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今日は、3週間ぶりの休日である。 いつもは、休みになると、皆を呼んで、ドライブにでも行くのだが、今回は呼ばなかった。実を言うと、今回に限って、電話するたび、皆が皆、用事があるといって断るのだから仕方がない。 そこで、今日はゆっくりと寝過ごすことにした。ところが、家で寝ていると、どうもおちつかない。 そういうわけで、散歩に中央公園まで行くことにした。 途中、本屋に入って本をさがした。 厚表紙のB4ぐらいの白い本。 一応見付けたが、思ったより高かった。 まあ、ベッドを一式買うより安いものだ。 そうして、中央公園につくと、林駆けの方へ行って、横になった。 時おり風がふく、林がざわざわするが、静かなものだ。 そうして、買って来た本の真ん中を開いて、顔にかぶせて眠った。 本を買ったのは、まぶしい陽をよけるためだ。林の中に行けば、枝が影をつくってくれるので、そんな物を必要としないが、じきにさむくなってくるだろうから、この春の陽のあたる所で、顔だけかくして眠りたいのだ。 しばふのベッドは、そういうベッドよりも寝ごこちがいい。金のかからぬ分は幸せだ。 横になって、分もせぬうちに眠ってしまっていた。春陽があたたかいからだろう。 それから、浅く眠った。 しばらくすると、声が聞こえた。どこか、林の中で誰かが話をしているようだ。 「元気出せよ。次があるさ」 「そりゃ、君は、合格したからいいだろうけど」 「そんなことないさ」 「いいよ、なぐさめなくても」 どうやら、受験の話らしい。 『それで、このざまだ、見てみろよ、”合格”ってほってあるんだぜ』 『それならまだいいさ、こっちなんか』 何かよくわからない。さっきの人の声じゃない。 「好きです」 「・・・」 「・・・」 「僕も、前から・・・」 「・・・」 女の子が、男の子に告白しているらしい。うらやましいものだ。恋物語ですか。 『ほら、相合傘なんかほって名前入れてあるだろ』 『おやおや』 さっぱりわけがわからない。 「くそ、おもしろくもない。あいつのどこがいいんだよ、まったく。どうかんがえても俺の方がいい男だぜ」 ひがみだろう。 『そのうえ、傘に傷つけて、腹いせだ』 『ふうん、人間達は大変らしいね』 『なげき、あわれみ』 『それから、ときめき、好き、好かれ』 『うらみ、ねたみ』 『人間の心は、くさっちまったんだ』 『そうだ、くさったんだ、きっと』 『昔は、皆と仲良くしていたのに』 『うん。昔は良かったのに、今じゃ、人間の心はくさって、今度は我々を切り倒してはよろこんでいる』 『ああ、我々はどれくらいここにいて、生きていられるのだ』 『さあな。でも、まだだいじょうぶだろう。わざわざ、ここへもってきて植えられたぐらいだから』 彼らが何を話しているのか全くわからない。 「もーいいかい」 「まーだだよ」 「もーいいかい」 「もーいいよ」 「よーし、それじゃいくぞ」 「・・・」 「みいーつけた」 「あーあ。みつかっちゃった」 子供たちが、かくれんぼをしているらしい。 『このくらいの頃は皆、ああだったのに、人間社会では、大人になるということがあるから、心がくさっちまうのだろうか』 『でも、昔は、大人でも、我々に声をかけてきたぞ。それに、今では子供でも、話しかけてこないじゃないか』 『そうだな』 考える。 切り倒す。植える。 彼らは、さっきから、声のする度に、ささやくようでもあり、それでいて、この林いっぱいに響くように話しているのは、この公園の木ではないのか。 切り倒しよろこぶ、森を伐採して、道や、施設を作っては、社会のためだ、と言っている人間のことか。 はっとして目覚めた。 夢か。そんな気もした。 でも夢じゃないと思える。 眠っている間に見聞きするのは夢だというが、今のは夢ではないような気がする。 さっきの、人々の声の主は、誰一人いない。きっと、林の木たちが、過去の出来事を、声だけ再生したのだろうか。 本を忘れて、立ち上がって、いそいで、本を拾った。そしてはたいた。 やっぱり誰もいない。 そうして、林を抜けた。 静かだ。何も聞こえない。 抜けでてみて、思った。 ふりむいて、林の木々に向かって言った。 「ありがとう。さようなら」 何も応答がない。やっぱり夢か。 風がふく。快い。 林がさわぐ。 『ありがとう。さようなら』 そう鳴ったように聞こえた。 |