「隊長! アメリカ軍の戦車隊が接近しつつあります!」
イラク軍指令本部は混乱と喧騒に包まれていた。
まだ侵攻は先と思われていたアメリカ軍が既にバクダット郊外2kmにまで
進出しつつあったのである。
当直士官は信じられないと言う表情で、偵察隊からの報告をなかなか理解
する事ができなかった。
「とっとりあえず、大統領に報告せねば・・・。」
事態をようやくの事で認識し、ノロノロト地下要塞の最深部に位置する大統領執務室への
ホットラインに手を伸ばしたのであった。
「大統領、いかがいたしましょう・・・。
現在の首都防衛の為の兵力では奴らを阻止する事は事実上不可能です。
主力は各地に分散されていますし、今から集結させたとしてもアメリカ軍が
バクダットを陥落させてからになるでしょうな。」
悪意と憎悪に満ちたイラク軍総司令官の言葉に全く動じた様子も見せず、
イラク大統領フソインは反対に質問を返した。
「ふん、司令官、なにが言いたいのかね?」
この後に及んでの態度に司令官の怒りはついに兆点に達し、普段なら粛清を
恐れ、絶対に口にするはずはない言葉を吐き出させた。
「では言わせてもらいましょう、なぜ親衛隊や防衛軍を各地に分散配置
させたのですか!
あの兵力があれば、アメリカ軍の侵攻を阻止し、戦争を長引かせる事により
世界各国の世論を戦争反対にもって行く事も可能だったはずです。
この事態を招いたのは全て貴方の作戦ミスだ!
この責任を取り、貴方自身が銃を手に奴らの前に立ち、神の審判を受け、
死んで行った者達に詫びるべきだ!」
「・・・・・。」
黙し項垂れている大統領に対し、指を突き立て司令官の口からは呪詛の
言葉が投げかけられた。
「更に言わせて頂けるなら、ユーフラテス河の橋を破壊しなかったのは
なぜです。
あれではまるでバクダットに侵攻して下さいと言わんばかりでは
ありませんか!
それとも、奴らとの間に秘密裏に取引でもされていたのですかな。」
司令官は苦虫を噛み潰したかのように口元を歪めドンッと大統領の
執務机に拳を叩きつけた。
机の上に飾られていた花瓶や積み重ねられていた報告書が、驚いたように
一斉に飛び跳ねるほどの勢いであった。
こんな暴言を直接聞いたのは大統領になってからは初めての事である。
机に肱を置き、組み合せた両手に額を付け、俯き加減で話しを聞いていた
大統領の肩が小刻みに震え始めている。
一気に捲くし立て、怒りの収まらない司令官からは、その表情は判らない。
やがて大統領の振るえは大きくなり、急に体を反りかえらせたと同時に
広い室内に哄笑が響き渡った。
「・・・・ふっふっふっふっ、ワッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!」
「大統領、なにが可笑しいのですっ!」
この事態をまだ認識していないのかと思い、司令官の今にも火を吹きそうな
顔がますます紅く、いや怒りを通り越したのかどす黒く変色していく。
「ワッハッハッハッハッハッ・・・ヒッヒッヒッヒッ・・・いや済まない司令・・・。
君があまりにも私の考え通りの質問をしてくれたので・・・、ヒッヒッヒッヒっ・・・。」
以外な反応にあっけに取られている司令官を他所に、笑いを押し殺し、
涙さえ浮かべている大統領の声が続いた。
「君達には話していなかったが・・・、いや誰もこの事は知らないのだが、
我々には最終兵器があるのだよ。
それも、まだ実戦にはどこの国、あの忌まわしい侵略者達の軍隊にも
配備されていない究極の兵器がだ!」
「なっなんと、そんな物が一体いつのまに・・・、いえ、そんな物を
どこから・・・。」
想像外な大統領の言葉に、戸惑いながらも更に質問を続けようとする司令官を
軽く片手で制し、
「ハッハッハッハッ、驚くのも無理はない、私もそれを知ったのは全くの偶然だったのだよ。
いや、アラーの神が私の為に遣わして頂いたのだ!」
まるで目の前に神がいるかのように、眼光に力を漲らせ、拳を胸の前に硬く
握り締め、語り続けた。
「そう、私が戦略・戦術研究の為に各国より取り寄せた記録の中に、それは
あった・・・。
あらゆる攻撃を払いのけ、圧倒的な攻撃力で敵を叩きつぶし、その力は
大都市でさえ灰燼に帰するパワー、それはさしずめアラーの神が降臨され
天罰を下されたかのようであった・・・。
私はそれを今日と言う日を予測し、多大な費用と人員を導引してこの手に
入れたのだ!」
大統領の目にはもはや司令官の姿はおろか執務室内の全ての物が写っては
おらず、秘密兵器の神々しいまでの姿を思い描いているだけなのであろう。
静寂に満ちた室内に、司令官のゴクリと息を飲む音が響いた。
「今こそ神の裁きが卑劣な侵略者達の頭上に振り下ろされる時なのだぁ!」
ドォンッと大統領の拳が机に叩きつけられると、室内全体が身震いした。
ポカンと痴呆のようになっていた司令官の目に精気がもどり、大統領に
憧憬の眼差しを向けると、飛びかからんばかりの勢いでその身を乗り出した。
「そっそれで、その秘密兵器はどこにあるのですか!」
司令官のあまりの勢いにたじろぎつつ
「まぁまぁ落ち着きたまえ、君に知らせておかなかったのは悪いと思っては
いるのだ、しかし、この情報が万が一侵略者の知る所にでもなれば奴らも
当然対抗手段を打ってくるだろうから、敵を騙すには先ず味方からと
言うからな。」
「はいっ、判ります判りますとも、大統領の深慮遠望には私などの及ぶ
ものではありません。」
態度の一変した司令官の姿に満足したのか、大きく頷き、胸のポケットから
リモコンを取り出し、赤く塗られているボタンを力強く押さえた。
「よろしい、では付いてきたまえ。
これより私自身が出撃し、奴らの息の根を止めてやる。
主力さえ叩き潰せば、もはや奴らも烏合の衆よ、そうなれば、各地の
我が軍が敵を包囲殲滅するのも赤子の手を捻るようなもの。
司令官、君には随分と身の縮む思いをさせてきたが、この戦い我々の勝利で
終わるだろう。」
颯爽とイスから立ち上がり、背後の本棚に隠されていた秘密格納庫への
通路に滑り込むフソイン大統領と、それを期待に満ちた眼差しで追いかける
イラク軍総司令官の姿が通路の奥に消えると再び静寂だけが室内の主と
なるのであった。
窓も扉もない狭く薄暗い通路を、もう何分歩いただろう。
司令官は前方を歩く自信に満ちた大統領の後姿を何度見直したのだろうか。
何度目かの通路を曲がり、階段を上がった所で、、そんな時間が唐突に終焉を
告げた。
前方に四角く切り取られた光りが見え始めたのである。
その光りの中に進んで行くと、幾人かの技師と思われる人間が忙しく
立ち回っている姿が司令官の目に飛び込んできた。
「どうかね、調整の方は?」
それまで全く言葉を発していなかった大統領が、義肢の一人に居丈高に
声をかけると、部屋の中央にある機械のコクピットに頭を突っ込んでいた
チーフらしき者が慌てた様子でこちらに視線を投げてよこした。
「あっ、大統領閣下!
調整は終わっております、直にでも発進は可能です。」
まだ若いであろう技師は、額の汗を拭いつつ、自信に満ちた表情で、
それまで足場にしていた台座から降り立ち二人に駆け寄ってきた。
その言葉を聞くと、大統領は大きく頷き、
「それではこれより出撃する、準備を始めたまえ。」
「これが・・・、秘密兵器・・・。」
司令官は視線をその機械から外す事なく呟いた。
「その通り、これが我軍が、いや私が誇る最終兵器である。」
しかし、司令官にはそれがそのような威力を持つ兵器には見えなかった。
全長は5mほどであろうか、コクピットは、その上1/4ほどを占めており
透明なドームで蔽われている。
コクピットの下部には、2基のヘッドランプが取りつけてあるが、他にはこれと
言った装備は見当たらなかった。
ヘリコプターにも見えなくはないが、胴体の底部からは左右に伸びたアームの
先に小型のローターが付いている。
かなり独特なスタイルである。
しかも、色彩は赤一色で戦闘兵器としては目立つ事この上ない。
疑心暗記のような司令官の表情を横目に、大統領は実に楽しげに
口元を歪めている。
「ふっふっふっふっ、驚いたかね司令官。
安心したまえ、これはほんの一部にしか過ぎないのだよ。」
「すっ、するとこのヘリコプター?の大舞台があるのですね。」
すがるような視線を向けてくる司令官に対し、素っ気無い口調で大統領は続けた。
「いや、これは1機のみだ。
言ったであろう、これは一部だと。」
よく飲み込めない表情の司令官に対し、苛立ちを押さえながらも言葉を
続けた。
「このヘリコプターは秘密兵器のコクピットに過ぎないのだよ。
本体は別の場所にあるのだ。」
「なんとっ、あれがコクピットですと!
一体どのような兵器だと言うのですか。」
その驚きに気を良くしたのか、再び大統領に笑みが戻った。
「おや?君は毎日親愛と尊敬を込めて見上げていたはずではなかったのかね?」
「???????」
傍らにいた技師から受け取ったヘルメットを被りながら悪戯が成功した
子供のような笑顔で問いかけてきた。
いつの間に着替えたのか、ヘリコプターと同色の身体にフィットしたスーツ、
甲冑の着いたかのような白いグローブとブーツ。
なにより異容なのは、下腹部を包むようにそこだけが黒く彩色されており、
丁度ズボンの上からブルマーを履いたようになっている事である。
このようなパイロットスーツ、いや、全イラク軍内を探してもこんな
征服などありはしない。
今 大統領が手にしているヘルメットでさえ、斜め後上方に向かって
2本のツノが突き出しているのである。
「君は、大和と言う戦艦を知っているかね。」
呆れたように眺めている司令官の姿を気にするでもなく、上機嫌で大統領は
尋ねてきた。
彼の大脳は、話題が急に変わったため、なにかあるのでは?と訝ったものの
それ以上の事はないとの判断を下した。
「第二次世界大戦中に沈んだ日本の戦間ですね。
・・・・・、まさか戦艦を作られたのですか!。」
「ハッハッハッハッハッ、それはいい、今度は大和を作って砂漠を
走らせよう! ワッハッハッハッハッ。
最後まで話しを聞きたまえ。
以前私は日本のムービーを見た事ガあるのだよ。
そのムービーでは、未来の地球が異星人の侵略を受け絶滅の危機に瀕している
のだが、最後の望みを託して「ヤマト」と言う宇宙戦艦を建造し敵を倒すと言う
ストーリーなのだよ。
それはいいのだが、その中では、ヤマトは沈没して廃墟のような姿を晒しているのだ。
しかし、そんな大和の内部に新しいヤマトが作られ、古い大和から昆虫が
脱皮するかのように脱ぎ捨て発進して行くのだ。
まるで大和が蘇ったかのように現われるのだ。
それを見た私は感動とともに一つの閃きを感じたのだ。
国民の心に深く親愛を得ている物が古き衣を脱ぎ捨て、敵を撃破する、
それはまるで神が大地に降臨されたものに他ならぬ事のようではないかと!
また、そんな物の中に秘密兵器があるとは敵も考えまい。
さぁ、話しはここまでだ。
君は司令室に戻り、侵略者どもが撃破される瞬間と、私の勇姿を見るのだぁ!」
フソイン大統領は、○踵を返すと発進準備の完了した秘密兵器の
コクピットへその姿を乗り込ませ、ローターの巻起す爆音と伴に天井に
開いた扉から虚空高くへと消えて行くのであった。
後に残されたのは、軍服の裾をはためかせ、今や見えなくなった大統領に
不動の姿勢で敬礼を送る司令官と義肢達の姿であった。
:バクダット市内、中央広場付近:
数輛のアメリカ軍戦車がキュラキュラッとキャタピラ音を轟かせバクダット
中央道路を驀進している。
先頭を駆けぬける戦車内では、戦車集団の指揮官がマイクに向けてがなり
立てていた。
「いいか、目指すはフソイン宮殿だ!
敵の残存兵力はもはや無いに等しい、一気に突き進むぞ!」
「少尉、前方にポイントのフソイン像が見えました。」
「よぉし、各戦車に通達、我戦車を中心に左右に展開、フソイン像を
盾にしながら前進、周囲の警戒を怠るな。」
ポイントとしていたバクダット中央広場のフソイン像を確認、進路と陣形の
チェックを行った少尉は覗いていたスコープから目を離し、袖口で汗を
拭った。
市内への突入時にイラン歩兵の攻撃を受けた以外は、大した抵抗を受けずに
済んではいるのだが、ここでは敵の攻撃より、太陽と砂が最も手強い敵なのである。
「どうです、あの像に一発砲弾をぶち込んで行きましょうか。」
主砲の照準器で外部を見ていた砲手がエンジンの響かせる轟音に負けじと
少尉を見上げ怒鳴ってきた。
「ほっておけ、今は一刻も早く突入しなければならん。
一番に乗り込むのは我隊だからな。」
ニヤリと笑みを砲手に向け、親指を立てて合図を送ろうとした少尉の耳に
警告音が響き始めた。
「前方より未確認航空機接近中!
味方識別信号なし、機種不明・・・いや、ヘリコプターのようです。」
戦車内に緊張が走った。
戦車の大敵はなんと言ってもヘリコプターなのである。
「くそっ、対空防御、各戦車は散開! 空軍に支援要請!」
「奴らめ、もうこんな所まで!
まぁよいわ、我戦いの狼煙として、血祭にあげてくれるわ!」
慌てて左右に展開を始める戦車隊に対して、フソイン大統領の乗る真っ赤な
ヘリコプターは一気に距離を詰めていった。
「突っ込んでくるぞ! 対空機銃掃射!」
各戦車の砲塔上部に設置されている機銃がパッパッパッパッパッと軽快な
音を立て、一斉に火を吹いた。
たった1機で突入してきたヘリコプターは戦車隊の上空を飛び抜け、
旋回すると、再び機銃の攻撃を嘲笑うかのように来た道を引き返し、広場の像の上空に停止したのである。
「なんのつもりだ・・・。」
一人呟いた少尉の目が、前方の像、敵ヘリコプターの下で
小さな異変が起こっているのを捉えた。
像の頭頂部かが外に向かって弾け、その空洞に翼を折りたたんだ
ヘリコプターが吸い込まれて行ったのである。
完全に着地したと思われた時、大音響で音楽が鳴り響いた。
その音は戦車の装甲をも揺るがし、微かではあるが、少尉達の耳にも直接届いたのである。
チャチャンチャンッ、チャチャンチャンッ、チャチャーンチャンチャンチャンッ
チャラチャラチャチャンチャーン
そぉーらにぃー そびえるぅ、しろがねのぉ しろぉー
スーパァーーーロボットォーーー フソインガァッ ゼットォ!
「なんだ、何が起こっているのだ!」
少尉はもとより他の戦車兵達も予想外な事に浮き足立ち始めている。
他の戦車でも同じ事であろう事が、各戦車の動きに協調性をなくして
いる事からも伺えよう。
「落ち着け、敵は1機だ、隊形を整え反撃に備えよ!・・・なんだ・・・あれは・・・」
少し冷静さを取り戻した少尉の目に、更に信じられない光景が飛び込んで
きた。
前方のフソイン像の全身にひび割れが走り、カケラを振り撒きながら
その右手が動き始めたのである。
「・・・!?」
更に左手、左右の足からカケラが飛び散り、もうもうたる砂煙に全身が
包まれ、戦車隊の視界を遮った。
「なにが・・・起こって・・・いるんだ・・・。」
少尉の問いに答える者は誰もいない。
そんな奇妙な沈黙の中、ズシンッと地響きと振動が車体を揺らした。
一塵の風邪が通りを駆け抜けもうもうと舞っていた砂煙を払いのけると、
そこには以前のようにフソイン像が立って、いや違う!太陽光を鈍く反射した
鋼鉄の輝きを身に纏った巨大な人間の姿があった。
大地を踏みしめる巨大な足、何者おも捕まえ粉砕してしまうような力強さを
秘めている腕。
黒と白のツートンカラーに塗装されたビルのような胴。
どのような攻撃にもビクともしない逞しさを感じる胸には紅い板が左右に
取りつけられ威容を誇っている。
なにより、その顔は中世の騎士を思わせ、先程のヘリコプターが1部を頭部に
覗かせているのである。
各戦車はその動きを止め、兵士達の息をを飲む音すら聞こえてくるようである。
「こっ後退!後退だ!、一旦退き体制を立て直す! 敵の新兵器かも知れん!」
逸早く事態を認識した少尉が、マイクに怒鳴りつけるが、戦車の動きは
ノロノロとまるでぞうがめに乗っているかのようにしか思えない。
「フッフッフッフッ、ハッハッハッハッハッ! ついに、ついに動き始めたぞ!
今こそ貴様達の上に神罰が下る時がきたのだ!。」
大統領の目に写るのは、まるで子供の玩具程度の大きさにしか感じられない
アメリカ戦車の盂応左右する姿であった。
全長18m、体重119tこの巨大なる人型ロボットこそ、フソイン大統領が
莫大な資産を投入して作らせた最終兵器「フソインガーZ」なのである!
フソインガーZは自身の力を鼓舞するように、両手を構え、天に向かって
咆哮した。
雄叫びが聞こえる訳ではなかったが、見る者にとってそれはまさに獲物に
襲いかかる魔神の姿そのものであった。
ズズゥゥゥン、ズズゥゥゥン・・・。
アスファルトの道路に足跡を刻み、フソインガーZが数歩前進し、先頭の
戦車を睨みすえた。
瞬間、魔昼の太陽の光を軽く凌駕する光りの矢が戦車を射抜き、その姿を
眩いばかりの光で蔽い隠した。
「うぉぉぉ! 目が!」
フソインガーZを観察していた少尉は、顔をスコープから引き剥がし、
両手で目を押さえながら唸り声を上げた。
それは砲手、操縦席の兵も同じであった。
「目潰しだ! 全員ゴーグル装着しろ!」
全員が一瞬視力を失い、戦車のコントロールが乱れた。
最悪な事に、全力で後進に移り始めていた戦車は隣を並走していた戦車に
後尾から突っ込んでしまった。
フソインガーZは、首を巡らせると一台また一台と光の矢で包み込んで行った。
ある戦車は仲間の戦車に突進し、運よく衝突を逃れた者も道路の両脇に
建ち並ぶ家屋、ビルにその巨体をめり込ませ動きを止めてしまったのである。
「ガッデェィム!、被害状況は、動けるのか! 破壊された奴はいるのか!」
各戦車からの報告は幸いな事に大した被害はなく、どの車輛も戦闘、
走行には支障はないようである。
「各個に砲撃、互いの援護を忘れるな。
まだ他にもいるかも知れん、周囲の警戒を密にせよ。」
まだ目が痛むのであろう、瞼の上から軽く両眼を揉みほぐすと、再びの
攻撃を警戒し、戦車隊に命令を発した。
ノロノロと、それでもエンジン音とキャタピラの軋み音を響かせ移動を
始めた戦車隊に更に攻撃がしかけられた。
フソインガーZの口に当たる部分から凄まじい勢いで風が吹き出し
始めたのである。
その風邪は周囲の砂を巻き上げ、ビルに掲げられている看板を引き千切り、
街路樹の青々と茂る葉を、市民の憩いの為に置かれたベンチを吹き
飛ばしながら戦車隊に襲いかかった。
「今度はなんだ! なんなのだこれは!」
戦車の装甲にゴンッ、ゴンッとなにかがぶつかる音が不気味に響き、
巻き上げられる砂によってまたしても視界が遮られた。
すぐ数メートル先にいるはずの戦車の姿でさえ、見る事はできない。
イラク攻撃が始まった当初に遭遇した砂嵐の只中にいる時でさえ、
これほどのものではなかったであろう。
視界を遮られ、攻撃はおろか移動する事もできない戦車の中では息を堪え、耐える事しかできない。
「状況はどうなっているんだっ、敵はどうなっているっ!」
少尉の苛立ちを隠せない怒声が車内に響く。
「各戦車には被害は出ていません、敵の状況は不明!」
そんな報告の中、暴風は唐突に終わった。
周囲には窓や扉の大半を破壊されたビル、家屋が姿を顕し、美しかった
広場には無残にも丸裸にされた木々が枯れ木のように立ち並び、中には
横倒しになっているものさえ見られる。
戦車には砂の山が堆積し、砂粒がパラパラと舞い落ちてくる音が間断なく
続いている。
舞い上げられた砂が煙、フソインガーZの姿を影法師のように浮かび
上がらせているが、その姿は両手を構え、再度咆哮を上げているように見えた。
不思議な事に、黒い影にしか見えない魔神の胸の部分がボゥと赤く
発行しているではないか。
なにか焦臭い匂いが辺りに漂い始めると、ややもしてその発光も弱まって
いった。
「なにをしようと言うのだ・・・、今までの攻撃には意図があると言うのか・・・。」
「なぜだ!なぜ奴らは平気なのだ!。」
フソインガーZのコクピットで、フソイン大統領は混乱していた。
「光子力ビームはあんな戦車の装甲などは紙のように貫き、ルストハリケーンは
即座に鉄屑に変えてしまい、ブレストファイヤーはバターを熱するように
溶かしてしまうのではなかったのか・・・。
それなのになぜ奴らはあそこにいるのだ。」
フソインガーZの力に絶対な自信を持っていた大統領は眼前の光景、
お互いに激突した以外にはなんの損傷も見られない戦車が信じられなかった。
それもそのはず、もしここで食い止められなければもう後はないのである。
バクダットは陥落し、イラクは敗北するのである。
いや、大統領の命そのものが失われるかも知れないのである。
「なぜだ・・・、なぜだ・・・。」
いくら考えても同じ言葉がぐるぐると繰り返されるばかりであった。
「・・・ハッ、そうかスパイがいたのかっ!
Zの子とが奴らに漏れていたのかぁ!
あの技師か、それともあいつか、クソッ銃殺してくれるわ!!
侵略者どもはなにか防禦策を講じておったに違いない。
私のギネス記録を卑劣な手段で妨害したあのブッチの奴ならやりかねん事だ!」
怒りに顔を紅潮させた大統領は、コンソールパネルに激しく拳を叩きつけた。
「まだだ、まだだ、エネルギー兵器が通用しないと言うなら、実体弾が
残っているわ。
直接捻り潰してくれようっ」
フソインガーZは両手を前方へ差し出した。
「ロケットパーーーーーンチ!!!」
ゴゴゴゴォォォォォッ!
大統領の掛け声と伴に肱から切り離された腕が、爆炎を引いて飛翔し始めた。
辺りを劈くほどの爆音と数メートルに及ぶ炎、煙をたなびかせグングンと
スピードを上げて突進して行く。
「ミサイルッ、直撃します!」
悲鳴にも似た声が終わるか終わらないうちに、大音響が響き渡り、戦車の
車体を大地震もかくありやと言う程の振動が襲ってきた。
「うわぁぁぁぁーーーぁ!。」
「ガッデェィム!」
「少尉、愛しておりましたぁぁぁぁぁぁぁ!」
悲鳴と怒号が車内を支配したが、振動は数瞬で収まった。
その後に予測された、装甲を突き破るミサイルの侵入も、全員を死神の
大鎌の前に突き出すはずの爆発も起こらなかった。
「不初か・・・?。」
ハッチを開け、恐る恐る車外に顔を出した少尉の目に真っ先に飛び込んで
きたのは、両腕をなくし、それでも巨大で威圧するかのように聳え立つ
フソインガーZの姿であった。
初めて直接目にするその姿は敵とは言えある種の感動を呼び覚ます
ものであり、まさに魔神と言う他ないものである。
そして今、戦車を襲った魔神の腕は、炎を吹き出しながら、地面の上を転げ回っていた。
だが、燃料が尽きたのか、やがて炎も弱まり、ゴロンと元々そこに存在する
オブジェのように停止したのであった。
もう一本の腕は、戦車隊の上を飛び越え、遥か彼方に消え去ってしまった
ようである。
少尉がミサイル・・・魔神の腕の消えて行ったであろう先を追い、どこまでも
続いている煙から目を外すと同時に、ズシィンッ、ズシィンッと大地が
振動を始め、魔神が三度(みたび)動きを開始し始めた。
「くっ来るのか・・・。」
靄のかかったバクダットの街中を重々しい足音を響かせ、巨大な影が
迫り来る。
アラビアンナイトの物語に出てくる巨人そのものの姿であろう。
だが、目の前にいるのは、母親がベッドの中で聞かせてくれた物語でもなく、
映画でCG合成された架空の姿でもない。
金属の鈍い光沢を放ち、大地に足跡を刻み込みながら、機械特有の軋轢音を
響かせ一歩また一歩と眼前に迫り来るのである。
少尉の額から暑さのためではない汗が流れ、喉仏が上下した。
もう戦車と魔神の距離は50mもないであろう。
砲撃準備の時間は充分すぎるほどあったはずであるが、どの戦車の砲口からも
砲弾の一発も放たれてはいない。
まさに神の出現に恐れ戦き大地に頭を擦りつけ許しを乞う信者のように
一切の動きすら感じる事はできなかったのである。
やがて十数メートルの距離まで近づいた魔神は戦車隊を見下ろすように
聳え立つとその動きを止めた。
まるで平伏す人間のちっぽけな姿を嘲笑うかのように、いや、許しを乞う
人間の改心した心を試す慈悲深い神のようにも見えた。
するとどうした事であろうか、頭頂部に収まっていたヘリコプターが垂直に
飛びあがり、翼を広げフソイン宮殿に向かって飛び去って行ったのである。
どんどん遠ざかっていくヘリコプターを見つめ一人呟く少尉であった。
「助かったのか・・・助けられたのか・・・。」
もう微動だにしない魔神の姿を見上げながら、知らず知らずのうちに
小さく十字を切ったのであった。
「なぜっなぜっこれからと言う時に!」
フソインガーZから遠ざかりつつ、コクピットでは大統領が何度も
コンソロールパネルに両手を打ち付けていた。
そのパネルには点滅を繰り返しながら
「乾電池を交換してください。」
と表示されていたが、日本語の読めない大統領に意味が通じなかったとしても
責める事はできなかったであろう。
「きっと、戦闘記録に写っていたあのパイロット・・・Mr koujiも私と
同じ気持ちだったのであろうな・・・。
Z・・・、私は君の勇姿を忘れる事はないだろう。」
止めどなく流れ出る涙が、バクダットが陥落する事への悲しみなのか、
Zを失った事への悲しみによるものなのかは大統領自身にも判らないもので
あろう。
遠くに見える国会議事堂に星条旗が掲げられるのが見えたが、もはや
どうでもいい事のように思えた。
悠久に続く青い青い空のした、誰に知られる事もなく、ヘリコプターは
消えて行ったのである。
フソインと言う名を歴史にのみ残しながら。
「こちら、CNNのトマス・ニールセンです。
アメリカ軍の猛攻の前にバクダットはついに陥落しました。
国会議事堂には星条旗が翻り、今はフソイン宮殿で残存兵との間で散髪的な
戦闘が続いているだけであります。
あぁ!今アメリカ軍の戦車によってフソイン大統領の像が倒されようと
しています。
戦闘の激しさを示すのか、両腕はなく、頭部も壱部が破壊されています。
傾いていきます・・・・、倒れましたぁ!
バクダット市民の換気の声も聞こえてきます。
ここにフソイン政権はついに終焉を迎えタのであります!」
「CIA機密文書 ファイル11043」
「ええ、我が社で作った物に間違いありません。
驚きましたよ、テレビで見た時は、イラクに行っていたのかと目を疑い
ましたねぇ。
そうですか、フセイン大統領からの発注だったんですか。
兵器?
いえいえとんでもございませんです。
プラモデルの実物大のようなものです。
そりゃまさかプラスチックで作る訳には行きませんでしたから鋼鉄を
使っちゃぁいますけど。
ビーム?・・・あぁ、光り子力ビームですか、あれはただのサーチライト
ですよ。
ほらよくあるでしょう、ピカピカ目が光る玩具が。
台風??あっ、ルストハリケーンですね。
えっ、暴風を巻起した?まさか、モーターで風邪を送り出す程度の物ですよ。
そりゃ、砂漠なら砂煙を上げる事ぐらいできるでしょうけど、大木を
薙ぎ倒したですって!
まさか、そんな風邪を起こせるはずはないです!
焦臭い匂いですか。
はて?モーターが加熱していたのかな??
あっブレストファイヤーだ!
はいはい、あれは胸の板から高熱を放射して相手を溶かす物武器なんです。
えっ、武器じゃないかですって。
あっはっはっはっ、テレビでの話しですよ。
本当にできる訳ないじゃないですか。
あれは、ただのヒートパネルで、そうですね、キャンプに行った時に
バーベキューができるぐらいな物でしょうねぇ。
あっはっはっはっはっはっ。
ちょっと、そんなに怖い顔しないで下さいよ。
まぁ、かなり協力なバッテリーを積み込みましたけど、あの重さでしょう、
10分も動ければいい方じゃないでしょうかね。
だって、元々が玩具の拡大版なんですから。
いやぁ、楽しかったですよ。
小さい頃から、実物大のロボットって作って見たかったんですよ。
そりゃ、外人さん、アラブ系の人間だと思うんですけど、いきなりやってきて
「これを作れ!」
とビデオを見せられて、あっ、ただのアニメでしたけど、えっ「マジンガーZ」
って言うロボットアニメでしたけど、知ってます?
へぇぇ、あちらでも放映されているんですね。
えっ、違うの、じゃ何で知ったんでしょうね。。
幾つものアタッシュケースに鮨詰めの万冊を見せられちゃ作らない訳には
いかないでしょう。
なんでうちに来たかって?
しりませんよ、まぁ似たような玩具を作っていますから、それで某大手玩具
メーカーさんと勘違いしたんじゃないですか。
おかげでうちは倒産せずにすんだんですから、ありがたいものでしたよ。
他に作った物はないかって?
そうですね・・・あぁそうだ、その後にもう一台作りましたけど、あれは
どこの国に行っているんでしょうねぇ。
一人ホワイトハウスの執務室で テープレコーダーのスイッチを切った
ブッチ大統領は続いて付属の報告書に目を落とした。
第3戦車大隊、第5小隊の遭遇した突風(敵兵器名:ルストハリケーン)は、
当時の気象観測データーなどの解析から、同時刻、バクダット市内において、
局地的な竜巻の発生が観測されており、偶然にもルストハリケーンの
作動時刻と重なったため予想外の威力を発揮せしめたものである。
CIA特別捜査官 フォックス・モリダー
読み終えるとブッチ大統領はバサリと報告書を投げ捨てイスに背を預けた。
ボンヤリと天井のシャンデリアを眺めると深く溜息を吐き出した。
その脳裏には今までのフソインとの日々が懐かしく、思い出され数々の出来事が
駆け巡って行ったのである。
半年前の南極大陸での戦い、ギネスブックへの新記録の達成、そして開戦を
決定する事になったフソインとのホットラインによる激論を。
「奴さえ見とめていれば、こんな戦いなどする必要もなかったものを。
Zよりゲッターの方が強いと言う事を。」
改めて溜息を一つつくと、体を起こし、机の中に仕掛けられているボタンに手を伸ばした。
僅かな作動音を立てイスが沈み始めボンヤリと光りを放つトンネル内を移動して行ったのである。
プシューーーと低い音と伴に、イスが目的地に到着すると、静かにドアが
開き、ライトが室内を明々と照らしだした。
工場を思わせる室内に立ち、スウメートル先にある手摺に近づくと下ほうを
覗き込みながら誰に聞かせるでもなく呟き始めた。
「今回はお前の出番はなくなったな。
だが、安心するがいい、次ぎはシリアと北朝鮮が待っている。
その時こそお前の力を世界に示すのだ、それまで休息をとるがよい。
ブッチーロボよ。
フッハッハッハッハッハッハッハッ!」
ブッチの足下には、頭部から二本の角を生やし、六角形の窓が人の顔に
模して配置されている巨大な人型ロボットが
いつまでも続く笑い声を聞いていたのであった。