4th イメージ・ウッド
Recollect WOOD.
 今日は、3週間ぶりの休日である。
 いつもは、休みになると、皆を呼んで、ドライブにでも行くのだが、今回は呼ばなかった。実を言うと、今回に限って、電話するたび、皆が皆、用事があるといって断るのだから仕方がない。
 そこで、今日はゆっくりと寝過ごすことにした。ところが、家で寝ていると、どうもおちつかない。
 そういうわけで、散歩に中央公園まで行くことにした。
 途中、本屋に入って本をさがした。
 厚表紙のB4ぐらいの白い本。
 一応見付けたが、思ったより高かった。
 まあ、ベッドを一式買うより安いものだ。
 そうして、中央公園につくと、林駆けの方へ行って、横になった。
 時おり風がふく、林がざわざわするが、静かなものだ。
 そうして、買って来た本の真ん中を開いて、顔にかぶせて眠った。
 本を買ったのは、まぶしい陽をよけるためだ。林の中に行けば、枝が影をつくってくれるので、そんな物を必要としないが、じきにさむくなってくるだろうから、この春の陽のあたる所で、顔だけかくして眠りたいのだ。
 しばふのベッドは、そういうベッドよりも寝ごこちがいい。金のかからぬ分は幸せだ。
 横になって、分もせぬうちに眠ってしまっていた。春陽があたたかいからだろう。
 それから、浅く眠った。
 しばらくすると、声が聞こえた。どこか、林の中で誰かが話をしているようだ。
 「元気出せよ。次があるさ」
 「そりゃ、君は、合格したからいいだろうけど」
 「そんなことないさ」
 「いいよ、なぐさめなくても」
 どうやら、受験の話らしい。
 『それで、このざまだ、見てみろよ、”合格”ってほってあるんだぜ』
 『それならまだいいさ、こっちなんか』
 何かよくわからない。さっきの人の声じゃない。
 「好きです」
 「・・・」
 「・・・」
 「僕も、前から・・・」
 「・・・」
 女の子が、男の子に告白しているらしい。うらやましいものだ。恋物語ですか。
 『ほら、相合傘なんかほって名前入れてあるだろ』
 『おやおや』
 さっぱりわけがわからない。
 「くそ、おもしろくもない。あいつのどこがいいんだよ、まったく。どうかんがえても俺の方がいい男だぜ」
 ひがみだろう。
 『そのうえ、傘に傷つけて、腹いせだ』
 『ふうん、人間達は大変らしいね』
 『なげき、あわれみ』
 『それから、ときめき、好き、好かれ』
 『うらみ、ねたみ』
 『人間の心は、くさっちまったんだ』
 『そうだ、くさったんだ、きっと』
 『昔は、皆と仲良くしていたのに』
 『うん。昔は良かったのに、今じゃ、人間の心はくさって、今度は我々を切り倒してはよろこんでいる』
 『ああ、我々はどれくらいここにいて、生きていられるのだ』
 『さあな。でも、まだだいじょうぶだろう。わざわざ、ここへもってきて植えられたぐらいだから』
 彼らが何を話しているのか全くわからない。
 「もーいいかい」
 「まーだだよ」
 「もーいいかい」
 「もーいいよ」
 「よーし、それじゃいくぞ」
 「・・・」
 「みいーつけた」
 「あーあ。みつかっちゃった」
 子供たちが、かくれんぼをしているらしい。
 『このくらいの頃は皆、ああだったのに、人間社会では、大人になるということがあるから、心がくさっちまうのだろうか』
 『でも、昔は、大人でも、我々に声をかけてきたぞ。それに、今では子供でも、話しかけてこないじゃないか』
 『そうだな』
 考える。
 切り倒す。植える。
 彼らは、さっきから、声のする度に、ささやくようでもあり、それでいて、この林いっぱいに響くように話しているのは、この公園の木ではないのか。
 切り倒しよろこぶ、森を伐採して、道や、施設を作っては、社会のためだ、と言っている人間のことか。
 はっとして目覚めた。
 夢か。そんな気もした。
 でも夢じゃないと思える。
 眠っている間に見聞きするのは夢だというが、今のは夢ではないような気がする。
 さっきの、人々の声の主は、誰一人いない。きっと、林の木たちが、過去の出来事を、声だけ再生したのだろうか。
 本を忘れて、立ち上がって、いそいで、本を拾った。そしてはたいた。
 やっぱり誰もいない。
 そうして、林を抜けた。
 静かだ。何も聞こえない。
 抜けでてみて、思った。
 ふりむいて、林の木々に向かって言った。
 「ありがとう。さようなら」
 何も応答がない。やっぱり夢か。
 風がふく。快い。
 林がさわぐ。
 『ありがとう。さようなら』
 そう鳴ったように聞こえた。