「よじれた時間」

Page 04


気が付くと彼は公園のベンチの上にいた。
頭を振り、暫く考える。
「俺は一体……………。ここはどこなんだ?
 ……………たちの悪い夢のようだ」
時山の意識は次第に、はっきりしてくる。 「今は一体いつなんだ……………」
時山の腕時計は六時を指していた。辺りを見回すと、ここは時山がいつも使う駅前の公園である。
「あの老人が言ってたことは本当なのか?今日は今日なのか? それとも昨日?」
訳の分からぬ事を考えながら、ともかく駅に行ってみることにした。
売店の新聞を買い日付を見る。
「き、昨日だ!」
「なに言ってんのよ!さっき持ってきたばっかりの、できたてほやほやの新聞よ」
売店のおばさんが声を張り上げて言った。 時山はハッと目を開き、照れ笑いをした。 「あんた大学生でしょう。分かるんだから。ちゃんと勉強すんのよ」
時山は、(毎日顔合わせてるのに、社会人と学生の区別がつかないなんて、優秀な売子じゃないな)と、思った。
時山はふと我に返った。
上着のポケットには冷たい鉄の塊が。
 銃だ。
 あの老人のとの出来事は本当だったのだ。 もしそうなら、過去をやり直せるのか? 新聞の日付をじっと見ながら、売店の前にたたずんでいた。
「ちょいとお客さん、そこにいると邪魔なんだけど」
時山は申し訳なさそうな顔をし、更にサンドイッチとコーヒーを買ってそこを離れた。
駅のベンチに座り、混乱した頭の中の整理にとりかかった。あの忌まわしい出来事まで、後一時間足らずなのだ。こんなことなら一日前に戻れば良かったと、時山は思った。しかし、後の祭りだ。
「どうやらこの後、僕がやってきて彼女に電話をするんだな。その時、僕の鞄を守れば僕は救われるのか?
鞄は守られ、この世界の僕は無事にロンドンへ。昇進は間違い無し。めでたしめでたし。
……………しかし待てよ。
こっちの世界の僕はいい。だが未来の世界からきたこの僕はどうなるんだ。
 何も起こらないのか?
こっちの世界の僕を助けたのに過ぎないのか? この世界で居場所もなく宙ぶらりんのまま、生きて行くのか。
そんな馬鹿な!
それじゃー意味ないよ」
時山は、頭を掻かきむしり時計を見た。 後三十分だ。
彼の心臓が次第に高まる。
「落ち着け、落ち着くんだ。
そう。
 焦ってはいいアイディアは浮かばない」
サンドイッチの封を開け一口かじり、一気にコーヒーを飲み干した。
「問題は僕が二人いるんだ。二人いるんだ。そう、二人」
手を上着のポケットに入れる。
冷たい鉄の感触。
「僕が僕を殺すのか」

 時山は眠れず朝の五時に目が覚めた。
「すみれさんは本当に来るのかな」
朝食をとる。
苦いコーヒーの味。
ありきたりの新聞記事。
しかし、何処からともなく不安が彼を襲う。 どうしたんだ今日は。
いつもよりも大きめの鞄を開け、手の平ほどの大きさの宝石箱を取り出し、暫く中を見つめた後、また仕舞込んだ。
時計は既に六時二十分を指している。
 「もう行かなきゃ」
時山はその後自分に降り懸かる出来事などまるで知らない。

「もう五時四十分か……………」
時山の腕時計も、駅の壁掛け時計もその時刻を指している。
「そろそろ、この世界の僕もこっちにやって来る時間だ」
時山は覚悟を決めていた。
鞄の盗まれる前に彼が鞄を盗み、この世界の時山を銃で射殺し、入れ替わるのだ。そして、入れ替わった時山は無事ロンドンは旅立つのだ。
 それが名案かどうかなんて彼には分からなかった。たった一時間足らずで、それ以上知恵を絞ることが出来なかった。
 しかし、彼の結論は、二人いる自分の片方を消さなければ、自分の存在自体が危ぶまれるということだった。
 時山は、これから起こす彼の行動を全て知っているので、作業内容自体は難しくはない。
 更に、もし彼がこちらの世界の時山を殺したとしても、死体さえ見つからなければ彼の罪をとがめる者はいない。何故なら、彼が殺したとしても、本人と入れ替わってしまえば、殺人が起こったことすらも気が付かない。
 いや、彼はまさしく本人なのだ。そして、
彼は生きている。生きているものの死体など有り得ないのだ。
只、問題は彼にそれが出来るかどうかであった。
「自分自信を殺す」ということを、果して彼の心が許すだろうか。
しかも、時山は、この事だけでは全て解決しないような気がしていた。



Page03     Page05