シャリ、アガリ、ガリ、ムラサキなどは一般的になっているが、寿司屋の符丁には、まだまだ意味不明なものが多くある。本ワサビをおろし金でおろしていると辛味が鼻にきて涙がでるので、そこからわさびのことをナミダと言う。穴子につける甘いタレは穴子を煮たとき煮汁を利用して作るもので、煮汁を煮つめるから、これをツメと言う。また、数の数え方も独特。1はピン、2はリャンコ、3はゲタ、4はダリ、5はメのジ、6はロンジ、7はセイナン、8はバンド、9はキワ、10は大ピン。例えば、勘定の時に「バンロン」と言ったら8600円を意味している。
寿司一人前とお好みの値段を比較して納得がいかない場合が多い。つまり、お好みで注文すると高くつく場合が多い。これには訳があって、お好みの場合ネタが一人前の寿司のネタとは、種類も切り方の厚さも異なっていることからくる差である。ちなみにプロの板前ならカウンターに並んだ数名のお客の注文は、全て正確に記憶されているらしい。
出前の寿司には盛り込みと別盛りがある。盛り込みというのは2、3人前以上をひとつの器に盛ること、別盛りは一人前ずつ別々に盛ること。しかし、例えば4人前の盛り込みと別盛り4人前ではネタが異なる。4人前の盛り込みにエビが2個しか入っていないこともありえる。盛り込みの場合は定番ものを減らしてその代わりに、季節の旬のものを入れてバラエティ豊にする。盛り込みにすると色々なネタを食べられるし、見た目も豪華になる。盛り込みにしたからといって、握りの数が少なくなるということはない。一般に寿司のネタには大きく分けて「青、黄、赤、白、黒」の五色の系統がある。青−アジ、コハダ、サヨリ、サバなどのひかりもの、黄−玉子焼き、数の子、赤−マグロ、エビ、赤貝、白−イカ、白身、黒−トリガイ、海苔巻きなどである。
正月は寿司屋にとって1年中でもっとも忙しいとき。門松をくぐるたびに板前の腕があがると昔から言われている。元日の朝、翌日からの出前に備えて仕込みをする必要があるからである。魚河岸は暮れの30日から正月の4日まで休業。年末の12月に計画的に魚の仕入れを済ませておく必要がある。
仕入れたネタでそのまま握って出せばいいものは、ウニ、イクラくらいのもので他のものは多かれ少なかれ手をかけなければならない。仕込みで一番手間がかかるのは、コハダと穴子。コハダは頭を落とし、腹を開いてワタをとってから、くさみをぬくため、2〜3時間水にさらす。それから全体に塩をふり、15分ほどそのままにしておき、身がしまったところで水洗いする。そして昆布を入れた酢に6〜7分ほどつけて、ようやくできあがり。穴子は腹を割いて骨をとり、水でよく洗ってから煮る。穴子にはぬめりがあるので、水洗いをきちんとしないとアクが出る。洗い上がった穴子を酒としょうゆ、砂糖でじっくり煮る。煮上がった穴子は半日、煮汁の中につけて味をなじませる。このようにコハダと穴子は仕込みに手間のかかる寿司ネタなので、その店の仕事の程度がよく分かる。
寿司屋のカウンターに座ったら、まず、玉子焼きを注文するのが通だと昔から言われてる。玉子焼きは、穴子やコハダと同様に店独自の味付けをするので、その店の善し悪しがよく分かるというのが理由。ところが最近は、自分の店で玉子焼きを焼くところが減り、河岸玉(魚河岸の玉子焼き専門店から仕入れた玉子)を使う店が多くなった。いま寿司屋で使っている玉子焼きは、厚焼きや玉子とだし巻き玉子の二種類に分けられる。厚焼き玉子は魚のすり身を入れてふっくらと焼き上げるもので昔の寿司屋で使われていたのはこれが中心だった。厚焼き玉子の場合は中に入れる魚のすり身の種類や分量で味が違ってくる。だからその店独特の玉子焼きができ「玉子焼きで店の善し悪しが分かる」と言われた訳である。いま寿司屋で使われているのは、だし巻き玉子がほとんどで、魚のすり身は入っておらず、玉子とだし汁と調味料だけで作るのでどちらかというと平均的な味になりがちである。それなら、手間をかけて店で焼かなくても魚河岸で十分だと河岸玉を使う店が多くなった。
これは白身の魚を昆布で包み、しばらく寝かせてから食するもので、タイ、ヒラメ、サヨリ、キスなどが季節によって使われる。作り方は、ふきんをお酒で湿らせそれでよく昆布を拭く。こうすると昆布に適度な湿り気が出て、うまみが出る。そこに皮をひいた魚のサクを乗せ、しっかりと包み込む。さらにそれをラップで包んで軽く重しをして冷蔵庫にしまう。ほどよく味のついた白身の魚は、生ものとは違ったおいしさがある。淡白な魚に昆布のコクとうまさがさらりとしみて、そこに軽い塩味がついているから、しょうゆをつけなくてもおいしく食べられる。白身魚の味の変化の原因がわからない人には不評な場合もあり、一般的は昆布じめは出前には出しにくいネタである。
マグロの赤身のことを古い呼び方ではヅケと言う。赤身をしょうゆに漬けて、お客さんに供していたのでヅケと呼ばれるようになった。しょうゆと酒を混ぜて煮たたさせ、そこに、カツオ節をたっぶり入れて火をとめて、よく冷ましてつけ汁にする。これにさっとあぶったマグロをつける。つけてから5時間くらいが食べ頃で、刺身にして出すと、火であぶった部分が白くて、中の赤いところはそのままだから、噛んだときに歯ごたえがある。これにはしょうゆはつけずに、すりおろしたばかりのワサビを乗せて食べる。出前の場合は、色が悪いとか、おかしな味がするというクレームがくる場合が多いので、店の中だけで使うものになっている。
かっぱじきとは、マグロの皮や筋についている脂の部分を包丁の先でそぎ落としたペースト状のトロしんのこと。かっぱじきが一般に浸透してくるとネギトロ巻きは、巻きものの中の一番人気となっている。中落ちというのはマグロの骨についている赤身の部分のことで脂が無くさっぱりしている。
シンコとは、コハダの幼魚で夏の一時期にだけ出回る寿司ネタ。シンコは体長4〜5cmでコハダの子供だから、小さくてもウロコがあり、仕込みに手間のかかる魚。小さな魚なので1匹を握り一カンには出来ず、2〜3匹まとめて一カンにする。出始めの頃は高値で、7月初めにシンコを出している店はかなり高級店。コハダは出世魚で、小さいのがシンコ、それからコハダ、ナカズミ、コノシロと呼び名が変わっていく。シンコは仕込みは面倒で、この仕込みをやらしてもらえるようになると職人として一人前になったということになる。
天然物は背ビレが長いが、養殖物は短く、尾の形も天然物は先が尖っているが、養殖物は丸くて短い、顔はほとんど変わらないと言う見分け方がある。また、春先に出回る鯛の子供でカスゴと呼ばれる寿司ネタがあるが、これは寿司ネタとしてはひかりものの部類に入りる。酢でしめて使う。
鯛やヒラメなどの白身魚、それに穴子などには野じめのものと活けじめのものがある。野じめというのは、水揚げしてから自然死した魚でその日のうちが食べ頃。活けじめというのは、魚が生きているうちに頭に包丁を入れ血抜きしたものを言う。この場合は、しめた翌日くらいが食べ頃で比較的日持ちする。しめたばかりだと歯ごたえはあっても、うま味がもう一つということがある。野じめの魚と活けじめの魚の値段を比較すると、活けじめのほうが5割程度高くなる。活けものの魚は、とれた場所(出場)が肝心な要素となる。場所によって、水のよいところはエサもいいから魚がうまくなる。
シャコツメとは、シャコの大きなツメの部分をとって中味を取り出し、軍艦巻きの握りにすると柔らかくて甘味がありおいしいものとなる。アワビの肝は、そのままワサビじょうゆで食べてもいいし、もみじおろしにポン酢でもさっぱりしておいしい。しかし、アワビに肝は一つしかないので貴重なものである。寿司屋は生ものがメインなので、煮物焼き物は余り作らない。ただ、ヒラメやカレイ、ホウボウなどの白身魚を仕入れると腹に卵が入っている場合があり、これを煮ることがある。白身の魚だけでなく、タコの卵を煮ることもある。
わさびは、伊豆天城産か静岡産のものが本場と言われている。わさびは茎の方からおろすのが普通で、葉と茎の汚れた部分をとり、きめの細かいおろし金で”の”の字にゆっくりおろす。すりおろすことで酵素が働き、カラシと同じ辛味成分が出てくる。荒めのおろし金でおろすと、香りはよく出るが、辛味は少なくなる。寿司屋の海苔は保管に気を配っており、信頼のおける海苔屋から仕入れるためおいしいと言われる。
エビは魚河岸から仕入れたときはカチンカチンに凍っている。これを姿のいい鮮やかなエビにするまでには、「串うち」「ゆでる」「冷ます」「串ぬき」という4つの工程を経ている。串うちとういうのは、エビの腹側の身と殻の間に串を通し、背が丸まらないようにする作業を言う。うっかり、身の方に串が入ってしまうと串を抜くとき身も一緒にとれてしまう。串うちが終わったら、エビをゆでるが、まず、沸騰した湯の中に塩をひとつかみ入れ、ふたをしないのがきれいなエビにするコツ。塩はエビのタンパク質を早く固め、身の中のうまみが湯に溶けるのを防ぐ働きをする。ふたをしないのは、エビの生くさみが身の中に残るのを防ぐためで、ふたをとっておくと臭いが水蒸気と共に逃げていくからである。こうして6分間ゆでたら手早く冷水につける。冷水につけることで色が鮮やかな赤になり、身もピシッとしまる。そして、最後に串を回しながらゆっくり身くずれしないように抜く。
寿司には特に食べるときのマナーはないが、ネタをはがしてネタにしょうゆをつけてまたシャリに戻して食べる(寿司屋の符丁で「追いはぎ」という)のだけは職人をがっかりさせるものである。せっかく形よく握ったものを解体して食べると、シャリとわさびが寒々しく見えてしまうからである。
魚の仕入れ値は天候に左右される。また、寿司屋の勘定というのは、魚の仕入れ値に技術料等を加算して算出する。仕入れ値が一定でない以上、値段を表示しづらい。と言っても、最近は値段を表示する店も増えてきた。高級寿司店での時価は、職人の胸先三寸で「時価」は高くもなれば安くもなるらしい。また、高級寿司店は接待に使われることが多いため、値段を書かない方が接待する側には都合がよいという理由もある。
まず、特上寿司を一人前食べる。これはお得になっていて、それらを単品で注文するよりも安く食べられる。その後で、お好みで食べればリーズナブルな食べ方になる。
「お金の単位が貫だった頃、寿司1個の値段が1貫であった」とか「巻物の単位の巻がそのまま使われた」などの諸説があるが真相のほどは不明。江戸時代に、庶民は穴あき銭を通貨として使っていて、50枚を1組にしてヒモを通して持ち歩いていた。その1組の呼び方が1貫で、これと寿司の握り1個が同じくらいの大きさだったところから、このような名前になった、というのが最も有力な説らしい。ちなみに江戸時代の握り寿司は大きく、二個、三個で腹が一杯になった。
寿司屋ではご飯のことを「シャリ」と呼ぶ。語源は仏教用語でお釈迦様の骨のことを「舎利」と呼ぶことに由来する。仏教では骨は土にかえると、めぐりめぐって稲、麦、粟、キビなどの穀物になり人々を助けてくれると説かれる。つまり、米は「舎利」の化身であり、非常に尊いものと考えられていた名残である。
明治20年代、コノシロという魚をしめてボートのような形にして売り出した寿司屋があった。現在のバッテラよりも船の形に近かったようで、ボートのことをポルトガル語で「バッテラ」と呼ぶため、このように呼ばれるようになった。そのうち、コノシロがサバに変わり、形もボート形ではなく、細長い角形になった。
江戸前寿司の誕生期から昭和初期まで、ネタは魚貝の刺身に限られ、軍艦巻きは存在しなかった。昭和16年、客の珍しい寿司を食べたいという要望からイクラを出そうとしたが、酢飯の上に載せてもこぼれてしまうため、酢飯を海苔で囲む「軍艦巻き」のアイディアが生まれた。いまではいろいろなネタが軍艦巻きにされているが、軍艦巻きのルーツはイクラである。
中国の辞書によると、「鮨」は魚の塩辛の意味、「鮓」は魚の貯蔵品やなれずしの意味。これらの意味が混同されて日本に伝わってきた。日本では、平安時代から江戸末期まで「鮓」のほうがよく使われていたが、明治時代になってから「鮨」が増え、関東は「鮨」、関西では「鮓」と使い分けられるようになった。ちなみに「寿司」は縁起をかついだ当て字である。
回転寿司は大阪の白石義明氏が発明した。彼は大正2年愛媛県生まれで、昭和14年に満州に渡り、昭和22年に日本に戻り、東大阪市で「元禄」という和食屋を始めた。たまたまビール工場でベルトコンベアにのって回るビール瓶を見て、このアイディアを寿司屋に取り入れようとひらめいた。その後、「元禄寿司」は日本全国に店舗を拡大している。
アナゴの稚魚のことを言う。シラウオに似てところてんのように透き通っているが、それよりも長くて平べったいものである。この名前は地引き網から来ているらしい。地引き網を引くと、アナゴの稚魚は小さな平べったい体で、ドロメ(イワシの稚魚)の上を乗ったりそれたりしながら網の底に滑っていく。これがノレソレの由来と言われている。
キスやコハダなどの小さめの魚は直ぐに腹が傷んで、皮が破れてワタが飛びだしてしまう。そして腹の部分が黄色くなってしまう。この状態を業界用語で「やけた」状態と言う。
タコの吸盤には汚れが付いており、念入りに洗わないと食中毒の元になる。海外でタコを食べて、具合が悪くなるのは、洗いが足りなくて吸盤にばい菌が残っているために起こる。
「エンガワ」といえば「ヒラメ」だと思われるが、確かに回転寿司でも「ヒラメのエンガワ」が廻っているお店もある。一皿130〜200円では、「カラスガレイのエンガワ」が多く使用されていることが多い。次は「アワビ」、これは南米から輸入されている「ロコ貝」が多く使用されている。このロコ貝は別名「チリアワビ」と呼ばれているが、アワビとは別の種類であるが食感がアワビに似ていることから、よくアワビの代替品として利用されている。…実はこういったからくりがあった訳。でもよくできている。
日本人は、世界で捕れるマグロの3分の2以上を食べるほどのマグロ好き。しかし、今や人気のトロも江戸時代は全くの嫌われものであり、当時人気があったのは赤身であった。これは、トロに比べて味がサッパリしており、見た目も美しいかったから。当時の魚屋は売り物にならなかったトロは自宅で消費していたが、それにも限界がある。処分に困った魚屋は、やがてこっそりと寿司屋に卸すようになる。寿司屋では、トロも薄く切ってしまえばそう脂っこくないだろうと言うことで、そっと握りのネタに使うようになった。ちなみにトロ人気が高まったのは昭和の戦後からである。
寿司ダネのトリガイは、漢字で「鳥貝」、中国語でも「鳥蛤」と書く。これは、トリガイの味が鳥肉に似ていることによる。新鮮な上物のトリガイは、肉質が柔らかくて甘味があり、歯ごたえも味も、鳥肉によく似ている。
子持ち昆布の表面の卵はニシンの卵。魚の卵には、水面に浮いて漂う「浮性卵」、海底に沈む「沈性卵」、粘って海草などにつく「粘性卵」の3種類がある。ニシンの卵は、そのうちの粘性卵で、海中で昆布やホンダワラにくっついて孵化するまでの時間を過ごす。昆布はいわば、ニシンの育ての親である。最近はニシンは日本近海でほとんど捕れなくなり、子持ち昆布も大半が輸入物になっている。
西洋では、「R」のつかない月(May、June、July、August)には、カキを食べてはいけないと言われる。岩ガキのような例外はあるが、日本でもこの月にはカキを見かけなくなる。これは、夏場は腐りやすいのと新鮮であっても美味くないのが原因である。カキは雌雄同体で、一つのカキが雄になったり雌になったりする。その産卵は夏の初めで、冬になると夏に備えて栄養を蓄え始める。2〜3月には、卵や精子も発達して丸まると太り、味もよくなる。だから冬場のカキは美味い。夏のカキは、生殖を終えたばかりで身が痩せて美味くない。さらに卵巣に有毒物質ができるという説もある。
寿司職人の手には米粒がつかない。これは酢の働きによる。職人は手が届くところに酢を入れた容器を置いて、絶えず両手を湿らせている。これは手酢と呼ばれるもので、手を殺菌するとともに、手のひらを冷やす効果がある。酢が蒸発するときに手のひらの熱を奪う。そのため、寿司職人の手のひらの温度は30度前後(普通は33度〜34度)に保たれている。従って、手の熱でシャリの温度が上がることがなく、米粒に粘りが出ないのでくっつかない。
寿司屋のお茶は熱い。これにはワケがある。脂ののったネタを食べると口の中はかなり脂っこくなる。この脂っこさを解消してくれる効果がある。それにお茶がぬるいと、客はお茶を飲み過ぎて肝心の寿司をたくさん食べられなくなる。
回転寿司のイクラのほとんどは人工イクラらしい。ちなみに作り方は、「中身はサラダ油。ニンジンから抽出した色素で着色している。これと、寒天、アルギン酸ナトリウムを一緒に塩化カルシウム溶液に垂らすと、外側に皮膜が出来て、サラダ油を封じ込めることが出来る。あとは海草から抽出した成分で、それっぽい味や匂いをつければ完成。」。見分け方はお湯をかけると白く濁る方が本物。
トロは高いのに何故かネギトロは安い場合がある。実は安いネギトロには本物のトロは使われていない。ネギトロ用の素材はマグロの赤身のうち、刺身として使えない部分に植物油を混ぜたもの。本来、捨ててしまうような部分を加工している。勿論、高級寿司店ではこのようなニセのトロは使っていない。当然、高価なものとなる。
寿司屋のガリはサービスでも無料でもない。勘定にしっかり乗せている寿司屋は少なくない。現在、寿司屋で自家製のガリを作っている店は1割もない。大半の店は専門業者から仕入れている。但し、ガリ代が勘定に含まれているといっても食べた量で決まるわけではなく、均一料金が上乗せされている。
寿司屋が寿司を握る場所をつけ場と呼ぶ。これはマグロの赤身の塊を酸化を防ぐ目的から醤油につけ込み、その木樽を置いておいたところに由来する。その醤油漬けになったマグロの赤身は、ひかりもの同様、酢飯とほどよい相性を見せ、”づけ”と呼ばれるようになった。今でも、昔ながらの寿司屋では、職人が寿司を握る場所を”つけ場”と呼ぶ。そのつけ場で握られた寿司が置かれるところが”つけ台”であり、今はカウンターと呼ばれることが多くなった。
醤油のことを職人の符丁でムラサキと呼ぶが、これは生醤油のことで、握った寿司の上から刷毛で引く醤油のことは煮切りと呼んで区別する。昔は醤油にみりんを加え、酒を入れたりして、火にかけ沸騰させ、醤油の生の強さをマイルドにさせた。醤油を火にかけて煮きったところからこの名が付いた。また、穴子やしゃこの握りの上に刷毛で塗るソースをつめと呼ぶ。穴子を煮込んだ汁を煮詰めて作ったソースであるところからこの名が付いた。
マグロのうま味はその鉄分である。しかし、冷凍物のマグロの赤身には、マグロならではの香りも鉄分の味も乏しい。脂のとろは冷凍物でもごまかせるが、赤身は脂が少ないのでごまかしようがない。
青森県大間のマグロは最高。中でも11月頃あがったものは赤身とは思えないほどの脂がのっている。昔は大間ではマグロは捕れなかった。青函トンネルが完成して、その上の水温が上がってマグロが集まるようになったらしい。この大間のマグロのとろは、食べるとその脂肪がすうっときれていって、香りだけ残して口の中が爽やかになるほど美味。
中トロの際で、大トロに一番近い部分をえんぴつと呼ぶ。細長く、ほんの少ししか捕れないところから、この名が付いた。見た目は大トロで、味わいは中トロと言った、脂がのっていてもくどくない淡泊な部位。
江戸前の意味は、江戸の海、現在の東京湾で獲れた新鮮な魚介というのが根源。江戸前寿司の両横綱はマグロとこはだ。流通機構も保冷設備もなかった当時は、マグロの塊を醤油に付けて酸化を防いだり、酢じめにして日持ちをよくする工夫や知恵をあみ出した。こうした手間のこんだ職人仕事こそ、江戸前である。
寿司の始まりは、御飯を使わないもので、魚や貝を塩漬けし発酵させたものから始まった。こうすると、自然に酸味がつき、味も良く、保存が利くという効果があった。紀元前数百年に、日本に稲作が伝わり、さらに、魚と貝を炊いた米と一緒に漬け込むと米が乳酸発酵し、これにより、魚や貝が腐るのを防ぐことができるという貯蔵法を知ることになった。これを日本では「ナレズシ」と呼んでいた。つまり、魚肉を塩漬けにしたあと塩抜きし、それを米と交互に漬けこみ、乳酸の作用によって3ヶ月から1年後くらい発酵させてから、米は捨てて魚肉だけ食べるものであった。これは、魚の漬物みたいなものである。1673年〜81年の頃、松浦善甫という医者が、酢を米飯に混ぜ、その上に塩蔵・塩抜きをした、魚などのタネをのせ、重しで押した寿司を考案した。これは後に、「早ずし」といわれ、江戸・上方を問わず、普及した。これがいわゆる「押しずし」である。そして、握り寿司は1818年〜1830年頃に起こったとされている。発案者は行商から身を起こした江戸の花屋与兵衛。これは「与兵衛ずし」といわれ、江戸の名物になった。以来、寿司、特に「江戸前」の寿司といえば、握り寿司を表すようになった。
食用されているウニはウニの卵巣か精巣であり、それは殻から取り出すと柔らかくなり、5日もすると溶けて形が悪くなる。加工業者は見た目の良いウニを出荷したいので、殻から出した時点でミョウバン水を通し、ウニが溶けるのを防いでいます。悲しいことにミョウバンの苦味がウニの風味だと思っている人もいるらしい。
今から1300年程前に税金として朝廷に特産物が献上されていた頃、滋賀、岐阜、熊本の3ケ所からは「鮒寿司」が「なれ寿司」として献上されていた。「なれ寿司」とは、紀元前より穀物の発酵を利用した米作民族特有の保存食品で、ベトナムやミャンマー、中国から日本に渡ってきて、九州、中部、関東地区へと広がったと言われている。現在では「鮒寿司」として名を残し、びわ湖の特産品として重宝されているのは「滋賀県」だけである。このふな寿司に使われるふなは、ニゴロブナという種類。ゲンゴロウブナの一種で「煮頃鮒」と書き、”煮るにころ合い”の大きさの意味で、びわ湖では扁平でない形のものを、ニゴロブナと呼ばれ別名マルブナとも言う。びわ湖産の卵を保有しているこのニゴロブナのメス(雌)ブナのみが鮒寿司に最も適していると言われている。滋賀県の「鮒寿司」は、数少ないこのびわ湖産ニゴロブナのメスブナだけで、生産されている。風味は、塩味と乳酸菌の酸味が、独特の匂いをかもしだし、鮒の肉のしまった舌触りはびわ湖の湖魚料理の最高級品として絶賛されている。この独特の臭いは好きになったらクセになるが、最初は抵抗のある風味である。ニゴロブナはブラックバス(稚魚を食べる)やブルーギル(卵を食べる)の影響で激減しており、一尾で5000円前後するキャビアやフォアグラ級の幻の名品となっている。
刺身という言葉が登場するのは室町時代の15世紀頃。生魚の切り身が何の魚か分かるように皿の上に尾を刺していたという説と切り身というのを忌み嫌って刺身と称したという説が有力である。
醤油の原形となったのは醤(ひしお)である。これは、穀類や鳥獣魚肉、野菜・海藻などの材料に塩を加えて発酵させたものである。それぞれ、穀醤(こくびしお)、肉醤(ししびしお)、魚醤、草醤(くさびしお)と呼ばれる。醤油は味噌と共にこの中の穀醤から変化発展したものとされる。
屋台が一般化したのは18世紀の末頃。当時、江戸で屋台と言えば、テンプラ、ソバと並んで寿司であった。この時代の寿司は握りの寿司の発祥期でもある。当時の握りは大きめでお握りくらいの大きさであった。
特に寿司を食べる順番やマナーなどについて難しく考える必要はない。ただ一般的に言われていることは、淡白な材料から茹でたもの、味の強いもの、巻き寿司の順番で食べるほうが良いとされている。理由は、最初に脂ののった味の強いものを食べてしまうと、口の中に脂が残り、舌の感覚がどうしても鈍ってしまうから。タイやヒラメなどの白身の魚から始まり、トロ、うになどの味の濃いものは後で、また味の濃いものを食べた後は、ガリをつまんだり、お茶を飲んで口の中を整えておくと寿司の風味を楽しむことができる。
寿司職人は、かけ出し3年、片腕5年、旅立ち7年と言われる。この意味は、“お茶の入れ方から出前、掃除など雑務を3年”、“寿司の技術を覚えて一人前になるまでに5年”、“寿司職人として認められるのに7年はかかる”に由来する。
寿司タネの中でも、魚の皮の光っているものの総称。コハダ、アジ、サバ、イワシ、サヨリ、キスなど。中でもキスは光りものの逸品と言われる。旬は6月。クセのない上品な味で、海の鮎と言われる。一般的に通は光りものにこだわる。それは、光りものはすし魚のなかでは比較的に値段が安く、庶民的な、ありふれた魚が多く、そうした魚を技術の手を加えておいしいお寿司に仕上げるところに値打ちがあるとされるため。従って、コハダを始めとする光りものが美味しければ、他のものも必ず、おいしいはずであると考えるため。
今やすっかり福井名物となったのが、焼きサバ寿司。福井伝統の「浜焼きサバ」と酢飯、生姜、青じそが絶妙にマッチしている。発祥は5年ほど前で、三国町に住む中本さんが、地元「三国祭」の目玉にと考え出したのが最初。この寿司は、冷ました焼きサバを酢飯にのせ、寿司仕立てにしたもの。サバは身側から焼き始め、中火で身側を6分、返して皮側を4分の割合で焼く。すし飯をやや甘めに作るのがコツ。
ハランとは、葉蘭と書き、寿司の間仕切り等で使用される緑のビニールのことをさす。しかし、元々はビニールではなく、蘭(ユリ科の多年草)の葉っぱであった。それが語源で「バラン」という言葉が出来た。このハランには、主に前出の蘭を使ったもの(葉蘭)と、熊笹を使ったものの2種類がある。熊笹によるものは一般的に「切り笹」とも呼ばれる。この葉は、毒消しなどの薬効があるらしい。
昔は玉子を自店で焼くお店が多く、玉子を焼くには火加減などの技術が難しく、中身も魚やえびのすり身を加えたりといろいろ工夫していた。そのため、その店の職人の腕前が「玉」でわかるとされていたが、現代ではたいていのお店が玉子焼きの専門店から仕入れているため、このような腕前の差は分からなくなってきている。
江戸前寿司=にぎり寿司(はや寿司)に対して、大阪寿司は、押し寿司(馴れ寿司)ということが江戸前寿司との違いであった。しかし、今や大阪寿司の本場の大阪でさえ寿司屋といえば握りが主体であり、純粋に大阪寿司で商いをしている店は本当に数えるほどしかない。大阪寿司というのは、箱寿司に代表されるが、他にも巻き寿司、棒寿司、ばら寿司などを指します。つまり、握り以外の寿司は、大阪寿司ということになる。
巻寿司と稲荷寿司の組合せを助六というのはなぜか?これは次のような歌舞伎に由来する。歌舞伎の人気演目の主人公で、江戸っ子のヒーローである「助六」の彼女は、「揚巻」という名のスペシャル高級遊女。だから「揚(あげ)」→油揚げ→稲荷寿司 と「巻(まき)」→巻き寿司 のその組み合わせを江戸っ子らしい洒落であえて彼氏の「助六」の名で呼ぶようになった。
秋田のしょっつると並ぶ正月料理。ハタハタを塩漬けにしてから、ニンジン、生姜、ご飯を混ぜて発酵させる。このハタハタは、ハタハタ属はたはた科の魚で、深海250メートルの海底に生息する深海魚。11月末から12月中旬にかけて、水温が12〜13℃になる頃に産卵のため浅瀬にやって来る。
能登で獲れる寒ブリを薄切りにして、塩漬けのカブラに挟み、糀で漬けた発酵寿司。富山湾で獲れるブリは、古来「越中ブリ」と呼ばれ、今も最高級ブリの代名詞となっている。その中でも特に氷見の寒ブリといえば、東京の築地市場でも高値で取引されるブランド品。かつて、富山湾で獲れたブリは塩ブリに加工され、山道を越え、糸魚川や飛騨高山を経由し、遠く信州の山里にまで運ばれた。この、いわゆる「ブリ街道」が示すように、ブリは沿岸から山間にいたるまで、各地の文化に深く溶け込んでいる。
三重県南部の熊野市や御浜町で食べられる、熊野灘沖で獲れるサンマの姿寿司。ほどよく脂がのって新鮮なサンマを使う。サンマを背開きにして骨を除いて、軽く塩漬けし、さらに酢・砂糖・橙の汁に漬けてから、握った酢飯の上に載せて出来上がり。
寿司一貫あたりの平均カロリーは50kcal程度。勿論、ネタの大きさによって多少の変動は有り。やはり、高カロリーなのは、脂身の多い“マグロのトロ”で、80kcal程度である。
マルアナゴとは、ウナギ目ウミヘビ科ウミヘビ属のウミヘビである。ペルーなどの中南米から輸入されている。目的は、安価でアナゴの代用として利用するためらしい。回転寿司のネタではないかと話題になったこともある。もともと現地の人は食用にせず、日本に輸出するためだけに漁獲している、という話もある。
回転寿司の珍しいネタとして、深海魚のアブラボウズなるものが存在する。千葉の銚子あたりでは有名。クロウオとも呼ばれるこの魚は、脂のノリが濃厚。但し、食べ過ぎると下痢などの症状に見まわれることもあるので要注意である。このアブラボウズを高級魚のクエと偽って販売する事例が相次いだとして、農林水産省は、漁業団体や流通業界、都道府県などに対し、注意喚起の文書を出した事実もある。それだけ、クエに似ている魚である。
丸みを帯びた胴体に大きな耳のようなヒレが付いており、丸い形で4cmぐらいの胴が特徴のこじんまりしたイカ。 陸地近くの沿岸の砂底に生息し、昼間は砂から眼だけだしており夜行動する。 身が柔らかく、墨以外は食用となる。酒と醤油とみりん、生姜を入れて煮付けにすると美味。
回転寿司のネギトロはビンチョウマグロ、メジマグロ、キハダのトロの部分や中落ちなど、いろいろなものを混ぜて作られている可能性が高い。また色が変わりやすいので、見た目を保つ添加物や、酸化防止剤も使われる場合も多い。またガリには着色料や保存料が入っている場合も多い。次はネタの嘘。アマダイは南アフリカなどで獲れるキングクリップという魚。スズキはアフリカの淡水魚ナイルパーチ。カンパチは亜熱帯で獲れるスギ。鰆が南半球で獲れるバラクータ。サーモンはマス。ホタテは中国で養殖されているアメリカイタヤガイであることもありえる。本来クルマエビを使っていたエビに、養殖もののウシエビ、いわゆるブラックタイガーを使用するのもそのひとつ。
柿の葉寿司はかつては(江戸時代中頃発祥)、吉野地方の家庭料理であり、夏祭りのご馳走だった。作り方は、十分に塩気の回った鯖を薄身にそぎ、一口大に握られたおにぎりの上に置く。それを柿の葉で包み込み桶の中に敷き詰め、上に蓋をして重石をのせてねさかす。三日間ほど経って発酵が始まると食べ頃。その後三日間ほどは美味しく食べられる。柿の葉にはタンニンという高血圧を抑える成分が含まれていること、それが食物保存に有効であること、ビタミン類が多く含まれていることが、利用される理由。昔は鯖だけを利用していたが、間もなく鮭も使うようになる。今ではいろいろなスシネタが使われている。ちなみに、柿の収穫量全国1位は和歌山県で、都道府県別にみた収穫量割合は、和歌山県が22%、奈良県が12%、福岡県が10%、岐阜県が7%となっており、この4県で全国の約5割を占めている。
日本のみならず世界的にも最高の評価を受ける、銀座にある超高級な江戸前鮨店。ミシュランで7年連続三ツ星に輝くほどの評価。小野二郎さんの職人技で、すしダネと磨き込んだ技によって生まれた酢めしとのバランスが絶妙。なんと、カウンターはおまかせ二万円から。店内は、十席ほどのカウンターにテーブル席がひとつだけ。店は八時で閉まる。