ユーミンの歌に乗せて、恋物語を展開する映画があった。
「私をスキーにつれてって」だ。
もう10年以上も前にヒットした映画だが、このごろよく思い出す。
内容ではなく題名を。というのは、私は今まさしくこの心境なのである。
そして、このセリフを言いたくてしかたがないのだ。
若いころ、私はよく夜行バスでスキー場へ出かけた。
狭い座席でひと晩かかって大阪から信州へ行くのである。
行くだけでくたくたになったが、スキー場に着くとぱっちりと目が覚めた。
そこは私の大好きな銀世界だった。
ゲレンデには色とりどりのウェアで、真っ黒のサングラスをかけた若者達が
大勢いて、思い思いにスキーを楽しんでいた。
その鮮やかな光景は、全盲となった私の目の奥底にはっきりと焼き
ついている。
それはもう私には無縁の世界なのだと思っていた。
ところが、盲人スキーというものがあると耳にしたのである。
私にもスキーができるのかな。そう思うと、苦手な寒さも平気に思えてきた。
でも、見えないでどうやってすべるのだろう。
大まかにいって二つの方法があるようだ。
一つは、音を出しながら前をすべる人についていく方法。
もう一つは、道具を使って後ろに晴眼者がつき、一緒にすべる方法。
道具は、ガイドポールという長い棒を使うらしい。
2本の棒を両手で持ち、電車ごっこのようにしてすべるのだ。
これなら私にもできるかもしれない。
とにかく私は「ボーゲン」でどこでもかんでもすべってきた人間である。
つまり初級なのだ。
それでも風を切ってすべる爽快さは知っている。
自由に走れない、自転車にも乗れない。風を切るなんて実感は、今は
ほとんど経験できないのである。
やってみようか。
しかし、そのためにはスキー場まで手引きしてくれて、スキーの
電車ごっこを一緒にしてくれる人を探さないといけない。
そんなことまで頼んだら迷惑じゃないだろうか。
いつもの私の心配がやる気を半分にする。
晴眼者の人にどこまでなら甘えていいのか、初心者マークのついた盲人の
私は、何かあるたびに迷うのである。
でも、もう一度あのゲレンデに立つために今度はがんばってみよう。
思い切って声をかけてみるぞ。
「私をスキーにつれてって」と。