ちょっと怖い体験談
第七話:「背の高い人」
まだ独身のころ 実家の薬局を手伝っていた頃のことです。
午後私は、お店の中でイスに座ってボーッとしていました。
顔を、2ヶ所ある入り口の一つに向けていたので、その男の人が入ってくるのが見えました。
「ああっ!ぶつかる!!!」
と思わず私は自分の首をすくめました。なぜなら、その人がものすごく背が高かったからです。
入り口のドアよりまだずっと高く、かがまなければ頭がぶつかります。
そしてその人が入って来て・・・・・。
「へ?」
と私はマヌケな声を出していました。
その人は全然背なんか高くありません。わたしより頭一つ分くらい、普通の男の人の高さです。
(あれあれ?目の錯覚かな?ボーッとしてたからなあ。)と気を取り直しその人の応対をしました。
その頃はまだD・P・Eを扱っていて、その男の人もD・P・Eのお客さんでした。
D・P・Eというのは写真の現像です。その場で現像するのではなく店頭で取り次ぐだけで、
業者がフィルムを取りに来て現像し、また持って来てくれるのです。
年々現像のスピードがアップし、1週間かかったものが3日に、1日にと早くなっていき、
30分で出来るD・P・E専門の店が増え出したので、もう扱わなくなりましたが。
その男の人は、フィルムを2本出されました。
「あさっての今ごろ来て頂ければ出来てますよ。」と私は言い、ドアを出て行く男の人の後ろ姿を見送りました。
かがむこともなく、まっすぐ出てゆかれます。
(どうしてあんなに背が高く見えたのかなあ。)としばらく不思議でした。
二日後の午後、そんなこともすっかり忘れてお客の応対をしていた私は、
しゃべっているお客さんの肩越しに、店のショウウインドウの向こう、外を歩いてる人を見ました。
「どわっ!!!!」
ショウウインドウの向こうに見えたのは、肩までしか見えてないくらい『背の高い人』
私が変な顔してるのに気付いたお客さんが振り返った時、あの男の人が入って来ました。
入って来た時にはやはり普通の身長で。
確かに外を歩いていた時は2mをはるかに越すほどの高さだったのです。
今までいたお客さんが帰り、その男の人に出来上がっていた写真を渡しました。
さっき見た姿が気になりながらも、いつものようにその写真で間違いないか中を確認してもらいます。
「はい、これです。はは。・・・プッ。」
楽しい写真だったのでしょう。何枚かを笑いながら見ておられます。
「もう一つも確認してくださいね。」と2本目の現像分の写真も見てもらい、
「はいはい、これもいいです。」と男の人が何枚かを見ていたところ、急に
「う・・・。」と手を止めました。
私が「どうしました?何か間違いありました?」と聞くと男の人は見ていた写真を出されました。
その写真に写っていたのはその男の人でしたが、
立っている男の人の肩あたりから上に、またその人の上半身がまるで 生えるように伸びています。
伸びている上半身は少し薄く透けているので元のその人の顔は見えています。
カメラに向かって笑っている顔でした。
ところが薄く透けて上にかぶさるように写っている方の顔を見た時、ゾッとしました。
顔は真っ直ぐ前に向けているんですが、片目は閉じ、開いている方の目をグリッと見開いて下を見ています。
まるで本体(?)の男の人をにらむように。
薄くぼやけているけれど、それはその男の人の顔でした。
その人が帰ってからしばらくは、写真の顔ばかりが浮かんで仕事が手につきませんでしたが、ふと外を見て思いました。
あの上半身がプラスされた身長なら、私が見た背の高い人になると。
あの体が何なのかは分かりませんが、ひょっとしてあの人は、ずっとあのもう一つの上半身を上にくっつけたまま生活されてるのでしょうか。
そして私が見たように、時々 背の高い人だと思われているのかもしれません。
。
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