母の帽子

父の人生の最後の冬に
母は毛糸で帽子を編んだ

何枚も何枚も

編んだ帽子を配っては
受け取った人に 父のことを話しながら
母は 笑った

「毛糸編んでると、何も考えなくていいのよ」

希望や不安や哀しみや 思い出を
編み目に埋めるようにして

おかあさん
変なとこが あなたに似て
考え事の多い冬の夜は
なぜか毛糸に手が伸びる

「毛糸編んでると、何も考えない」
そういいながらわたしも いろんな思いを
指先に絡む糸に絡ませて

父がいなくなって3度目の冬。
父への思いを詰めた帽子を取り出しては
おかあさん
ひとりのおんなだった あなたを思う。









無題

向かい風の中を 背筋をのばして
ひとり歩いていく あなたの横顔を
見つめながら かける言葉を
見出せずにいる 
わたしを どうか笑ってください。

あなたもわたしも
孤独を背中に隠して
自分で自分を支えながら
お互いのみちを歩くしか
今はそれしかできません。

「あなたなしでもわたしは平気」
これが今 口にできる
たったひとつの愛の言葉だと
きっとわかってくれますね。

花咲く春を夢見ながら
木枯らしの中を唄って歩こう

幸わう秋を夢見ながら
長雨の中も笑って歩こう。








無題(世界で一番好きなあなたのために)

結局どこにいたって
しんどい事は つきまとってくるんで
他人(ひと)や環境(まわり)のせいにして
自分を狭くするなら
それくらい寂しいことはないと思うんだ

気付けば首まで 泥水に浸って
その生ぬるさに 出るに出られない
だけど 嫌なものをみれば 嫌なぶん
あたしはあたしになる

流されたくない

他人のことを 変えようなんて
不遜なことは言えないけれど
自分自身をを変えることならば
こんなあたしにもきっとできるはず
疲れたら 休めばいいんで
疲れる前から休む必要なんてないよね

頼るものは遠くの誰かじゃなくて
ここにいる たったひとりのあたし

ここにいるのはたった一人 あたしだけ








炭でいい

炎を上げて燃えなくていい
灰の下の炭でいい

部屋の隅まで暖めなくて
かじかんだ手を伸ばせればいい

明るく照らさなくていい
灰の下の炭でいい
気付かないほどゆっくりと
燃えていければ それでいい

声に出せば溶けてしまいそうな言葉を
今は見せずにしまっておこう


あなたを 愛してる。









自転車

空気が熱くなる
踏みこむ 一足ひとあしに
地球の重さを感じながら
視線は少し上
道が途切れる 一点を見据えて

半年前の敗北
残暑の中でサドルを下りた
ここはあの 上り坂

吸いこんだ酸素を すべての細胞に送り込め
エナジーを搾り出せ ペダルに注ぎこめ
身体は呼吸するエンジンになる

もう少し もうすこしだから

打ち続く鼓動を喉の奥に押しこんだら
目の前に開けるダウンヒル
空気を割いて駆抜けるのは
自分とのWINNNER









無題

いまだに 君には 片思いしてるみたいだ
ひとり歩いていく 君は遠くなる
広すぎる部屋 ひとり座って 君の姿が掴めなくて
笑顔で電話切ったって 気持ち土砂降りだよ

どんな気持ちで君は この夜を過ごしているんだろう
このままで 2人 どこまで すれ違ってゆくのだろう

軽く話して 誠実でいられるほど
僕は 器用じゃなくて
深刻ぶらずに 真剣でいる
そんなことが 難しくて
「信じるって何のことだ」自分に訊いて
僕は僕の肩を手のひらで抱く 君のかわりに

君の笑顔 声 髪のにおい 涙とため息
一息ついて 落ち着いたら
また君を捜しにゆこう








週末の夜


久しぶりに 子どもが早く眠ったから
おいしい紅茶でも入れて
今夜は懐かしい友達に手紙を書こう
うるさいテレビは消して。

1週間 お疲れさん。
いい週だったよね
何でもなく夜が明けて なんとなく日が暮れて
もしかしたら 世の中の一番の不幸は
当たり前の いつものしあわせに
気付かないことかも知れないね。

よりかかる肩も 涙を預ける胸も
この家にはないけれど
傍に聞こえる ちいさな寝息が
何よりも頼もしい。









無題


誰かに抱きしめてもらいたい夜がある

意地張ったって 拗ねてみたって
所詮空回りの一人芝居
いない相手に言葉投げても
むなしさが募るだけ

喉つぶすまで 叫んでも
伝わらない言葉もある
空元気な自分が愛(かな)しくて
涙こぼす夜がある

暗闇の中 背中丸めて
遠く聞こえる人のざわめき
飲めない酒 喉に流せば
すべて忘れて眠れるだろうか

今夜くらいは 気が済むまで
弱いやつでいさせてよ。