情報屋
伊藤知弘は飛行機が空港に降り立つとまっさっきに搭乗口を目指した。
小太りな身体を他の乗客にぶつけながら足早に、そして自分の中では速やかに。
しかし行けども行けども搭乗口は見えてこない。なぜなら搭乗口は向かって左側にあるにもかかわらず、
伊藤が無我夢中で走っているのは右側なのだから。正確には見えているのだが、テンパっている伊藤には見えなかった。
搭乗口を見つけたころには息も切らし汗だくになっていて、他の乗客も降りきり、清掃員が掃除をはじめたときだった。
ふと、伊藤は何か忘れているような感覚にとらわれた。
がとりあえずこの鉄の塊からはやく開放されたかったのでまずは脱出が先決だ。
かまわず走り抜ける小太り。
42.195Kmを走りきったマラソンランナーかのごとく脱力感と達成感に満たされながら、伊藤は入国手続きを行った。
鉄の塊からの解放と、めったに運動しないせいもあってか、神様が一口ゲロを伊藤に授けてくださいました。感謝。
すると、ふと、さっきの感覚が甦る。とりあえず身の回りのものがあるか確認した。
タバコ、ライター、テレクラのちり紙、懐中時計、オロナミンCの瓶、携帯(PHS)・・・・・・。
ない。
携帯電話(PHS)がどこを探してもないのだ!!
またあの鉄の塊に戻るのか・・・・・・・。途方にくれながら方を落とし歩く伊藤。
お気づきのとおり伊藤は飛行機が大の苦手だった。というより25歳にして初めて飛行機に乗ったのが5日前だった。
アメリカの慰安旅行がネットで当選してしまったのである。
新種のアンパンも気になったので勇気を出して飛行機に初挑戦!!ってな具合に。
アメリカは今暑い時期だと聞いたので、お気に入りのタンクトップで良いだろうと現地に殴りこんだが、思いのほか微妙に涼しく、米軍基地で、軍モノのコートをお買い上げした。この格好が伊藤自信とても気に入っている。
なによりも「踊る大○査線」の刑事みたいじゃないの。
伊藤は数年前まで刑事を目指していた。故に人一倍刑事への思い入れも強いのである。
だが現実はさほど甘くなく、公務員試験3年連続不合格という実績を残して夢破れた。その時に手を出したのがアンパンである。アンパンを代表とする有機溶剤にはすべて中枢神経への抑制作用がありドラッグの中で毒性が最も強烈である。
脳の細胞に直接打撃を与えるのは、ドラッグの中でこのアンパンのみ。
長時間の吸引は脳細胞に部分的な欠落をもたらし脳萎縮をすらも引き起こす。慢性中毒となれば身体的に、歯牙溶解、栄養障害、内臓障害、視力障害、神経炎、脳波異常などが見られる。精神面では、無気力や精神分裂状態が発現し、残留成分が脳幹に達すると呼吸困難や心臓発作起こして死亡することがある。
ここだけ漢字が多くなってしまったが気にしないで。みんなはやったらダメよ!!
アンパンは嫌なことすべてぶっ飛ばすわけではないがスピードに手を出す勇気はなかった。
皮肉にも実家がパン屋を営んでおり、そのパン屋のウリが美味いアンパンであった。
そのためか「アンパン」という通称を伊藤はこよなく愛す。
というわけで今や伊藤はアンパンジャンキーです。
そんな伊藤の現在のお仕事は肉屋のバイトだったがサイドビジネスというか趣味で情報屋もやっている。
類まれなるハッキングの才能と飽くなきアンダーグランドへの探求、抜き差しならないアイコラ作成が彼を情報屋にしたてた。
だから携帯電話は仕事の必須アイテム、いつ連絡がくるかわかりません。それを置き忘れるなんて!!
やっとPHSを取り返し早速電源を入れるや否や、着信があった。
非通知だが、まぁいいや、出ることにしよう。
「ブッチャーか?」と男の声。
「お前誰だ?」とやや高い声で伊藤。
「マカロニだ。そういえばわかるだろ?」
マカロニ・・・・・・・2年前、児童ポルノ所持で俺を逮捕した刑事だ。と同時に共に刑事を目指した男。
片方は一発合格、片方は三発不合格、おまけにジャンキー。
「元気だった〜?これから会えないかなぁ?」とマカロニ。
この瞬間、ブッチャーに閃きがあった。
「ああ、いいよ。それじゃ一時間後に77(セブンティーセブン)で。」と言い放ち一方的に電話を切る肉屋(バイト)。
電話の向こうでマカロニが何か言っていたが気にしない。
77は学生時代よくマカロニと呑みに言った飲み屋だ。と同時に伊藤が前科を背負う羽目となった場所。
ひとりほくそ笑みながらするめをかじる伊藤。
100mほど離れた場所でなにやら、ばかでかい声ががした「おおばかもん!」と。
それは自分に言われているように感じる伊藤。
気にとめたが、さっそくパソコンをPHSに繋ぎ情報収集を開始する。
とはいえマカロニがどんな情報を知りたがっているのか聞くまえに電話を切ってしまった。
まあいい。
空港にいるにもかかわらず、不謹慎にもお気に入りの「裏アイドルお宝画像」にアクセスし最新画像をチェックする。
気付くと伊藤は77に来ていた。どうやら小一時間ほどそのHPに没頭してしまったらしい。
まだマカロニの姿はない。よーし、まだこの画像に浸れるぞ。
「あいかわらずだね〜」
後ろを向くとそこには髑髏のチョーカーをつけた男が立っていた。しかも卑屈な笑いも口元に浮かべている。
慌てて画面を閉じようとするが、画像の見すぎでフリーズしてしまっている事にも気づかない伊藤。
その慌てっぷりは白熊に襲われる寸前のアザラシを髣髴させた。
こうして復讐を誓うジャンキーとパチスロ負けっぱなしの髑髏が再会し、事態はクライマックッスへ・・・・?。
次へ。