「A NEW LIFE」
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「君だったんだね。」
俊一の声に、電話先の大竹が頷いた。
「一体どういう事よ。」
亜里沙は恐怖と興味とが入り交じった、複雑な表情で尋ねた。
ここは亜里沙の部屋である。俊一は亜里沙に連れられて、ここから大竹に電話している。
「どうしてもHAL03計画は実行しなければならなかった。俊一、理由は前に言ったように、我々が自由に生きるためなんだ。」
「でもどうして犯人を突き止めようなんて相談を僕に持ち掛けたんだよ。」
「意味が分からないわ。さっぱり。何の事よ。私も参加させてよ。 」
大竹は亜里沙の方を向いた。
「亜里沙。久しぶりだな。まさか、君とこんな電話をするなんて思いもしなかった。」
「お互い様よ。それより、あなた生きてるの?」
大竹は薄笑いを浮かべて言った。
「死んだとも言えるし、生きてるとも言える。実は生前に、もう命が永くはないことは知っていた。そこで、俺は自分の記憶全てをディスクに記憶させたんだ。
その後、俺は体を失った。しかし、俺の頭脳は姿を変えて残っている。そして、活動しているんだ。」
「でも、今のあなたを人間と呼ぶには無理があると思うわ。」
「どうしてだい、亜里沙。
例えばもし仮に、君の手が事故でなくなったら、君は人間かい?」
「当たり前じゃない、手が無くったって人間は人間よ。」
「そうだろう。それじゃ、足がなくなったら?」
「同じことよ。手が無くったって、足が無くったって、体が無くったって………。」
「そう、脳味噌さえあれば人間なんだ。」
大竹はそう言うと例の如く動きが止まってしまった。
俊一が大声で亜里沙に言った。
「そうか、大竹はこの間にメモリーを読み込んでいるんだな。なるほどそうか。」
「なに訳わかんないところで感心してるのよ。」
「亜里沙、今僕は大竹が人間でもいいと思っているんだよ。僕自身ハッキリと理由は分からないけど、それでいいと思っているんだ。 」
「私も分からなくなってきたわ。彼はこの画面で見る限り、全く普通の人間と同じよ。
でも、この画面がなかったら、彼はデジタルの信号にすぎないわ。 それを人間と呼べるのかしら?」
「信号のやり取りのしかたなんて関係ないよ。人間の脳のことだってすべて分かっているとは誰も言えないんだから。」
「彼が生きているとすると、彼は何のために生きているのかしら…
…。」
再び大竹が動きだした。俊一は大竹の方を振り向き尋ねた。
「もう一度聞くけど、どうして僕にあんな相談をしたんだよ。」
「君は優秀な編集者だからだ。君ならきっとうまく我々のことを伝えてくれると思ったからだ。それに……。」
「それに?」
「それに、……君は親友だから。」
俊一も亜里沙も声が出なかった。二人にとって、大竹のその言葉はとても重く感じられた。
次の日、帰りの電車の中でも俊一はじっと考えていた。
(大竹は人間だ。生きているんだ。そう僕には見える。そう見えるんだからそうなんだ。少なくとも僕にとっては。
亜里沙が言っていたなぁ。彼は何のために生きているのかって。でも、僕だって自分が何のために生きているのかなんて分からない。 それを見つけることが生きるってことかもしれない。)
アパートに着いた。ドアを開ける。
「オカエリ。サビシカッタ。サビシカッタ。」
サボテンが寂しそうに言った。
END