ちょっと怖い体験談
第八話:「真ん中のトイレ」
私が小学6年生の夏。
親戚の家族とみんなで海水浴へ行ったときのことです。
泊まったのは民宿。でもかなり大きな民宿で、新館が増築されててほとんど旅館のような感じの所でした。
私たちの部屋は古い方で、従来の小さな家族風呂があるけれど、大浴場が新館にあったのでそっちへ入りに行きました。
トイレも部屋に近いほうにあったけど私は新館へ渡る廊下の横にあるトイレに行ってました。
そのトイレは厨房からも近かったため、従業員の人たちも使っていました。
入って右側にトイレが3つ、左側は奥に用具入れと洗面台2つ。
灯りが中央に蛍光灯が一つだけだったので、昼間は窓があるため明るかったけど、夜は少し暗く、真ん中のトイレが一番明るいので、
私は初めからその真ん中のトイレにばかり入っていました。
一緒に行ったイトコ達もそのトイレには入っていましたが、皆は両端のトイレにも入っていました。
その民宿に来ていた同じ年頃の子達とも仲良くなり、みんなで色々話してた時、なぜかそのトイレの話しになりました。
その子達は、あの真ん中のトイレが気持ち悪いというのです。
一緒に行った私のイトコ達もそういえば変だと言い出します。
私はずっと真ん中ばかり使っていましたが、ワケがわかりません。
思い当たることといえば、しゃがんだ時目に入る左隅の壁に貼ってある何かを書いた紙と、
その下には一輪挿しの花と木枠の小さな入れ物に置かれた丸い石。
その紙には和歌のようなものが書かれてありました。
私は小学生の頃からわりと漢文や古文が好きだったし、少しくらいのくずし字なども読めました。それにも万葉仮名などが使われていて、
始めは何か分からなかったけれど、何回か入っているうちに、完全ではないけど、ニュアンスのようなものは理解できていました。
おそらく母と子の情のようなものを詠んだ歌だと思っていました。
「あれ、ちょっといい感じの歌だよね、哀しいような。」
私がそう言うのを、みんなは「うそーーーー、気持ち悪いよーーー。」と言います。
そんな紙が貼ってあるのは真ん中のトイレだけらしいのです。
見に行くと、同じく一輪挿しの花は飾ってありましたが両端のトイレに貼ってあるのはキレイな風景のカレンダーでした。
なんで真ん中だけこんなの? しかもこの丸い石は?
そして先に民宿に来ていた子達が言うのには、従業員の人たちは真ん中のトイレには入らないと言うのです。
真ん中が空いていても、両端に並ぶと。
それは私も知っていました。一度一緒になった時、端に並んでおられたので私も並ぼうとしたら真ん中のドアが空いているのに気付き、
「あの、」と言いかけた私に「どうぞ。」と言って下さったので、お客を優先してくださってるんだと思っていたのです。
2泊3日の予定はすぐに過ぎ最後の日の朝、仲良くなった子達が朝食後一足先に帰るからとお別れを言いにきました。
そしてその子達が言いました。
「昨夜一番若い従業員の人に絶対ナイショでって聞いたんだけど・・・。」
渋る従業員の人に無理やり聞き出した話しによると、まだ新館が建つずっと前、そのトイレが汲み取り式だった時、
そこで一人の妊婦さんが急に気分が悪くなって産気づいてしまい、トイレの中に赤ちゃんを産み落としてしまったそうです。
妊婦さんも意識を失い、命は取り留めたものの赤ちゃんは助からなかった。
お払いをしてトイレを建て替え水洗にしても、従業員さん達だけは真ん中のトイレは使う気になれないということでした。
話してくれた従業員の人も、自分は最近勤め出したけど先輩方からその話しを聞いて以来、真ん中には入ってないそうです。
あの石は供養の石だったんですね。紙に書かれていたのもひょっとしたら御詠歌の一節だったのでしょうか。
御詠歌の中には、親より先に死んでしまった子供達の心が詠われた一節があります。
石を一つ積みながら、逆縁の不幸を起こしてしまった罪を悔い続け・・・。
或いは石は赤ちゃん自身を表すのでしょうか。
私はその話しを聞いても、少しも怖くも気持ち悪くもありませんでした。
むしろそんな形で子供を亡くしてしまったお母さん、亡くなってしまった赤ちゃんがかわいそうだと思い、
帰る前に最後にもう一度あの紙を見たくて、そのトイレに入りました。
用を足したあと(もうすでに何回も用を足しているので、と思ってw)手を合わせ、
よく見ると確かに最後の方に小さく南無・・・・・と読みにくいくずし字で書いてあります。
そしてトイレを出て正面の洗面で手を洗ってる時です。
前の鏡に女の人がトイレから出て行くのが目の端にチラっと見えました。
洗面台はもう一つあるのに洗いに来ないので、手を洗わず出たのかと思いながら私も出ようと廊下に出る引き戸を開けて出ました。
引き戸のガラガラガラ・・・という音がし、私は気付いたのです。
私が入って出るまで、この引き戸の音はしなかったことに。
そして私が手を洗っていた洗面台の鏡に写る、真後ろのトイレは、真ん中のトイレなのです。
鏡の中に見た女の人は、私の目の錯覚だったのでしょうか。
赤ちゃんを亡くした女性の話しを聞いて、その姿を見たように思ったのかもしれません。
それとも・・・・・。
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