ちょっと怖い体験談



第三話:「帰宅(一)」


私が高校三年の冬、母方の祖父がガンで入院し、末期には出きるだけそばに居ようと家族みんなが交代で、昼も夜も祖父を看ていました。
完全看護だったので、実際に何かをするというのではなく、ただそばに付いていたかったのです。
私は受験を控えていましたが、病室の方が勉強がはかどり、伯父や伯母、父や母も休めるので、夜はよく私が泊まりに行ってました。
勉強に疲れると祖父の手を取って、勉強のことや家族のこと、周りで起きていることなどをグチをこぼすようにしゃべりました。
祖父は日を追うごとに返事もなくなり、うなずく力もなくなり、意識があるのかどうかも分からなくなっていきました。
いつその時が来てもおかしくない状態だから、別れを言いたい人がいるなら連絡しておくようにとお医者さんに言われ、
父と母、伯母さんたちは親戚や知人に知らせに帰り、その夜、やはり私が病室に泊まることになりました。
本を読むもやけに眠く、勉強もそこそこに簡易ベッドに潜り込んで寝てしまった私は、夢を見ていました。

夢の中でも私は病室の簡易ベッドに横になり、うつらうつらしながらベッドに寝ている祖父を見ています。
祖父が体を動かした気がして起き上がろうとするのですが、眠くてだるくて体がいうことをききません。(夢の中です)
すると、祖父が起き上がり立とうとしています。
びっくりして私も少し体を起こし
「おじいちゃん、大丈夫?どうしたの?」と聞きますが祖父は無言でベッドから降りてしまい、そのまま歩き出します。
「おじいちゃん、待って、どこ行くの、体はいいの?」と、まだ眠い目を必死で開けながら
私も立ち上がり祖父をつかまえようとしますが一瞬早く、祖父は病室から出て行ってしまうのです。
私は「おじいちゃん、待って!」と叫びながら病室のドアを開けます。
すると、病室の外の廊下一面、向こうの方までロウソクが床に置かれていて足の踏み場も無いんです。
見ると、看護婦さんが所々のドアの前に立っています。そしてそれぞれ、手に火のともったロウソクを持っています。
――――ああ、これは病院のお通夜なんだな。
と、私はなんだか納得してしまい、病室に戻ってまた簡易ベッドに横になります。
「おじいちゃんはどうやってあそこを通ったのかな、たぶん家に帰ったんだろう。病気治ったんだ。良かった。」と思いながら
引き込まれるように眠り、そこで目が覚めました。まだ夜中でした

始めのうちは夢との区別がつかず、祖父が良くなって家に帰ったことをみんなに知らせなきゃ、と
喜んで起き上がった私は、まだ祖父がベッドに寝ているのを見てものすごくガッカリしてしまいました。
それで祖父のそばへ寄り、いつものように祖父の手を握ろうとしたら、祖父の両手は拝むようにしっかり合わせられています。
「おじいちゃん、おうちの仏壇に参ってきたの?」
静かな寝息に安心し、その夜は私もまたぐっすり眠りました。

その二日後に、祖父は亡くなりました。
亡くなる前の日、病室には入りきれないほどの親戚が集まりました。
何年ぶりかで偶然祖父を訪ねて来て入院を知ったという、祖父の古い友人も来られたのです。
葉書きを整理していて祖父からの年賀状を見つけ、急に懐かしくなって来てしまったのだということでした。
そして伯父が
「昨夜ね、父は家に帰って来たんですよ。」と急に話し出すではありませんか。
伯父は昨夜眠れず、水でも飲もうと起きた瞬間、階下の祖父の部屋にある仏壇のカネが、チーンと鳴ったのを聞いたというのです。
かすかにお経をとなえているような声も聞こえたといいます。
それは、まさしく私が夢を見たその時間でした。
やはり祖父は家に帰り、仏壇にお参りしてきたのでしょう。
先に亡くなっていた祖母に、もうすぐそばに行くからと告げていたのでしょうか。



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