美緒の気まぐれエッセー

小茶の愛すべき男たち(3)

Y誌のSさん

N先輩に紹介されたこの人は、まるで台風のような人だった。
小茶の暖簾をくぐるや、「どーも、どーも」。数人でガチャガチャ入ってくる。それからがやかましい。今会ったばかりなのに、私をお母さん、お母さんと呼ぶ。私はカチンときた。
「こんな大きな子供、生んだ覚えないわよ! ママとか、名前で呼んで」
と言っても、1分后には「お母さん」。私はと言えば、テレ屋で人見知り、心が開けるまでには1年はかかるのだ。私はいつも、うるさい、うるさいとSさんを怒鳴っていたっけ。

ある晩、大学時代のスキー部(クロスカントリー)の仲間から、Sさんの違う一面を知らされた。大学時代のSさんは、寡黙で暗いイメージの人だったとか。豪雪の中で、こつこつと粘り強くトレーニングをしていたそうだ。このスポーツは雪山と、そして自分との戦い。何度か大会で優勝もしたとゆう。だから太ももが中野浩一なんですね。
そして秋田から、マタギの父親の反対を押し切り上京し、就職、結婚。家族の為、自分を明るく変えていったのでしょうか。三つ子の魂百までも、と言うけれど、変えられるんですね。

1ヶ月位して、Sさんが小茶に現れた。初めてゆっくり話をした。
「僕は友達がいないんだ」Sさんがポツリと言った。
「な、何言ってのよー。それは私のこと。Sさんは友達100人位いそうじゃない」
なんだかそんな事から、Sさんとの友情が始まりました。


あれから7年。
モーレツ社員のSさんは今や編集長。休日の土曜日はこの仕事にも一役かっている、趣味の借農園の畑でお百姓さん。大根、なす、トマト等等、我が子のように育てています。正真正銘の無農薬野菜がうらやましい。

人生2倍楽しもうとゆう、前向きなSさんの日曜日がまたおかしい。
積み立て預金の満期で、10万円が手元に入った。何に使おうか、奥さんと相談をする。ふと、若い頃馬の取材をした時に、間近で見た馬の美しさに感動した自分を思い出した。
「そうだ、この10万円がなくなるまで馬券を買おう」
横道にそれた事のないSさんは馬券など買った事もない。またまた燃えた。あーでもない、こうでもないと、恋人時代の二人に戻って話し合った。
結局、1日千円通しをする事にした。奥さんは男っぽく1レース勝負。Sさんは女々しく100円ずつ10レースを買う。その方が10倍テレビを楽しめるそうだ。
「100円ずつじゃ、儲からないでしょう」と私が言ったら、
「だから損も少なくて、1年半も続けられているんだよ」
預金はあと2万円。大穴取れるといいですね。
馬を見ていると、自分を見ている様だとSさんは言う。ひたむきに走る馬と、雪の中を1人タイムを競うSさんに、通ずるものがあったのでしょう。

秋ですね。心なしか、Sさん静かになりました。

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