ラ・マンチャの男  2002年8月22日
出演 松本幸四郎・松たか子・上條恒彦・佐藤輝 ほか


  今年の夏休み最後のイベントでした。息子がキャンプに行っている間、一人で見に行きました。職場の厚生会で斡旋していた割引チケットだったので、どんな席になるかと思っていましたら、端から2番目とはいえ前から4列目でした。前方の視界をさえぎるものがなく、ゆっくり鑑賞する事ができました。

ストーリー
 16世紀スペイン。セビリアの監獄に、詩人を自称する「セルバンテス」という男が投獄されてくる。教会を侮辱した罪で、これから宗教裁判にかけられるのだ。先に投獄されている囚人たちの注目を浴び、牢名主から「監獄の中での裁判にかける」と言われたセルバンテスは、「皆様のお慰みに」と、自らの弁明をはじめる。囚人たちによる劇中劇の形で、セルバンテスの手による「ドン・キホーテ=ラ・マンチャの男」が上演される。

 「アロンソ・キハーナ」という名の、年配の郷士が、狂気の沙汰か?自分を「遍歴の騎士ドン・キホーテ」と称し、お供のサンチョ・パンサを連れて旅に出る。彼には風車が怪物に見え、騾馬追いたちのたまり場の、貧しい旅篭が城に見える。サンチョにはそれらが本来あるべき姿に見えるのだが、ドンキホーテを馬鹿にすることはせず、尊敬する主人としてついている。
 旅篭の主人を領主といい、下働き女のアルドンサを高貴な姫君「ドルネシア」として扱うドン・キホーテを、宿に泊まっている荒くれ男たちは馬鹿にする。宿の主人は、苦笑しながらも、ドン・キホーテの言動につきあってやる。
 一方、アロンソ・キハーナの出奔に、彼の姪「アントニア」とその婚約者で精神科医の「カラスコ」は慌て、神父と女中を連れて後を追う。宿屋で床屋の髭剃り洗面器を黄金の兜として戴冠式を行っているアロンソ・キハーナと遭遇し、アントニアとカラスコは、なんとか彼を元に戻そうと思案するが、神父は「このままのほうが幸せなのでは」と考える。
 ドン・キホーテに姫君として扱われたアルドンサは、それまでのすさんだ心を振り返り、変わろうとするが、その矢先、宿に逗留している男たちに蹂躙されてしまう。
 宿を出た後、ムーア人の追剥に会い、ボロボロになったドン・キホーテに、やはりボロボロになったアルドンサは「私の本当の姿を見なさいよ!」と絶叫する。その後、ドン・キホーテはカラスコの扮する鏡の騎士に、「本当の自分の姿を直視せよ」と追い詰められ、アロンソ・キハーナとして抜け殻のように自宅に戻ってくる。
 瀕死の床につくアロンソ・キハーナのもとに、アルドンサがやってくる。「あんたはあたしの殿様、ドン・キホーテよ」とアルドンサに言われ、ドン・キホーテとしての自分を取り戻した彼はアルドンサとサンチョに両肩を支えられて絶命する。
 …あ、珍しく最後近くまで書いちゃった。ゴメンナサイ。


感想
 まず、私の心を捉えたのは、宿の下働き女のアルドンサの心の動きでした。
彼女は自分が生きていることにすら否定的です。愛された子ども時代の記憶もなく、成長してからは男たちの一夜の相手として、金で自分の尊厳を売る生活が、彼女をそのようにしてしまったのでしょう。自分を卑しいものとして見ている彼女を、ドン・キホーテは「この上なく美しく清らかな騎士の思い姫 ドルネシア」として扱います。はじめ、この男にも何か下心があるのかと思っていたアルドンサですが、「ただ敬わせて欲しい、栄光をあなたに帰させて欲しい」とだけ願う彼に、次第に心を開いていきます。
 しかし、ドルネシアのように生きようと考えた彼女に、宿の男たちは厳しく、彼女の尊厳を打ちのめします。「やっぱりあたしは姫君なんかじゃない。卑しいアルドンサだ。」と絶望した彼女ですが、アロンソ・キハーナの臨終の床で「あなたは私の殿様」と励まし、「あたしはドルネシア」と、今後の自分の生き方を客席に宣言します。
 卑しい人格、というのがあるとすれば、それは世の中から卑しめられているからそのようになったのかもしれません。世の中から卑しめられているから、自分自身も卑しい人間と思っているのかもしれません。でも、世の中に一人でも、その人を尊い人格、と認めてくれる人がいたら、もしかしたらその人は自分を高価で尊いものとして、生きていくことができるかもしれません。
「あたしはドルネシア」と宣言した後も、実際のアルドンサの生活は変わらないかもしれません、でも、彼女が「ドルネシア」として生きていこうと思う限りは、彼女の尊厳は消える事がない…と思いたいです。

 さて、ドン・キホーテの方ですが、彼は 例えばお金とか快楽、名声などの、この世的な価値観では計れない価値に向かって戦っています。日常を生きる者たちには、なかなか理解されないことだと思います。
私LIVEが、今現在そんな戦いのさなかにいるもので、舞台上の彼を、なんだか自分の姿のように見てしまいました。
パンフレットに、このミュージカルは珍しく、男性の評価が高い、と書かれていましたが、なるほど、いくつになってもロマンを求めたい男性にはうけるかもしれません(でも女だってロマンは求める)

 えっと、この芝居、主演の松本幸四郎と松たか子も良いですが、牢名主と宿の主人を演じた上條恒彦と、サンチョを演じた佐藤輝の存在がなければ、こんなにいい芝居にならなかったような気がします。