちゃんと私の秘密です。
みよちゃん
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