美緒の気まぐれエッセー

花泥棒

 小茶のおばちゃんこと、私の母の事を、皆が皆好きだったわけじゃない。飲み方の流儀を小茶とゆう店で母さん流に教え込んでいたわけで、理不尽なこともあったに違いない。
 時にいじめられた(?)腹いせに、いつか娘に(私のこと)仕返しをしてやろうと思っていると、酔っぱらった勢いで、本音を言ったママがいたくらいだもの。

 深夜の3時頃になると、始発までの時間を飲み明かそうと、小とら、大とらがどこからともなくやって来る。ママ達もただいまーという感じで、オンパレードだ。
 その晩も大盛況だった。
 客の注文の皿やコップが、所狭しと置いてあるカウンターに、めずらしく色をそえるべき花を1輪飾っておいた。
 ほろ酔いのママが私に質問してきた。
「この花、どうしたの?」
 私は、「お店に来る途中あんまりきれいだから、1本折ってきたの」と、素直に答えた。
 そのママは、突然大きな声を張り上げた。
「おばちゃん! 美緒さんが公園の花を折ったんだって。泥棒したんだって!」
 あたりはシーンとなった。まわりの酔っ払いも、訴えたママも、盗っ人である私も、かたずを飲んで母の顔を見守った。
 母は一瞬、私の目には、たじろいだかの様に思えた。こまったーと思った瞬間、いつもの小茶のおばちゃんの顔になり、平然と一言。
「花泥棒って素敵じゃない」
 一瞬止まった空気が、何事もなかったかのように流れ始めた。

 いいとか悪いとか、理屈じゃない。絶対なる愛。すごいと思う。岩のように強い愛情。

― 感謝 ―
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