「よじれた時間」

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運命の時がきた。
「悩んでる暇はない。行動に出なければ僕の人生は変わらない。あの老人の言った通り、もう後戻りは出来ないんだ」
この世界の時山が見えてきた。彼は時計を見て、駅の前の噴水の前で立ち止まった。
 山元すみれを待っているのだ。
「すみれさん……………」
彼はあることに気づいた。
 たとえ時山がこの世界の彼を殺したとしても、すみれと一緒になれるとは限らない。それどころかもう会うことすら出来ないかもしれない。
「どうすればいいんだ」
 出世と山元すみれのどちらかを選ばねばならないのか。
しかし、もう考えている時間はない。
噴水の前から電話ボックスへと、時山が動きだしたのだ。
未来からきた時山もこっそり後をつける。ばれないように、こっそりと。
「あの鞄が、他の誰かに持っていかれちゃうまえに盗まないと」
忍び足で、後ろからつける。感づかれてはいない。
 近づくにつれて、心臓の音が大きくなる。
 後十メートルほどだ。
 しかし、彼の側まで行って盗み出すのは余りに困難だ。
後五メートル。
一気に鞄の方へ行こうとしたその時、他の手がすっと鞄をさらったのである。
見たこともない大男だ。黒いポロシャツにジーンズの男が出口の方へ走ってゆく。
 時山は追い駆けるしかなかった。

「一体どういう事なんだ」
  駅は次第に人々が増え、雑然としてきた。
彼らは人々の間を抜け、出口へと走って行く。
「誰だ。何故なんだ」
訳が分からないまま、時山はとにかく男をを捕まえるしかなかった。
駅を出て、交差点に出た。
男が初めて後ろを向いた。
時山の姿を見て、ギョッと目を開いた。
男は交差点を左に曲がった。
 時山も追いかける。
 時山が交差点を左に曲がったとき、既にその男の姿はない。
「何処へ行った?」
立ち止まり、辺りを見回す。しかし何処にも見あたらない。
 階段を掛け上がる音がする。
「上だ!」
交差点の左角、白いマンションの螺旋階段を登る。
上を見ると、階段をかけ上がる男の姿が見える。時山も息を切らし駆け上がる。
 地上から七階までの階段。
 男は屋上のドアを開けた。
時山が屋上に着いた時、男はフェンスの側にいた。すぐ後ろは車道である。もう逃げ場はない。
「はぁはぁ、鞄を返せ。
 ……………おまえは一体誰だ」
 「う、うるさい黙れ」
男はチラリとビルの下を見て、逃げるのを諦めた、かと思うと、突然時山に襲いかかった。
 あんな男に殴られたら一巻の終わりだ。
 時山はとっさにポケットに手を当てた。
 男が時山を殴りつけようとした途端、彼の眉間に冷たい金属が当たった。
 銃だ。
 時山は男の目をにらみつけた。
 男は鞄を落とし両手を上げた。
 「俺は敏夫に頼まれただけなんだ」
 「敏夫!」
 時山は驚きの表情を隠しきれなかった。



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