「A NEW LIFE」

Page 01


西暦2003年。
松田俊一が亜里沙と、コンピュータ回線を通じたテレビ電話で会話を楽しんでいた時、パソコンのディスプレイの片隅から臨時ニュースが流れた。
「こんなことが起こるのか?」、俊一の唖然とした表情。
副大統領がテレビ会議中に突然机にうつぶせになって倒れたのだ。 コンピュータに据えつけられたカメラが、副大統領が口から泡を吹いているところを冷たく映しだしている。その会議に参加していた人達がすぐ警察に知らせたのだが、彼の部屋はコンピュータによるオートロックが掛かったまま、開ける事ができない。しかも、そのドアは銃弾では全く動じず、また内壁も同様に頑丈な作りとなっており、全く歯が断たない。
また、オートロックの暗証番号が何者かによって変更されており、誰かがコンピュータに進入した恐れもある。
俊一は目を大きく開け、信じられないという表情をした。
「だってさ、みんな彼がその場で倒れているのを見てるんだよ。大勢の人が会議中に。
どうして誰も助けれないんだ。目の前で倒れている人を……。恐ろしい。」
亜里沙が得意になって言った。
「テレビ会議なんだから当たり前じゃない。技術革新の落とし穴ね。 きっと、人間に神様が忠告してるのよ。」
この「神様が忠告してる」というのは、無神論者の亜里沙の口癖だ。
「僕だってこのテレビで電話で、亜里沙とそばで話しているみたいだけど、実際はカメラずっと向こう、遠い町いるんだよなぁ。」
俊一はそう言うとパソコンに付いたカメラを指差した。
「そんなこと百年以上も昔、ベルが電話を発明した時から決まってるのよ。私なんかこんなに離れているのに、今、俊一さんの部屋がどんなに散らかっているかだって分かってるんだから。」
俊一はカメラの前を慌てて、手で遮った。
「分かったよ、片付けるよ。僕と亜里沙はまだ実際に合った事もないのに、よくずけずけと言うよ。」
「あら、実際に会う事にどんな意味があるの? 今のこの状態とどこが違うのかしら。」
俊一は呆れるように笑った。
「ぜんぜん違うよ。会うと会わないとじゃ、その何ていうか、感じ方が全く違うと思うよ。当然話す内容も。」
「そんなことないわ。会っても会わなくても話す内容なんてそんなに変わりばえしないのよ、きっと。だって、電話なんてそんな特別なものじゃないもの。……それに、会わない方がいいってこともあるし。」
俊一は笑うのを止めた。
「あら、もうこんな時間。私仕事があるから切るわね。」
「えっ、こんな時間に仕事?」
「そう、まとめなきゃならない書類があるの。」
「大変だね。」
「ううん、それほどでもないんだけど、やらなきゃならないから。 またね。」
彼は電話を切ると深くため息をついた。そして、ベランダへ出て夜空を眺めた。時折、人工衛星がゆっくりと大きな弧を描いて星のあいだを駆け抜ける。
「HAL03(宇宙ステーション)ができるなんて、本当かな。」
流れ星が流れた。それは俊一にうなずいているようにだった。
再び臨時ニュースが流れた。
副大統領が二十時間ぶりに副大統領室から救助されたという。救助された副大統領はこう言っている。
「信じられないかもしれないが、私はずっと椅子に座っていたのだ。 倒れたりしていない。体にも異常はない。
何者かが、テレビ会議中に私の倒れる映像とをすり変えたのだ。これは恐るべきの罠だ。」
気丈な言葉とは裏腹に、彼の顔は恐怖のあまりすっかりやつれ果てていた。


ノベルホーム     Page02