もうすぐ
この話も
クライマックスです。

硝子の行方はこのまま幸せなのでしょうか。ふふふ。

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最悪の出逢い。
日差しも和らいだ午後のこと
 
彼女は原稿を本社に届けるため急いでいた。

どんっ

「イタタタッ」 勢い良く 男性が衝突してきた。
「あ、ごめんな。俺 急いでるんだ!」
それだけ言うと男性は倒れたままの彼女を助けもしないで走り去った。
(感じ悪〜い。ちょっと顔がいいからって 何よ!手くらい貸してくれたっていいじゃない!)
彼女は立ち上がると彼の後ろ姿を睨みつけた。 そして、急いで本社へと向かった。

それが2人の運命の出逢いであった。

林 硝子 21歳。入社1年目の夏の終わりの事だった。
2001年09月06日 15時59分50秒

2度目の衝撃。
「ちょっと〜〜!林さ〜ん!この原稿本社まで届けてちょうだい!」
原田課長が叫んだ。
「はい。今すぐ出かけてきます!」
素直に答える硝子だったが内心は。。。
(さっき、本社に届けて来たとこじゃん。まとめておいてくれたら良かったのになぁ。これじゃ、新人イジメじゃんか。)
と、まあ課長に営業スマイルを振りまいて会社を飛び出した。

高校時代は陸上部で長距離を走っていたので持久力には自信があった。
(こんなトコで役に立つとは思わなかったよ。)

30分走って ようやく本社に着いた。

「お疲れ様で〜す」と彼女は『第2編集部』のドアを勢い良く開けた。

ガン!!
(あ!ヤバイ。やっちゃったかも。。)
と、彼女は握ったドアノブを放せずにいた。
すると ゆっくりとドアが開いた。
目の前にはさっきの失礼男が鼻を押さえながら立っていた。
「あ!!さっきの人!」
硝子が叫んだと同時に彼は言った。
「ハイ。これでオアイコだね。」
すまなそうに 硝子は謝る。
「ごめんなさ〜ぃ。。。。。」
「さっきは俺も謝る時間さえなかったんだから、謝らなくてもいいって。」
と彼女の手から原稿を取るとこうも言った。
「毎日 ジョギングご苦労さん♪」

普通ならここで、 ・:*:・( ̄∀ ̄ )。・:*:・ポワァァァン・・・
という心境になるのだが、硝子は違った。
(何だよ、このキザ男!)
彼女は実は男嫌いでした。
そんな事はつゆほども知らない男、栗原洸祐。26歳。本社第2編集部編集長であった。
2001年09月07日 13時03分42秒
3度目の衝撃。
硝子は会社から歩いて30分のところにあるマンションに住んでいる。
途中のコンビニでミネラルウォーターを買うとゆっくりと自宅へ向かった。
「あ〜。今日は何だか疲れたなぁ〜。」
チカラ無く ぽつりと呟いた。
頭が朦朧とする。足取りも重い。熱があるらしい。

そして空腹のまま 部屋に着いた。
ワンルーム12畳、ロフト・トイレ・バス付き。家賃75000円。白と薄い紫を基調としたセンスのある部屋。学生時代から住んでいて今年で3年目になる。
「が〜〜ん!」
冷蔵庫の中を見て 愕然とした。
今日は朝寝坊して 何も作り置きしてなかったのだ。
床に座り込んだ彼女の身体にまた別の疲れがやってきた。
「今日は仏滅かな。。。」
そう呟くのがやっとだったが 静かに立ち上がると さっき入って来たドアへと向かった。
(何か食べ物買ってこなきゃ。。腹減って死にそう。。。)

ドアを開けると アイツが歩いていた。
(何で?!空腹で脳ミソまでやられたかぁ?!)
人の気配で振り返った彼は驚いた。
「何で?!ここにキミが居るんだ!」

彼の声が届くか届かないか、で彼女は倒れた。
「おい!大丈夫かよ!!」
慌てる彼の手から買い物袋が落ち、卵の割れる音が廊下に響いた。
時計の針は夜中の12時を回っていた。
2001年09月20日 12時42分46秒
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煮込みうどん。
硝子が目を覚ますとコウスケはキッチンで煮込みうどんを作っていた。
「ん。。。。頭イタイ。」
「あ、目覚めた?今、うどん作ったから待っててね」
そう言うとコンロのスイッチを止めた。
どうやら、彼の部屋らしい。硝子はスーツ姿のまま彼のベッドで寝かされていた。寝汗をかいたらしく シャツは グッショリと濡れていた。
「洋服、脱がすわけにはいかないしさぁ。。。シャツ濡れちゃったろ?ごめんな。」
コウスケはグラスに水を入れてベッドサイドのテーブルの上に置いた。
「ううん、謝る事ないよ。看病してくれたのね。ありがとう。」
彼女は起き上がると頭を軽く横に振った。
「私 着替えてきていいかな?」
と、彼の顔を見て言った。コウスケは軽くうなづくと
「これ、持っていってあげようか?自分の部屋のほうが落ち着いて食べれるだろ?」
と、一人用の土鍋に入ったアツアツのうどんを指差した。
「気を使ってくれて嬉しいんだけど どうしてそこまで親切にしてくれるワケ?」
硝子は服のシワを軽く直しながら静かに聞いた。
「ん〜〜、理由ね。。。何だろう。。。隣りの住人が倒れたのをほっておけなかったのと、林のこと、気になってるからかな。」
コウスケは”こう言うこと、言っちゃマズかったかなぁ〜”というような顔をしてキッチンへ移動した。
「アナタみたいな完璧な男性に好かれるのは悪い気はしないけど 私 恋って出来ない性格らしいから。。。っていうより恋愛に興味ないし、アナタにも興味ないから。。」
と、硝子はハイヒールを履くと”着替えたら戻るわ”と軽く笑って部屋を出た。
「完璧な男じゃないし、付き合って貰おうなんて思ってないさ。。」
コウスケは悲しそうに呟いた。
そして、着替える為に別の部屋に歩いていった。


「ごちそうさま。編集長なんてやってるから料理は下手なのかと思ってた。結構上手いじゃん。あはは。」
と満腹になった硝子は言った。
「かははは。一人暮らし長いからなぁ。俺だってこんなに料理上手くなるとは思ってなかったよ。」
彼は愛用のフィリップモーリスに火を点けた。
その彼の指は男性にみえないくらいで細くてキレイだった。
「私ね。。。」
「ん?」
タバコを持つその手は止まった。
「4年前に彼氏を肺がんで亡くしたの。。タバコが原因だったの。それからタバコは嫌い。」
硝子がそう言うと 黙ってタバコの火を消した。
「そっかぁ。。辛い過去だな。林の前ではタバコは止めるけど 俺はタバコくらいで死なないよ。」
と彼女の目を見てコウスケは言った。
そしてこうも言った。
「恋出来ない理由は その彼だね?死んでしまった彼は過去だろう?だったらこれから前見て歩かないとイケナイね。過去ばかり見てたらイイ女になれないぞ?もちろん、イイ仕事も出来やしない。」
「う〜ん。鋭いトコを突くよね〜。まさしくその通り。一度愛した男を忘れるのは そんなに簡単じゃないのよ。現に目の前にこんなに格好イイ男がいても興味がない。あはは。」
硝子は笑った。
「え? 俺ってイイ男なのか?」
驚く彼に向かって彼女は頷いた。
「ありがとう。俺 それだけで十分満足。」
と食器を片付け始めた。それから硝子は思った。
(この人 意外と単純かもしれない。仕事してる姿とは全く違うわぁ。。面白いかも☆)
そんな事を思われているとは知らないコウスケは硝子に紅茶を入れてあげた。

「今日はごちそうさま。本当美味しかった。」
「いや、そう言って貰えると作った甲斐があるもんだよ。今日はゆっくり休めよ。運良く会社も休みだしな。」
そう会話すると2人は廊下に出た。
「あ!ちょっと待ってて」
コウスケは思い出したようにまた部屋へ戻ると自分の名刺を差し出した。
「寒いのに待たせてごめん☆これ、俺の携帯の番号。何か困った事あったら掛けてきていいからな。」
受け取ろうかどうか一瞬迷った硝子だったが 今日のお礼もしなくてはイケナイと思い”ありがとう”と彼の名刺を受け取った。
「じゃ、お大事にな!」
「うん。お休みなさい。」
時計の針は朝の4時ジャストを指していた。

部屋に戻ったコウスケは頭を抱えた。
(ヤバイな。。俺 本気で好きになりそうだ。)

そんな事を彼が思っているとも知らず硝子は自分のベッドで沈み込むように眠った。
その寝顔はとても穏やかで優しく笑っているようにも見えた。
2001年10月02日 17時10分41秒


ガラスの器
硝子は昼近くに起きた。
「ん〜。よく寝たぁ〜」
寝そべったままカーテンを開けると外は暑いくらいの陽射しで”暑い!”というとまたカーテンを閉めた。
ゆっくりと起き出すとシャワールームへ歩いていった。

彼女は熱めのシャワーを浴びると出掛ける用意をした。お気に入りの時計をつけて、ピンクのワンピースを着てマンションを飛び出した。

行き先を考えずただ人込みの中を歩きたかった。体調が良くない時に人の優しさに触れたせいもあって一人きりになりたくなかった。
他人でもいいからその中に居たかった。
彼女は人の流れに任せて有名なブランドやそうでない店の並ぶ通りを歩いた。

しばらくして硝子は足を止めた。
それほど大きくない店のショーウィンドウにクリスタルガラスで出来た繊細な模様の小さな器が飾ってあった。
一瞬にして惹き付けられた。
店の中から誰かが出てきてこう言った。
「凄い偶然じゃ〜ん。何?もう元気になったの?」
ふと顔をあげるとコウスケがニコニコして立っていた。
「あ!栗原さん!。。。すっかり元気になりましたよ。栗原さんのうどんが効いたみたいです。」
と笑顔で答えた。
「良かったぁ〜。俺心配で仕方なかったよ〜」
「あはは。そんな大袈裟ですよ。もう完全復活ですから大丈夫です。今日はお買い物ですか?」
「うん。ジッポライター壊しちゃってさ。ついでに灰皿も買おうと思ってね。」
と彼はさっき彼女が見つめていた器を指した。
「え!あのキレイな器が灰皿ですか〜?可哀相だわ。。」
「もしかして林も気に入ったのかぁ。。ダメだよ、俺が今から買うんだからさ。」
と、コウスケは店に入ろうとした。
それを硝子はとめた。
「私が昨日のお礼に買ってあげますよ。お礼したかったし 丁度いいですね」
「おいおい、お礼はいいよ〜。俺のうどん、27500円もしねぇからさ。。。。。聞いてねぇじゃん。」
彼が言う言葉も聞かず 彼女は店の中に入り その灰皿を指さして店員と話している。
それを見た彼は頭を抱えた。
(言葉も行動も彼女には勝てないってわけか。はぁ〜先が思いやられるなぁ)

結局 硝子が灰皿を買いコウスケが受け取った。そのまま2人はランチへと出掛けた。
2001年11月28日 17時10分41秒

2人の変化。
2人の関係は変わらないままだった。
いや正確にいえば2人は関係を変えないでいた。
お互いの気持ちを確認しないまま 季節は変わって冬を迎えた。
いい関係で友人を続けようと2人は頑張った。
「友情」という堅い殻で「好き」という感情を閉じ込めるのに必死だった。
ショウコの繊細な思いを傷つけまいとコウスケは大事に想い、ショウコは自分の気持ちを言えないままでいた。失ってしまう事を恐れたからだ。言ってしまった言葉は取り返さないし 何かが変化するならこのまま楽しい友情関係でいたほうが幸せだと思ったからだった。

11月の最後の金曜日のこと。
その日は朝から嫌な予感がしていた。
会社を休む理由にはならないのでショウコは重い足取りで会社に向かった。
すると、携帯にコウスケからメールが入った。
『おはよう。硝子ちゃん。話があるんだ。仕事が終わったら電話を入れてくれないか?』
何の話だろう〜と思いながら彼女は「了解」とメールを入れた。

編集部の自分の席に着くと同期の相原がやってきた。
「おい、聞いたかよ、本社の栗原編集長 栄転らしいぜ。」
「栄転ってどういう事よ?!」
「俺も聞いた話だけどな。去年から異動希望してた支店の支店長になれるらしい。」
「もしかして アダチ支店?」
「そうそう。さすがは親友だなぁ〜。話は聞いてたんだな。」
(聞いてないよ。何も聞いてない。。。)

その日 彼女の仕事は散々だった。
「ちょっと 林さん、今日の仕事ぶりは一体どういう事なの!!しっかりしてくれないと困るのよ!!」
原田課長が叫んだ。
「すみませんでした。明日から気持ちを入れ替えて頑張りますので。。。」
硝子は頭を下げるしか出来なかった。
「もういいわ。今日は帰りなさい。」
と課長は呆れた顔をしたまま 手を振った。

硝子は帰り道でコウスケに電話を入れた。
「あ、硝子ちゃん?今どこ?」
「今 会社の近くです。スズ建設の横を歩いてます。」
彼女の声は暗かった。
(これから転勤の話をするんだろうか?別な話なんだろうか?何でもっと早く話してくれなかったんだろう。。相原くんの口から先に聞きたくなかった)
色々な思いが駆け巡った。
「硝子ちゃん?聞いてる?」
「え?」
「近くにドールドールていう喫茶店あるだろ?そこで待ってくれ。あと10分くらいで着くと思うからさ。」
「うん。わかった。」
電話を切った彼女は真っ直ぐに歩き出した。
信号で立ち止まって空を見た。
「。。。こんな気持ちで居るのはヤダ。」
そう言うと彼に想いを打ち明ける決心をした。

「悪い!結構この辺混んでるんだな、遅れた!」とコウスケは息を切らせて硝子のいるテーブルに着いた。
「はい、10分の遅刻ね。今日はコウスケさんのおごりね♪」
「当然です。今夜は俺から誘ったんだからな。何でも好きなモノを頼んでください」
と彼は笑った。
「ん。。ここで食事するわけじゃないでしょうね?」と彼女はサンドイッチしかないメニュー表を見ながら言った。
「あはは。ここじゃないよ。さっき、メモリアルホテルのレストランを予約したよ。」
メモリアルホテル・・・雑誌にいつでも載るような一流レストランのあるホテルである。毎日のように芸能人や著名人が利用することでも有名であった。
「よくあのホテルの予約が取れたわねぇ。」
と硝子は不思議がったが 本当は前々から予約していた彼。
彼女は気づいてないらしいが今日は硝子の誕生日であった。

その店では軽くコーヒーを飲んで出た。
2人は一旦帰宅して着替えてからホテルへと出掛ける事にした。
2001年11月28日 18時26分09秒

最悪の誕生日
コウスケと硝子はマンションに着いた。
すると 原田課長がエントランスで待っていた。
「あらぁ、お2人仲良くお帰りかしらぁ。お邪魔して悪いけど・・・浩祐、話があるの。ちょっといいかしら?」
彼女はそう言うと彼の傍に近寄った。
「悪い。先に着替えてきてくれ。俺は後から着替えるからさ。」
コウスケは硝子にそっと呟くように言うと原田と奥のソファーへと消えた。

その2人はどう見ても同期という雰囲気ではなかった。まるで元は恋人同士だったかのようにも見えた。

硝子はシルクの淡い紫のドレスを着るとリビングルームにあるソファーに座った。
さっきの原田の態度が気になっていたのだ。
(何を話しているのだろう。。コウスケさんはあれから戻って来てないようだし。)
とコウスケの部屋のほうを見た。
(一人で居ると悪いほうに考えてしまうわ。)
頭を軽く振って立ち上がると 彼女を部屋を出た。
エントランスに戻ると奥のほうで2人は何やら言い争いをしていた。
「キミは子供が出来ない体だから別れて欲しいって言ったんじゃないか!!」
「別れた後に妊娠してたのが解ったのよ!」
「子供なんて居なくても俺は嫌いになんてならなかったよ!!勝手すぎるよ!俺の気持ちになって考えてくれた時が何度あった?無いだろう!!もうキミとは関係ないんだ!帰ってくれ!!」
その怒鳴り声は硝子にもはっきりと聞こえた。
そして勢い良く彼が出てきた。
硝子を見つけた彼は”聞かれたな。マズイ。”という顔をして彼女の肩をポンッと叩いて「事情は後で全部話すからな。」と彼女の目を見ながら言った。
その彼の目は真剣すぎて怖さをも感じさせた。
彼は着替えをしようと部屋に戻りかけて考えた。
(今のほうがいい。)

「硝子。ちょっと一緒に来てくれないか?」
彼女は少々放心状態でいた。
そんな彼女をコウスケは抱き寄せて自分の部屋に戻った。

「硝子?・・・怒ってる?それとも泣きたい気分?・・・その顔は両方って感じだな。」
そう言われた彼女は泣きそうだったが必死で我慢していた。
彼は話しながら冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注いだ。
「今夜 俺はある決心をしていたんだ。」
彼女の座るソファーの前にあるテーブルへグラスを置いた。
彼女はコウスケの顔は見れないでいた。
床のフローリングを見ているしかなかった。
「キミとは違う関係になろうと思う。」
静かに彼は言う。彼女は意味が解らずにいた。
「普通に『おはよう』みたいに「好き」と言える関係にしたい。」
硝子は想いが溢れそうで怖かった。言ってしまえば何かが変わる。。。その事が頭の中でリピートされておかしくなりそうだった。
いつの間にか涙がこぼれていた。
「硝子。泣かないで・・・」
「帰る。」
「え?・・・」
硝子は今すぐ逃げ出した気持ちで一杯だったのだ。彼には何故だか解らない 何を言っていいのかも解らないでいた。

立ち去ろうとした瞬間 近くのテーブルに触れ あのキレイな灰皿が床に落ち バリ〜ン!と割れた。
「ごめん!私 帰る!」
そう言う彼女の腕をコウスケは掴んだ。
「どうして 帰るの?訳を話して?」
握った手は強かったが言葉は優しいままのコウスケ。
「解らないの。帰りたいの。何も考えたくないの。」
硝子は頭を振って そう答えた。
彼の手を振り解いて硝子はコウスケの部屋を出た。

「硝子〜。・・・何がそこまで不安にさせるんだ?・・・俺がいけないのか?」
コウスケは力なく座り込んだ。
そして砕け散ったガラスのカケラを握り締め 思い切り床に叩き付けた。
その手からは紅い血が流れ 彼の目からは熱い涙が流れた。
それに明い月の光が反射してとても綺麗だった。

部屋に帰っていた硝子は泣き疲れていた。
ベッドにそのまま寝てしまおうかと思ったが
熱いシャワーを浴びてから寝ようと思い シャワールームへ移動した。
服を脱ぐと彼女は鏡の横に置いてある小さなカレンダーを見つめた。
今日は自分の誕生日だった事に気づいた。
(コウスケさんが食事に誘ったのは私が誕生日だったから?私の為?)
彼女は急いでシャワーを浴びた。そして別の洋服に着替えるとコウスケの部屋に戻った。

部屋の電気は消えていた。
「コウスケ?居ないの?」
彼女は静かに聞くと奥のベッドルームから声がした。
「居るよ。」
その声は泣いている声だった。
前に進めず硝子は胸が締め付けられまた泣きそうになっていた。
「泣いてるの?」
「ううん。男が泣くわけないだろう。」
その声は間違いなく泣いていた。
彼女は急いで彼の居るところへ向かう。
彼はベッドの上にネコの様に丸まるようにして寝ていた。彼の頬にはいくつもの涙の後があった。その後を新しい涙が追いかけていた。
その彼を見るとすぐ硝子は近寄って彼の涙を拭った。彼女の手が触れた瞬間 後から後から涙は溢れてくる。
「・・・硝子・・・不安に、させてごめんな・・・」
声にならない声でコウスケはそう言った。
硝子は優しく彼の手を握って首を横に振った。
コウスケは安心した様に硝子を抱き締めた。
「今日 全部話すつもりだったんだ。過去に結婚していた事も アダチに転勤する事も これからもずっと一緒に居たいと思ってる事も・・・全部 全部俺の言葉で言うつもりでいたんだ。」
そう言う彼の腕に力が入った。
「うん。私も今日コウスケに好きって気持ちを伝えようと思ったの。ずっと言うのが怖かった。何かが変わっちゃうのが怖かったの。」
いつしか硝子もまた泣き出していた。
「・・・今日が私の誕生日って気づいた時に不安じゃなくなったの。いつもアナタが傍に居て私を見てくれてるって感じたの。」
彼女が言い終えるとコウスケは優しくキスをした。
「本当はもっとロマンチックな夜景の中で初キスをする予定で居たんだけどなぁ。俺は泣いてるし 散らかった俺の部屋だし・・・最悪な誕生日にしちゃったな。ごめんな。」
彼がそう言うと彼女は笑った。
そしてコウスケはこうも言った。
「まだ4時間あるもんな。楽しい誕生日にしてみせるよ♪」

それから2人はメモリアルホテルで豪華な食事を済ませて 2人硝子の部屋で誕生日を祝った。
最悪から最高に変化した硝子の22歳の誕生日であった。 
2001年11月28日 23時27分56秒

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