ちょっと怖い体験談
第十四話:「落ちる影」
何年か前、私の友人から聞いた話しです。
彼女は早くに結婚し子供も生まれたのに、離婚してしまっていました。
結婚当初から色々と 向こうの家族とは合わないというのは聞いていましたが;
そして離婚の原因はやはりというべきか、舅・姑さんとの折り合いが悪く、子供は先方に取られてしまったのです。
初め彼女達はマンションに住んでいました。
子供が生まれて一年ほどでご主人の実家に同居することになり、それが良くなかったのかもしれません。
けれど、離婚の原因は同居にあったものの、同居する原因は、彼女がある事件が元で、軽いノイローゼになったせいでした。
その事件はマンションで起こりました。
マンションに住む人の赤ちゃんが窓から投げ落とされたのです。
といっても投げ落としたのはその赤ちゃんの親ではなく、階下に住む若い女性でした。
新聞には詳しく載らなかったため(他に大事件もありスペースの都合でしょう)、動機についてはかなりの憶測を呼びました。
そこのご主人の不倫相手だったんだろうとか、自分が流産したため、よその赤ちゃんの泣き声に気が変になったんだろうとか。
それが彼女の住んでいるマンションで、彼女が住んでいる部屋は、その事件のあった部屋の2階下だったのです。
その話しを聞いたのは かなり後日になってからなのですが、
彼女はどうやら赤ちゃんが落ちていくのを見てしまったらしいのです。
部屋で自分の子を寝かしつけながら、自分もウトウトしていると、急に人が争うような大声が聞こえ、女性の悲鳴が聞こえたそうです。
ベランダの窓に顔を向けていたので、その上から聞こえると思った次の瞬間、窓の外を何かが落ちて行きました。
ウトウトしていたせいでまだボンヤリしながら、また女性の悲鳴が聞こえ、今度は下のほうで人の大声が聞こえます。
ふと、赤ちゃんの泣き声がしていたな、と思い出したそうです。
そして何か総毛だったものが体中をつきあげ、ベランダから下を見ると、人だかりとその中に・・・。
上では女性の悲鳴が続いています。赤ちゃんの母親の悲鳴。
同じ頃に出産し、顔なじみになったところでした。
そしてしばらくたった頃から、彼女は昼寝をすると決まって夢を見たそうです。
部屋で寝ていると窓の外を赤ちゃんがスローモーションで落ちていく。
受け止めようとベランダから身を乗り出すと、今度は自分が落ちていく。
夢はだんだん変化し、赤ちゃんを投げ落とすのが自分であったり、投げようとする赤ちゃんが自分の子になったり。
彼女は昼寝が出来なくなりました。
その部屋で子供を寝かすことも。
それでもその部屋が一番日当たりがよく、間取りのせいもあって、出来るだけ気にしないようにと子供を寝かせると・・・・・。
ある日、彼女は寝てもいないのに窓の外を落ちる影を見てしまったのです。
ハッキリした形は分からないけれど、そのものには「目」があると言います。
そして彼女を見ているのだと。
何回か見たあと、彼女はご主人の親との同居を決めてしまったのでした。
彼女が受けたショックは相当のものだったでしょう。
私でも事件を知った時はショックだったのに、同じ子供を持つ母親として、まして落ちて行くのを見てしまうなんて。
彼女がノイローゼになってしまっても不思議はないでしょうが、落ちる影が錯覚だったのかどうかは分かりません。
彼女は今はすっかり落ち着いて、毎日仕事にがんばっています。
久しぶりに会って近況を聞くうち、そのことを話してくれたのですが
たとえ物心つかない赤ちゃんでも、そこに理不尽な思いが残り、彼女にその姿を見せたのでしょうか。
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