美緒の気まぐれエッセー

終電間際のおかしな人達

その2 待ち人来たらず

 新宿駅構内の切符売り場のフロアに、いつも1人立っている人がいました。
 終電間際の駅は、嬌声をあげる若い男女や、酒でくだ巻くサラリーマンでごった返しています。その人は、ざわざわと流れる人波の中で、じっと改札口を見ていた。
 年は40才位。身長高からず、低からず。色浅黒し。
 俳優だったら、往年の木村功。少し渋めです。
 黒いズボンとワイシャツ。でもパリっとはしていない。少し薄汚れた感じがした。
 一体誰を待っているのか不思議でした。

 そんな彼の前を通り過ぎる1年が過ぎ去ろうとしたある日、私はあっ! 心の中で叫んだ。
 彼は女性に変身していたんです。
 黒いシースルーのブラウスに黒のタイトスカート、黒いハイヒール、つば広の黒い帽子をかぶり、恥じらう女優のごとく腰をくねらせて、俯き加減に立っているではありませんか。
 私は愕然とした。何か見てはいけない物を見てしまったような、切なさを感じました。
 何故、1年もたってからオカマになったのだろう? それに女装するなら、新宿2丁目という舞台があるじゃない。
 なぜ新宿駅なの?
 そんな驚きも、時間と共に慣れっこになっていった。

 ある時、彼女(と呼ぶべきか)は定位置にいなかった。
 私は目で周囲を探した。
 化粧も身のこなしも板についた彼女は、マドモアゼルのように少し気取って、誰かを探しながら歩いていた。口元に少し笑みを浮かべて。

 あれから私は終電車に乗る機会がなくなったけれど、待ち人は来たのでしょうか?
 そして、あなたは一体誰ですか?

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