後ろから、誰かに名前を呼ばれるとします。 すかさず、「てけとぅぃ〜ん」というあのイントロを口で再現しながらスローモーションで振り返れば、それだけで日常はルーチンワークから一気に恋物語。これ、「東京ラブストーリーごっこ」と言います。それにしても一正、ドコまで声、透明やったら気がすむねん自分。
ともあれ、友達との間でしばらく前に(つうか今更)こんな遊びが流行るぐらい、東京ラブストーリーは名作なワケなんですが。
ちょっとデータを調べてみたところ、放送されたのは、1991年正月からのクールで、枠はもちろん月曜9時。「せ〜ので後ろ向くの」「セックスしよう」「魔法なら使える」「あいつはもういないんだ」などなど、数々の名セリフを残し、10年以上の時間を経てなお信者みたいなノリで神格化するヤツ(オマエのことだY)まで存在する、「月9伝説」のひとつです。その後、他局はもちろんCX自身までもをヨリシロにパクリの花が繚乱し、数限りない亜流を産んだのはご存じの通り。
ストーカーに自宅で襲われかけたところを、偶然通りかかった隣人に救われた、駆け出しのダンサー。それをきっかけに自然と恋に落ちる二人。 しかし、彼は彼女に嘘をついていた。 運命の導きと思えた偶然は、男がしかけた盗聴器がもたらしたものだったのだ「盗聴ラブストーリー」
バブルという狂乱の時代、運命のいたずらにより互いの素性を知らずに交錯した、2つの人生。 有能で潔癖な若き証券マンと、裏世界を暗躍する美貌の女相場師。数奇な出会いと狂おしいまでの愛、そして訪れる対決の時……。 熾烈なマネーゲームの果て、愛を選んで死にゆく男と、金を掴んで生き残る女「東証ラブストーリー」
環境破壊の忌み子か、突如新宿に出現し、猛烈なイキオイで繁殖を始める謎の線状生命体。その生物が体内に持つ未知の毒物に現代医学は無力であり、しかもそれら自体あらゆる薬物に耐性を示すのだった。 全ての駆除プロジェクトが頓挫し、幾何級数的に被害が拡大していく中、最後の希望、救世主として政府は一人の男を召還する。 その名は島袋源治。人類の叡智が敗北した今や、都民の存亡は、島袋の双肩に賭けられたのである。 遙か琉球の地からやってきた、あるヘビ捕り名人の孤独な戦い「東京ハブストーリー」
やはりダジャレはグズグズになります。
話を戻すと、このドラマに於いて議論のネタになるテーマのひとつが、最終回において「なぜ、リカはカンチを待たなかったのか?」というヤツ。
21世紀になってネタバレを気にしてもアレでしょうけど、これから見ようと思っている人は以下の文章を読まない方が得策です。もう遅いですか? 十年以上ほっといたアンタが悪い。
で、まあ凡庸に解釈すると、カンチが本当に好きなのは、肩幅の無闇に広いさとみちゃんの方であり、リカにはそれがわかっていた、と。しかしあの状況下に於いて、ああいう形で約束をすれば、優しいカンチはきっと「来てくれてしまう」。リカは、一本早い電車で先に行くことで、自分から身を引いたワケです。「一番好きな人と一緒にいることが、一番幸せである」ということを、誰よりも知っているリカだからこそ。自分の幸せより、好きな人の幸せを願えるリカだからこそ。セツナイネ〜。F2層のハートワシ掴みダネ〜。
当時リアル厨房だったオレに、そのへんの機微が理解できるはずもなく、残ったのはただ不完全燃焼の思いだけでした。あれからいくつかの経験を経て、その展開の意味が少しはわかってきたつもりです。
さてもちろん、ああいう形のラストだったからこそ、東京ラブストーリーは名作足り得ましたし、多くの人の心を今でも捕らえて放さないのでしょうが、それでも「もしも」の話を考えたくなってしまうのが人情というモノ。
梅津寺駅、時刻は4時33分。
一本早い電車で去ろうとするリカ。それでもギリギリまで躊躇ってしまう。 発車のベルが鳴り、ようやく意を決して電車に乗り込もうとした、その腕を後ろから捕まれる。あっと思う間もなくホームに引き下ろされ、電車のドアはリカの目の前で閉まる。
「こんなことだろうと思った」
息を切らし、汗だくのカンチ。だが、その目は優しく微笑んでいる。言葉を失うリカ。
「まあ、おまえらしいと言えばおまえらしいよ。俺の為に身を引こうとするなんて、な」
ホームの脇の白い柵に寄りかかり、カンチはさらに言葉を続ける。
「誰よりも我が儘に見えるけど、本当は誰よりも人に気を遣ってる」
リカも何か言おうとするが、いつものようにうまく言葉が出てこない。そんなリカを、カンチは優しく見つめながら、静かに、だがはっきりと言う。
「今ごろわかった。そんな赤名リカが、そんな赤名リカだからこそ、俺は、おまえが好きだ」
「…………!!」 リカの瞳にみるみる涙が溢れ出す。カンチはそっと、その体を抱き寄せる。
「……カンチ……」
「結婚しよう、リカ」
リカの濡れた瞳が大きく見開かれ、さらにそこに新しい涙が湧きだしてきた。なきじゃくり言葉にならないリカの「返事」を、カンチは肩に感じていた。
「ほら、涙拭いて」
カンチが差し出したのは、リカが柵に結んでおいた、あのハンカチだった。
「もう一回、ちゃんと洗って返せよな。……その、文字も、きれいに」
「バイバイ、カンチ」そこには、そうかかれてあった。
三十年後。光に満ちた縁側。
不治の病に倒れたカンチ。熾烈な闘病を続けるその側には、変わらずにリカが寄り添っている。
「カンチ、カンチィ!ごはんだよ〜!」
厳しい食事制限にも関わらず、持ち前のアイデアで美味しいものを作ろうと、献身的な努力を怠らないリカ。動物性タンパク質と脂肪をを極力控え、なおかつバラエティにとんだメニューが食卓に並ぶ。
相変わらず口べたなカンチは感謝の気持ちをうまく伝えることができない。
食事の最中、リカは一枚の葉書を取り出す。
「ほら、三上くんのところ。初孫だって♪かわいいねぇ〜♪」
「ホントだ」
「ウチもほら、完太が来年小学校でしょ?おじいちゃんおばあちゃんからは、やっぱりランドセルよね〜♪わたし、夢だったんだ〜、いつかおばあちゃんになって、ランドセル買ってあげるの♪」
幸福そうに語るリカの笑顔は、出会った頃と少しも変わっていない、とカンチは思う。
「あ、ほらダメだよカンチ、ご飯食べ終わったらお薬〜。もう、すぐ忘れるんだから〜」
リカは、注射器の入ったケースを取り出し、カンチの上腕部にハンカチを巻き付け始める。
インシュリン注射の時間だ。
(「ラブストーリーは突然に」のイントロと同時に、回想シーン。キャスト、スタッフロール。)
(タイトルロゴ。)
「糖尿ラブストーリー」
やはりダジャレはグズグズになります。
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