「ホタリン裏話」

 コンッコンッ・・・。
ドアが静かにノックされている。
私は、イスから立ち上がり返事をしながらガチャリとノブを回すと同時に
勢いよくドアが押し開けられ、一人の男が息を切らしながら飛び込んできた。
呆然としている私には目もくれず、荒々しくドアを閉じると、
ドアにロックをかけ、外の様子を伺うように耳をドアに押し当てている。
そして数分の後、なにも聞こえなかったのか、安神したように身体の力を
抜くと、やっと私がいる事に気が付いたようにこちらに振り向いたのである。
私はその男の異常な行動にあっけに取られながらも、勇気を振り絞って
声をかけた。
「でんちゃん、どうしたの?」
そう、飛び込んできたのは、なにを隠そう(隠す必要もないのですが)、
でんちゃんだったのです。
彼は私の質問に答えるでもなく、ソファーに腰を下ろし背中に担いでいた
袋をデスクにそっと置いたのである。
かなり大きな袋で、でんちゃんの身体がすっぽりと隠れてしまうほどの物だ。
しかも、ごそごそと動いている。
なにか生き物が入っているのであろうか。
「なに?それ??動いているよ。」
私は恐る恐る手を伸ばし、袋をつんつんとつついてみた。
プニョプニョとなにか柔らかいものが入っているらしい。
機械などではなく、やはり生き物のようである。
ようやく息が整ったのか、タバコをポケットから取り出し、火を着け
煙を吐き出すと
「開けてもいいよ。」
と私にきつく結ばれている袋の口を指し示した。
ちょっと嫌な気もしたのだが、怖い物見たさも手伝って袋の口に手を
伸ばすと、結び目を解き始めた。
思っていたより結び目はゆるく、なんの苦労もなく紐はほどけ、私は袋を
開けたのである。
それは私が中身を覗こうとする前に飛び出してきた。
「キャァーーーーーッ、マリリンです!」
「キャーーーーーッ、ホタルですぅ!」
その声に驚き、私は再び袋を閉じてしまった。
「えっ・・・・・。」
あまりにも意外な事が起こると、人間は思考を中断してしまうと聞いた事が
ありますが、今の私はそれを実感しているのです。
数分、いや数秒だったかもしれないが、私はでんちゃんの顔を凝視して
いたようだ。
特になにかを考えての行動ではなかったように思うが、ゆっくりと再度
袋の口を開け、今度は中をマジマジと覗き込んだ。
そこには、マリリンさんとホタルさんのつぶらな瞳が私を見つめて
いたのである。
時が氷付いたように流れている。
上から見ても、下から見てもマリ燐さんとホタルさんである。
試しに後ろから見て見ようかと思ったが、きっとマリリンさんとホタルさんで
あろうから止めておいた。
「どっどっどっどっどっどうしたんですか・・・。」
なんとなく間抜けな声が出てしまった。
すると、なんでもないかのように でんちゃんが答えた。
「捕まえてきた。」
再び静かな時間が部屋に流れ始めている。
「つっつっつっつっ捕まえてきたって・・・。」
「うむ、ミキシングしておいてくれ。」
吸い終わったタバコを灰皿に押しつけると、軽やかに立ち上がり入って来た
時と同じようにドアの前で外の様子を伺うと素早くドアから滑り出し、
パタンとドアの閉じる音と、パタパタとローカを走り去る音が遠ざかって行った。
部屋の中には、小首を傾げ、ニコニコと微笑みながらデスクの上に座っている
お二人と、氷付いてしまったように動けない私だけが取り残されていたので
あった。

・・・いつかその首、かっ捌いてやるぅ!

「ホタリン(mp3 : 117kb)」            

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