凋落の構図






さて、一部待望の美味しんぼ分析です。
一般向けに書こうと努力はしますが、マニア以外置いてけぼりの可能性大ですあしからず。



ちょっとその前に、「おいしんぼ」と書いて単純に変換すると、「オイ新保」「お威信母」なんて、イキナリ後輩を呼びつけるホモの先輩(「オイ」がカタカナのあたりがホモ)とか、異常に権力を持ったかかあ天下の図なんかが浮かんできてちょっと困ってしまうので、単語登録。


さあこれでオッケーです。美味しんぼ。
これで何回だって平気です。美味しんぼ。美味しんぼ。美味しんぼ美味しんぼ美味しんぼ。

ってなワケで、美味しんぼなんですが。

言わずと知れたビッグコミックスピリッツの長期連載マンガです。既に連載も18年目(!)に入り、青年誌には欠かすことのできない「大いなるマンネリズムを踏襲するポジション」を担っています。山岡と栗田さんの結婚以降は、特にその傾向が強くなってきたように思えます。


1:至高vs究極を始めとする、海原雄山との対決
2:ご当地の取材モノ
3:誰かが山岡と栗田さんに相談を持ちかけ、それを料理で解決
4:山岡もしくは栗田さんが道すがらトラブルに巻き込まれ、それを料理で解決
5:富井副部長関連
6:その他(結婚、出産など、特殊なイベントにまつわる話)


以上が、美味しんぼの全てです。

最も多いのは3に分類されるエピソードで、相談を持ちかけてくる人物としては、京極、唐山陶人、大原社主、小泉編集局長、岡星、美食倶楽部の中川、ニューギンザデパートの板山社長、中松警部、ブラックさん、結婚後のアパートの大家である尾沢さん、政治部の松川、社員食堂の相川シェフ、その他様々な人物がいます。
次に多いのが2のパターンで、自殺未遂の相撲取り、路上で刃物を振り回す鰻屋、記憶喪失のカレー屋などなど、こちらも枚挙にいとまがありません。
富井副部長はあまりにも面白すぎるので別枠にカテゴライズ。
恐らく数%の割合にしか過ぎないであろう6を例外的に含め、美味しんぼの全エピソードは、上記で完璧に分類可能です。

ローテーションとしては、何ヶ月かに一度1があり、その間を3、4、5がつなぎ、2を経由して1に戻る、という構造に分析することができるでしょう。最近(山岡の結婚以降)、山岡と海原雄山の対立関係が緩和しつつあるためか、対決エピソードが減り、必然的にマンネリ色が濃くなってきているのだと思われます。

青年誌が想定する読者層を考えると、そういった永遠を連想させるマンネリズムが、リーマンの疲れた心を癒すのかも知れません。実際、「なぜか笑介」を読むとなぜか少し癒されます。ズコッ!!



さて。



一般的には案外忘れられていて、ちょっと陰湿なオールドファンが未だにネに持っていることといえば、それはそう。なんといっても「山岡のキャラチェンジ」でしょう。

第一話の山岡は、まだ新入社員であった栗田さんを冷たく鼻であしらう無頼漢。同僚の田畑さん(当時)や花村さん(当時)にも、バカにされるというよりむしろ疎まれ避けられる、はぐれヤンキー型クラスメイト的存在でした。その後の呑気な「グータラ社員」ぶりはこの時点では見る影もなく、「怠け者」というよりは「ヤクザ」「チンピラ」といった風情を醸し出していたものです。

そんな山岡が、実は繊細で鋭敏な味覚を持ち、料理の知識と腕は本職顔負け、そういった意外なポテンシャルを時にクールに、時にホットに駆使しては、高慢な食通をやりこめたり、うならせたりする姿はいかにもカッコ良かったんですが。

実際問題、その頃の輝ける山岡の姿はほとんど忘れ去られていて、それ以前にそもそも知らないって人さえ多いかも知れません。

美味しんぼに限らず「こち亀」や「ゴルゴ」など長期連載のマンガにとって、絵柄やキャラの性格が変化するのは避けられない業であると言えます。初期のデューク東郷なんて実は結構喋り倒してますし。時代背景や作者の技量など、うつろいやすいものを反映するだけに、ある程度、時には大きく変わっていく方がむしろ自然です。
そのコトを認めた上で、その変遷の過程を辿ってみたいと思います。



では、検証のために、一巻から読み返してみることにしましょう。



















4時間半経過。







え〜マジごめんなさい気づいたら15巻読んでました。おそるべし初期美味しんぼ。
チナミにトンカツ大王の回とアップルパイの回で号泣。


既に15巻時点における山岡のキャラは、すっかりおなじみのポジションに収まって、栗田さんにつっこまれたり田畑さん(当時)に殴られたり富井副部長に追いかけ回されたりしてます。

冷静を思いっ切りキモに命じた上で、改めてパラパラと見直してみました。
その結果、明確な「転換点」が見つからなかったのは予想通りでしたが、いくつかポイントとなるであろうシーンが発見できました。以下にピックアップしてみます。


a:第33話「うどんの腰」。「初めて山岡が川に落ちる」
b:第43話「サラダと美容」。「初めて山岡が栗田さんに殴られる」
c:第44話「もてなしの心」。「山岡が競馬を辞める」


まず「a」について。山岡が川や噴水に落ちる、転んで怪我をする、といった「つかみ」は、2のカテゴリーにおける「トラブルの発端」として、その後定着する手法です。それまでにおけるトラブルは、山岡が「ケンカを吹っかける」ことによって引き起こされるケース(例えば8話「野菜の鮮度」、21話「土鍋の力」など)がほとんどで、こういった「隙」をかいま見るエピソードは全くありませんでした。

「b」からも、似たような分析ができます。山岡が誰かに殴られる姿も、この時が最初です。これは栗田さんの山岡に対する警戒心や緊張感が薄れ、二人の心の距離が近づいていっていることを示すものです。「山岡と栗田さんの関係」が変化していくにつれ、それ以外の人物も山岡に対する態度をどんどん変えてゆき、よってたかってボコボコにされるお馴染みの「ツッコまれキャラ」へとつながっていくワケです。

「c」は、案外見落としがちなファクターですが、実は重要な意味を持っています。
海原雄山との勝負(至高vs究極の前段階)に負け、「お前には味を語る資格がないっ!!」とまで言われた山岡が、最後のページでぼそっとつぶやく一言で、本当にこれ以降、たった一回の例外(第163話「生肉勝負!!(前編)」)を除き、山岡は競馬から足を洗います。
このことがどうして重要かというと、山岡の「素行不良ぶり」の象徴が、「競馬新聞を片手に競馬場に向かう姿」から、「居眠りする姿」にとって変わるからです。以降、山岡が纏うオーラからはピリピリしたアウトロウのイメージが失われていき、よだれや寝起きの半眼など、怠惰で緊張感のないキャラクターが形成されていくことになるのです。

つまり、単行本でいう4巻から5巻のあたりを曖昧なターニングポイントとして、山岡士郎の堕落は始まっている、と言えます。



結論。案外早かった。





で、今は21巻を読んでいます。二木まり子&近城カメラマンの登場で波乱の予感。
いや〜〜あなどれないわマジで。









参考:「美味しんぼデータベース」





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