あれは確か中学3年生の頃と思う。部活にも入っていなかった私が夕暮れ時になぜ学校に残っていたかは覚えていない。
暑くも寒くもない時期だった。日が落ちる前に自宅へ帰ろうかとカバンを担いで、廊下に出たその時だ。
隣のクラス(だったように思う)のさおちゃんから呼び止められた。確か、さおちゃんは2年のとき一緒のクラスだったように記憶している。
彼女は屋上に続く階段の踊り場に来いという。
夕日が美しく差し込む踊り場で彼女は言った。
「『だっふんだぁ』って言ってみて。」
はぁ??何言ってんだ??この人。何じゃそれ??
ドリフの番組を見ない(ドリフのギャグに笑えるほど大人じゃなかった)私にも、志村けんのギャグだと言うことはわかった。しかし、この時点でオリジナルの「だっふんだぁ」を見たことがなかった私にはどうするとことも出来ない。っていうか、やだよ。そんなこと言うの。
「見たことないし、出来ないよ。」断る私。「じゃあ。」
帰ろうとしたとたんに手首を力いっぱい掴まれた。「痛いよ!!」
「駄目!!ちゃんと言ってみて!!」
へぇえ??完全に目がイっている。手首は簡単にはほどけなかった。もう、仕方ない。付き合うか・・・
「・・・だっふんだ」
「もっと大きな声で!」
「だっふんだ」
「もっと真剣に!」・・・だって、見たことがないのである。見たとこのないギャグをやれと言うのは酷だ。
「さおちゃん、お手本見せてよ」「いいよ。だっふんだぁ〜〜」
「えっと・・・だっふんだぁ。こんな感じ?」
「いいよいいよ。もっとばかばかしく!だっふんだぁあ〜〜」
(小ばかにした感じで)「だっふんだぁ〜」
「よくなってきたよ!」・・・もう、何をしてるんだか自分でもわからない。どこがどう悪いんだかもわからない。早くOKもらって帰りたい。夕日は地平線にまさに落ちようとしている。こんなやり取りを何十回か繰り返した。もう、やけになってきた。早く帰りたいんだ。お願いだよ。
「だっふんだぁ〜〜〜!」「よし、OK!!」やった。やったよ。やっと帰れるよ。私はやったよ。
踊り場を降りた時、我がクラスの仲良しの友人数人がそこにいた。
「○○ちゃん、志村けん好きなん?」「あんなに大きい声でだっふんだって言ってたもんねぇ」
目の前が真っ暗になりました。志村けんファンだと思われてるよ。私。思春期なのに。お年頃なのに。皆がアイドルや俳優に夢中になってる頃なのに。志村ファンだって。違うよ。ちがうよ。でも、もう否定するのもめんどくさい。
もう、それでいいよ。
すっかり暗くなった帰り道、30分の道のりを一人で帰りながら小さく「だっふんだぁ」とつぶやいてみた。
さおちゃんからダメ出しが出そうだった。