ちょっと怖い体験談
第六話:「黒い人」
私が高校1年から2年になる春休み中のことです。
テニス部の練習があったので、普段と同じように毎日学校へ行っていました。
普段は電車ですが、定期を切らしたまま買いに行くのも面倒で、自転車でしばらく通ってたんです。
自転車でも30分ほどの距離なので、1週間くらいは自転車を使ってました。
ある朝、まだ眠けの覚めないままボーッと自転車をこいでいると、曲がり角で急に黒っぽい人影が目の前を横切りました。
ハッとしてブレーキをかけ、人が通り過ぎて行ったと思った方を見たのですが誰もいません。
そして、もう曲がって行ったのかなと思った瞬間その曲がり角からいきなり大型のトラックが現われ、地響きをたてて向かって来ました。
私の横スレスレに通って行った大型トラックを見送りながら冷や汗が出ました。
もし自転車を止めずに、あのままボーッと角を曲がっていたら、確実にあのトラックにぶつかっていたでしょう。
それにしても、大きなトラックなのに一旦停止もせず危ないなあと思いながら再び自転車を走らせ、ふとあの黒い人影を思い出しました。
考えてみるとあの人のおかげで自転車を止めたのですから、いわば命の恩人なわけです。
ボーッしてたので顔など見ていませんが、何となく女の人だったような気はしました。黒っぽい服を着ていたようです。
「誰か分からないけど感謝!」と思いながら学校へ着きクラブを終え、また同じ道を自転車で帰りました。
朝の曲がり角を、今度は反対側から曲がります。
こっちからも向こうからも車の来ている様子は無かったけれど、スピードを落とし、少し手前で止まった時です。
それまで全然気付かなかったのですが、曲がり角の道のわきにある電信柱の下に邪魔にならないように箱がおいてあり、
その中にはお花とお水、果物などが置いてあります。
きっとその曲がり角で出会い頭にぶつかって命を落とされたのでしょう。
私はそのまま心の中で手を合わせました。
そして2日くらいした朝のこと、私はまたその曲がり角に向かって走っていました。
私の前に、中学生くらいの一人の女の子が同じように自転車で走っています。
「あっ!」と私が叫んだのと、女の子が急ブレーキをかけたのはほぼ同時でした。
直後に角を曲がってくる一台のバイク。
女の子がボーゼンとバイクを見送っています。この間の私と同じ状況。
女の子は私を振り返り、バツが悪そうな顔をしながらもホっとした様子で走って行きました。
私は女の子を呼び止めて聞きたかったけど、やめておきました。
多分あの子も、これからはこの曲がり角では気をつけるでしょう。
ただ、私は見たのです。
女の子が曲がり角に差し掛かる寸前、黒い人影が女の子の前を横切って行ったのを。
そして曲がり角でフッと消えたのを。
黒い人影は私から見て、前にいた女の子の右から左へ。でも右側にはブロックの塀があるだけ・・・。
消えたと思う足元には、こちらからは気がつかないあのお供えの箱があります。
近くにパン屋さんがあったのでそこでその箱のことを聞いてみたら、
2ヶ月ほど前にそこで女性が自転車に乗っていて出会い頭に事故にあい、亡くなっていたそうです。
40過ぎの女性の方で、私たちくらいの娘さんがおられるとか。亡くなった時は、黒い服を着ていたそうです。
きっと私達に警告に現われてくださったのでしょう。自分と同じ目に合わないように。自分の娘と同じ年頃の私たちのために。
私はそのパン屋さんでパンを買って箱の中に入れ、今度はちゃんと手を合わせて御礼とご冥福をお祈りしました。
春休みが終わり、再び電車通学に戻ったのでもうあの道を通ることはありませんでしたが、
他の自転車通学の友達に聞いたところによると、ミラーが設置され、角を少しけずって見通しをよくしたり、かなり改善されたそうです。
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