「A NEW LIFE」

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その夜、俊一は不思議な夢を見た。
現実が幻想で、幻想が現実になる夢。悪夢に近い不安に満ちた夢を見た。
そして、目が覚めた。
「……亜里沙。
亜里沙は本当に存在するのか?」
サボテンが答えた。
「ナイジャロ、ナイジャロ……。」


「君にどうしても会いたいんだ。」
「イヤよ。」
早朝の突然の電話。亜里沙は無愛想答えた。
「いや、今からそっちに行く。君にどうしても会いたいんだ。」
「前にも言ったでしょ。わざわざ時間をかけて会うなんて、意味のないことよ。それに、会わない方が良いってこともあるし。」
「どういう事だい。」
今の俊一にはその言葉がとても意味深に聞こえた。
「大したことじゃないわ。でも、会いたくないの。今のままで私はいいの。」
俊一は思った。本来ならここで誰か他の人がいるんじゃないかと嫉妬しても良いはずなのだが、今の自分は全く次元の違うことで苛ついている。
亜里沙はそんな俊一の気持ちを知ってか知らずか、諦めて答えた。
「……あなたが来るなら別に会ってもかまわないわ。」


列車に乗るのは何年振りだろう。季節は春だ。列車は河原を走る。 俊一は一面咲き乱れている菜の花を見て思った。
(当たり前のことなんだけど、この花一つ一つに命があるんだよな。 この花一つ一つに、うちにあるサボテンのように感情があり、命をまっとうしているんだよな。
……命って一体何なんだろう。生き物に寄生することでしか繁殖できないウイルスだって命だとしたら、コンピュータのハードウェアに寄生することで繁殖するプログラムも生き物なのだろうか。)
菜の花にチョウが戯れているのが見えた。風はもう暖かい。
駅に着いた。
彼女は本当に来るのか。
駅前の公園にはそれらしい人物は見当たらない。
俊一はベンチに腰掛け、噴水を眺めながら忘れかけてた春の香りを感じた。
「俊一さん。」
後ろから声がした。振り返るとそこには見覚えのある顔があった。
「驚いた?」
「あぁ、ちょっと。」
「だからイヤだったのよ。」
「でも僕は全く気にしないよ。気にする方がおかしいよ。」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。」
俊一の前には身長が190センチを越える女性が立っていた。ちなみに俊一の身長は167センチである。
「私ねぇ、この身長でイヤなことが結構いっぱいあったのよ。」
「へぇ、でもいいじゃない。混んでる電車の中でも良い空気が吸えて。」
「そんな事言う人始めて。」
「僕もこんなこと言うのは始めて。」
「あなたとは気が合いそうね。」
「それなら、こんな所で話すのは何だから、どこかいい店に行かないかい?」
「そうね。おいしいイタリアンレストランがあるの。」
そう言って亜里沙は、俊一の手を引っぱった。俊一はここへ来て良かったと思った。


駅舎にて。
「今日は楽しかったよ。」
「私もよ。」
「また会えるかな。」
「もちろんよ。今度は私が行くわ。」
俊一は優しくうなずいた。
亜里沙が思い出したように言った。
「一つ最後に聞いていい?」
「もちろん構わないよ。」
「どうしてこんなに会うことにこだわったの?」
俊一は口ごもってしまった。そして、時計を見た。最終電車が出るまでには10分ある。俊一は決心したように、じっと亜里沙を見つめた。
「実は、言いにくいことなんだが、君を疑っていたんだ。別に君が悪い訳でもないし、君を責めるつもりも全くないよ。ただ、僕の友人の言葉が妙に気になってね。大竹信也って奴なんだけど……。 」

「大竹信也。面白いのね、私にも同じ名前の知り合いがいたわ。」
「へぇ、どんな奴だった?」
「そうねぇ、変わった人だったわ。いつも自宅で仕事してるくせに、スーツを着てたもの。」
「そいつだ。僕の知り合いもいつもスーツを着てる! なんて偶然なんだ。こりゃ驚いた。」
「……でも。」
亜里沙の表情が急に蒼ざめた。
「……その人去年死んだのよ。」


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