毎日平和な生活を送りながらも、彼女はどうしてもあの日の事が脳裏に焼き付いて離れなかった。 ―――俺の中にある【片闇】の能力・・・かつて俺が死んで奴が蘇生してくれた時に、俺の中にも生まれた奴の能力・・・これがあればニヒトがやろうとしているアルシャークの蘇生もうまくいくかもな?どうだ?俺を倒して【片闇】を奪ってみるか???――― どちらかを選べない、と言いながらも、今まで気になっている自分が最低だと思った。 同時に、今はウマリー島からツェンバーへ派遣され、仕事を成すにも大事な時期だというのにも関わらず、余計な事を始終考えている自分にも呆れていた。 しかし、自分を卑下しても、そうまでしても自分の中では決着をつけたい事であって。 彼女は1つ、決心した。 もし、彼と戦って彼から【片闇】を奪えたとしても、それは自分自身が背負って生きてみよう。 アルシャークを生き返さず、それは自分の気持ちやニヒトの思いをよく話し合ってから、決めようと。 彼女は早速、手紙を書いた。 明日の深夜に、ベミナパのコロシアムで待ってます、 それだけを、書いて。 特に何かを意識していた訳ではないが、無意識とは怖いもので。 彼女は夕暮れから、観客席でコロシアムを見つめていた。 がらりとしたコロシアムは1人で考え事をするにはお誂え向きで、いつ彼が着ても戦える状況ではあった。 それまで、と思い、彼女は頭の中を整理する。 しかしそれはなかなか上手くいかず、余計混乱してきた。こういう時は何も考えない方がいいのか、と思いながら飛竜の加護が備わった魔杖を握り締めた。そしてただ、魔力を高めて臨戦体勢に入った。 そうして深夜0時。 まるで時間を示し合わせたかのように2人は、コロシアムへと足を踏み入れた。 「血の決戦を邪魔するなら女でも容赦しない・・・」 彼の名をふと呼ぼうとすると、彼も臨戦体制で来たのであろう、闘気と殺気で赤いオーラを身に纏っていた。 「まさかこんな日が来るとは・・・」 彼女の紡いだ言葉は、過去の【仲間】としての日々を憂いたものだった。 しかし、この場で甘い事はこれ以上言ってはいられない。 力で敵う訳はないと察した彼女は、先手必勝瞬間移動で彼の背後をとる。そして素早く魔法を唱え始めた。 彼女の周辺に、見えない力が集まり始める。 しかし集中が途切れたのか、魔法は不発で何も起こらない。 その隙を逃さず、彼も装備していた槍で彼女に攻撃を仕掛ける。 その攻撃は良い個所を捉えたが、決め手には一歩欠けた。彼女は掠めた左脇腹を抑えながら、左手に構えた魔杖で彼に襲い掛かる。しかし彼は上手く身をかわし、その攻撃は彼の左腕を掠めただけだった。 彼女は次なる攻撃を繰り出すべく、体勢を立て直す。そして少し間合いを取り、魔法を唱える真似をして向かってくる彼に魔杖を振りかぶった。しかしこれも彼の左肩を掠めるだけの結果となり、彼女は再び間合いを取った。 だが、これが命取りとなり。 「片闇奥義・・・【絶・掌妙剄】」 気がついた時には目前に彼を捉え、防御する間も与えられず。 鋭い攻撃が、先程の傷を更に抉っていた。 ―――私はここで・・・死ぬの? 一瞬、脳裏に死が過ぎる。 それと同時に、本能的に彼女は大声で叫んだ。 「い・・・いやぁぁぁぁぁっ!」 ふっ、と彼は満足そうに笑みを浮かべると、彼女の血で濡れた愛槍を天に突き上げ、叫んだ。 「ニヒト!!この悲鳴が聞こえるか!!」 彼女はその言葉を聞き、意識を失う前に1つだけ、思った。 ―――やはり無謀だったのかしら・・・・・・ はっきりとした1つの【答え】が出せていたかった代償ね、と思った。 next