ジゴロ
「膀胱炎です。」
高須憲吾はその病名を聞いて驚きのあまり思わず笑ってしまった。
昨日から、どうもトイレが近く、残尿感が消えないので、雨の中、病院の泌尿器科に行ってみることにしたのだ。とはいえ、それを決心するのにはだいぶ時間がかかりすぎた。待合室での彼は恐ろしく浮いていた。落ちつかない態度もそうだが、その独特の雰囲気がそうさせていた。金髪の髪に見るからに悪そうなサングラス、玉虫色のジャケットにインナーは発色のいいピンクを持ってきている。そして、最近彼のお気に入りの真っ赤な蛇柄のブーツが下駄箱に入りきらずその下の方にそろえて置いてある。元々、小さいころから大きな病気一つしてこなかったぶん、病院に行くことも少なかった。故に、「病院はなどはやっぱり正装だろう」と大きな勘違いをしてしまい、玉虫色の上下を着てきてしまったのである。医者に「水分を取ること」、「尿意を感じたらすぐにトイレに行くこと」を何度も言わせるぐらい、治すのにはどうしたらいいのか、しつこく質問した。医者にかかることも少なく、医者の言うことは絶対と思い込んでいる節も彼にはあった。
病院に行き、とりあえず不安を取り除かれた彼は、その足で、日課のパチンコを打ちに行く。「今日は負ける気がしない」と言う根拠のない自信を抱いて。
確かにパチンコで勝ちはした。ここ最近ないぐらいの大勝だ。しかし、彼のツキはそこで終わってしまっていた。
借金取りにつけられていたのだ。
「うれしそーな顔してるね〜。いくら勝ったの〜?それで、利子の分でも返そ〜か〜。」 そう言うと彼らは高須を狭い袋小路に連れて行き、インナーのシャツの発色がくすむぐらい彼に殴る蹴るの暴行を加え、金をむしりとっていった。
何に怒りをぶつけていいのかわからないまま、家路につく途中、急に鋭い尿意が彼を支配した。その時、かれの脳裏に蘇るのは、医者のあの言葉である。
「尿意を感じたらすぐにトイレに行くこと」
しかし、近くに公園などはない。都合のいいことに雨が降っていて周りに人の気配も感じられない。仕方なく、電柱の陰で用を足すことにした。
彼の後ろの方で人の気配がし、自分に言っていると予想される言葉が聞こえた。
「はずかしいなぁ〜、お前はぁ〜」
その瞬間、おさまりかけていた彼の怒りの焔が再燃した。何かが切れてしまったのである。
自分を侮蔑した男は、胸ポケットをごそごそと探っている。
それ行動を認知した瞬間には持っていたナイフをジャケットから出し、彼のほうに手が伸びていた。
どこを狙うともなく伸ばした手は男の太腿に到達した。勢いがあまりナイフの刃の部分がすべて、埋没している。
それに驚き彼はナイフを急いで抜いてしまった。すると男は断末魔の叫びをあげ、その場に倒れた。
その時になってやっと、彼は刺した相手が警官であったことに気付いた。それぐらい、その時の彼の精神は飛んでいた。
相手が警官であるということに気付くのと同時に、彼に一つの考えが浮かんだ。
借金取りへの復讐。
急いでその警官の拳銃を奪うと、彼はやみそうもない雨の中、家路を急ぐのだった。
次も見てみ。