5月2日。
フロントマンのバイトを初めて、はや3年。 ホテル中探しても、もうオレを叱れる人間がいない、と先日大見得を切ったんですが。
いました。 ジャイアニズム炸裂のこのオレ様を、完膚無きまでに叱りとばして、思わずそのままトイレの個室に駆け込んで嗚咽してしまいそうになるくらいヘコませることのできるジャイアンの母ちゃんの様な最強の存在。
それはお客さん。
いや実際、そこそこキャリアも長いですし、右も左もわからなかった新人の時代に比べれば、どんなお客さんでも、そうカンタンにテンパったりはしません。ただ、中にはそんなオレのささやかなプライドなど鼻息で吹き飛ばしてしまう猛者もいます。
その中でも最強の名を欲しいままにしているこのババァ。その日の予約カードに服部洋子(実名)の名前を見つけた瞬間、ぞっと戦慄しない人間はいません。 そんなに気に食わないんなら余所泊まりゃいいのに、と心から切に切に思うんですが、なぜかしばしば来館しては、不幸にして居合わせてしまった人間を言葉の暴力でボコボコにしていきます。もう半分くらいそれが目的なんじゃないかと思います。どこの世界にも、他人にケンカをふっかけるコトによって着々と寿命を延ばしてゆく種類のサイヤ人みたいな年寄りはいるもんですが、これも間違いなくその一人。二回に一回くらいの割合で一緒に泊まりに来るダンナさんは、いい人なんですが。
彼女、それが新人だろうとなんだろうと、応対した人間が彼女の顔を知らないととりあえずブチ切れます。肩書きとかそういったステイタス一切無しに、 「アタシを誰だと思ってるの!!服部洋子よ!!」 なんて途轍もないことを言い放てる人間を、オレは初めて見ました。 マニュアル通り宿帳に住所と電話番号を書いて頂こうとなんてしようものなら、 「支配人出てこい、こいつクビにしろ」正にハイテンション。 デポジット制度なんてもちろん通用しません。客室清掃の手違いで、室内備品に不備でもあった日には、その日の責任者が部屋に呼ばれてお説教小一時間コースが当たり前。
東池袋の暴走タイフーンババァ。ヤツこそ真のジャイアニスト。腕力に任せて左手一本で捻り潰せたらどんなにスッキリすることか。そのへん客商売の辛いところです。
つうワケでもうおわかりの通り、昨日洋子ちゃん台風急襲。 持てる限りの接客テクニックを尽くして応対した甲斐あって、なんとかご機嫌を損ねることなくお部屋にお入り頂いた、と思ったのもつかの間。
「ちょっとこれ、9千いくらってどういうコトよ!!」 「は?……し、少々お待ち下さいませ!!」
宿帳カードには、室料を記入する欄があります。一瞬、オレが額面を書き間違えたのかと思い、社員に確認したのですが、複写紙を通した写しには、ホテル中で最も安い部屋の室料が正確に書き込まれてあります。
「ははあ、税別料金のこと言ってるんじゃないの?」 「あ〜……なるほど……」
基本的に、料金を案内するときに「税込み」「税別」を明言しないと言うことはありません。最近確かに新人バイトも増えましたが、なんせご夫婦ともども何度も宿泊暦のある常連さんです。それならちゃんと説明すればわかっていただける、と思ったオレがアホでした。
「お待たせしました、そちらですね、税込み料金に「フザけんじゃないわよ!」
ふ、フザ……?
「客が払う金全額できちんと案内しないとはナニゴトよ!!詐欺だよアンタ!!」
え〜どうやら、惑星ベジータには消費税という概念が存在しないようです。
「ちゃんとうちのダンナから、8千円台で泊まれるって聞いてきてるんだからね!!」
テメェんとこのトボけたダンナが、税別って言ったかどうかなんてオレが知るかボケ
「アタシを舐めるんじゃないわよ!!」
だったら前んときの室料ぐれえ覚えとけよどうせいつもと同じ部屋なんだからよ
で、残業スよ。もうマジで、給料上げてください支配人。
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