「よじれた時間」

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十三

輝きを失った洞窟。
 そこには老人がたった一人倒れている。
 洞窟の滴が老人の頬に落ちた。
 老人は気が付いた。
 そして思った。
 「これで元どおりだ……………」
 彼は髭を顔から外した。髭の下からは晴やかな笑顔が見えた。
 時山である。
彼は老人になりすまし、この世界の時山を別の過去の世界へ送り込んだのだ。自分の体験した方法と全く同じ方法で。
「あの僕の出会った老人も僕自身だったのかも知れないな。
 ただ僕と違うのは僕よりも、もっと時間の旅をした時の迷い人だったのかも知れない」
彼はゆっくりと立ち上がり、家路へと向かった。
 「結局何一つ、過去をやり直す事なんて出来なかったじゃないか」
 夕日が優しく彼を包む。
 「明日職を捜そう」

十四

 翌朝、電話の音で目が覚めた。
受話器を取る。
 「はい時山ですが」
あまりにいつものような朝である。
 彼は今までの出来事が夢のように感じられた。
 聞きなれた上司の声だ。
「時山君かね、今まで一体何処に行っていたんだ。大変な事が起こったんだ。
 木下君が殺されたんだ」
 「はぁ」
 「『はぁ』、じゃないよ『はぁ』じゃ。
 見ず知らずの老人に刺し殺されてたらしい。 その老人もその場で死んでいて、今身元を調査中だ。
 それから時山君、驚くんじゃないぞ。
 昨日、君が盗難届を出した鞄は、どうやら木下君が盗んだものらしい」
 「へぇ」
 「『へぇ』じゃない。何で驚かないんだ」 「い、いや驚いていますよ。あぁ、びっくり」
 「詳しい事情はまだ分からないが、今度のプロジェクトをこの事で中止させてはならない。
 このプロジェクトは必ず続けて、成功させねばならないものなんだ。それは会社のためでもあり、私のためでもある。
 早急に今後の展開を検討しなければならないのだよ。
 それには時山君、君の力が必要なんだ」
「今すぐ行きます」
「宜しく頼む」
 そう言って受話器を降ろした。時山は戸惑いの表情を隠せない。
 時山は気づいていなかった。
 タイムトラベルによって、今の自分が過去の自分とは変わってしまったことに。
一度よじれてしまった時間は決して元には戻らないのだ。
 その証拠に、昨日までの彼とは違い、今の彼はこれからの人生に絶望もしていなければ、死のうなんて考えたりもしていない。
 時山は慌てて会社へ行く準備をした。
 その時、ノックの音がした。
ドアを開ける。
 「家、出てきちゃった」
 そこにはすみれの姿があった。

THE END




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