カラス
私の住んでいる3階の窓から、よそのお宅の大木が見える。コンクリートの建物が密集した風景の中で、名も知らぬ大木は私の心を癒してくれる。春夏秋冬、その木を見ない日はない。
ある日、嫁に行った娘がひょっこり遊びに来た。いつもの様に外を眺めながら煙草を吸っている私の肩越しに、一言。
「ママ、あの木にカラスの巣があるわよ」
「どこ! どこ!」と私。
親切心からだろうが、彼女の一言で大木を見ては憂鬱になった。
カラスはもともと嫌いだった。黒くて、どこまでも黒くて、陰気くさくて、カラスの濡れ羽色の言葉通り羽根に艶まであるんだから。
それからはなるべく巣を見ないようにして木を見たり、でもやっぱり気になって巣を探したり。あー嫌だ。エサを運ぶ為、カラスは私の目の前を低空飛行していくのだから。
怖いから、カラスと目を合わさない様にしよう。まるでヒッチコックの『鳥』気分。そう思いながらも、双眼鏡を持ち出して巣を観察した。
中に子供が3羽いた。親と思しき1羽が帰って来た。用心しているのか、巣の1m位手前で止まった。子ガラスは、
「早くエサちょうだーい」
と言う様な、甘ったれ声で鳴いている。安全を確認してから、親ガラスは3羽のもとへ、そして子供の口の中へエサを与えた。まあ、何と口が大きいのでしょう。光の加減か、口の中は赤かった。エサをもらった子供はうれしそうに、感極まったような声で、フニャフニャ、ア、ワ、ワ、ワと鳴いている。人間の赤ちゃんと同じだ。
でも午前3時過ぎから、フニャフニャ、カーカー始まるものですから、たまったもんじゃございません。私、眠れません。静かにシロー。
そうこうしている内に半月が経ち、また娘が立ち寄った。
「相変わらず、カラスうるさいわねー。あらあら、巣立っているじゃない。もうすぐ静かになるわよ」
と言い残して彼女も又、自分の巣へと帰って行った。
−終−
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