美緒の気まぐれエッセー

T整形外科

先日中学時代の恩師や同級生と温泉旅行の折、私は見かけは若いと言われるが一番体が痛んでいる事に気づいた。20代からの腰痛は、頑固でしぶとい。
同じ町内の檜山さん(一緒に旅した)がT整形がいいと教えてくれた。
医院の名前が可笑しかった。苗字でなく名前を使っている。例えば山田太郎氏だったら普通山田整形と名乗るでしょうに、太郎整形というところが妙に引っかかった。
スナック純子みたい。前に通った医院は2、3、4Fエレベータ付、渋いハンサム先生、お婆ちゃんに大人気。若い看護婦さんも10人位いて女の園みたい。
そんな事もあってT整形に行ってみようと思った。我が家から甲州街道を下り9号通り商店街を右に折れるとT整形はあった。あれ? 同じ一軒家に看板が2つ。左のドアはK整形、右のドアはT整形と書いてある。躊躇しながら教えられたとおりTのドアを開けた。
小さい玄関、待合室にソファーが1つ、何か田舎の病院の様だ。
受付で無印良品の様な女性から診察券を受け取った。私の番が来たのでカーテンを潜り診察室へ。デスクの上にパソコンが1台、スチール製丸椅子3個、それと細いベッドが壁にへばり付く様に置いてあった。T先生も白衣を着ずダークグリーンのYシャツ姿。私の好きな言葉、素朴が似合う。親しみを感じた。
長年の腰痛を訴えレントゲンを撮ってもらう、数分待っている間に出来上がったフイルムを持って来て、「あれ写ってない。今度直しておく」と先生が言う。
「カルシウムの注射をして下さい」と私は言った。ダンス仲間がその注射で元気にしている。ところが先生は「そんなもので治そうとするからいけない」とその場で腹筋や、腿筋の仕方の実演をしてくれた。そして3分砂時計を見ながら私にやるように指示。先生と話をする時間などない現在の医療機関の中で、説明、治療、それから砂時計。スポーツドクターということもあって話が解りやすい。来てよっかったと思った。

それからここの受付嬢、この方もまたユニークなのだ。それは私が「トイレ借りたいんですけど」と彼女に言った時の事、少し低い抑揚のない声でゆっくりと「トイレはありませーん、隣で借りて下さーい」返事はこれだけ。後はシーンと静まり返った。
知らない家に行ってトイレ貸して下さいって言える訳ないじゃない。「じゃー、けっこうです」と答えたものの、私は可笑しくて笑いたくなった。
先生もお嬢も患者も三者三様、淡々としてて面白い。
何度も通ううちこの家の仕組みが分かってきた。2つの看板の謎、実は夫婦で別々に開業していたって事。つまり山田花子、太郎夫妻が、山田整形と太郎整形をやっている。そしてトイレは妻の方にある。患者さんも必要に応じて2つのドアを行ったり来たり。
やだ、これって小茶と同じじゃない! 1つの店を二つに分けてトイレは共同で、母と二人で商売していたあの頃。この偶然に今まできずかなかったなんて、大好きな母の事が思い出された。
今は盆の季節。

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