幼い頃

何度か同じ夢をみた


とても深い森の

一番大きな樹の近くに

彼はそっと立っていた

なにも言わず

こっちを見て

ただ微笑んでいる

私はその姿を見ているだけで安心できた

それだけでよかった

遊んでいても振り返れば

彼は私に微笑みをくれる

なんともいえない幸福感が私を包む

目が覚めてからも

彼の微笑みが心から離れない




しばらく見てない夢だったのに

ある日ふと思い出した

私はいろんな事に疲れていた

どうしてあの夢を見なくなったんだろう

必死に記憶を辿る

思い出せない

とてもリアルに感じていたあの気持ちまで

無性に彼の声が聞きたくなった

まだ聞いた事のない

彼の声を

そして

私の話を聞いて欲しかった

見てるだけでもいい

私は彼に会いたい

どうしてだろう

なんでそう思うんだろう

あの人は誰なんだろう

この不安は何なんだろう

彼に会いたい




それから何度目かの夜が過ぎ

私は夢と現実の区別が付かない様になっていた

起きていても

眠っていても

私は変わらない

何も感じない


その日もそのまま眠りに落ちた

気がつくと私は深い森の中にいた

どこだろう

何度か来た事がある気がする

樹を探さなきゃ

ふいにそう思った

私は必死に森の中を走った

彼に会える

その想いが私を駆り立てている

ひたすら走り続けて

もう駄目だと思った時

目の前にある木々が

道をあけた

広く開けたその先には

何千年もの間そこにあったであろう大きな樹が

しっかりと大地に根を張っていた

その傍に

彼がいた

でも何かが違っていた

昔とは何かが

彼の表情がよく見えない

風が吹いて靄が流れた

かすかに見えた

でも

彼は私に微笑んではくれなかった

何か言いたそうな顔でこっちをみていた

とても悲しそうな顔で

私は必死に彼の瞳をみようとした


いなくなってしまう


物凄い不安が私を襲った

彼の表情がよく見えない

足が動いた


なのに彼には辿りつけない


足を止めもう一度

正面から彼の瞳を見た

見えた

そして

今まで一言も言葉がでてこなかったのに

じいちゃん・・・

私は確かにそう言った



その時目が覚めてしまった

明け方だっただろう

薄暗い部屋に私はいた


ごめんなさい


ふいに言葉がこぼれた

その時私は全てを理解した


彼が私を見ていてくれたことを

私が笑ってる時も、怒ってる時も、泣いている時も

落ちていく時も

ちゃんと見ていてくれた

だからなんだ

だから笑ってくれなかったんだ

私はあの人を

私を誰よりも愛してくれていた人を

悲しませたんだ


手の甲に何かが落ちた

暖かいもの

濡れてる

なんだったろうこれは

私は

自分が泣いている事に気づいた

何も感情を持てなかったのに

どんな感情も湧いてこなかったのに

私を愛してくれた人がいたことを思い出した

私の頭を撫でてくれた大きな手を思い出した

私は泣いていた

涙がとまらなかった

じいちゃん・・・・ごねんね。

それから

ありがとう