「The tortoise of guardian カメくんの日常 1」

 ポカポカとした朝の日差しを浴びていますと、ガサガサと天上の網戸が
開いていきました。
カメくんは、夢の中からパッチリと目を開けます。
「あっお母さん、おはようございます、ご飯ですね。」
甲羅の中に入れていた首をにゅと伸ばして、朝のご挨拶です。
でも、カメくんの部屋を覗き込んでいたのは、お母さんではなく、お父さんでした。
「あっ、お父さんでしたか、おはようございます、散歩ですね、散歩ですね!」
カメくんは、ちょっと興奮気味となっています。
なぜなら、いつもご飯をくれるのはお母さんですが
たまにお父さんが来た時には、必ず散歩をさせてくれるからです。
部屋の壁に手をかけ、ヨジヨジと動いているカメくんを、お父さんの大きく
温かい手が掴み上げてくれました。
もういつの頃のことだか忘れましたが、カメくんがもっともっと小さい頃
お父さんが夜店とかいうところから、カメくんをこの部屋に連れてきて
くれたのです。
今では信じられませんが、その頃はカメくんはお父さんの片手の上で
歩き回れるほどに小さかったそうなのですが、今では片手では持てないぐらいに
大きくなっているのです。
お父さんは、カメくんを部屋から出すと、乾いたタオルでカメくんの身体を
拭いてくれます。
でも、カメくんはこれはあまり好きではありません。
肌の水分が少なくなると、お肌が荒れてしまうからです。
けど、お父さんやお母さんの部屋に入る時はそうしなくてはいけないことを
知っていますので、ちょっと我慢です。
そうしてお父さんは、そっとカメくんを部屋の中に降ろしてくれました。
カメくんの部屋よりずっと広い部屋です。
当然です、お父さんもお母さんも、カメくんよりずっと大きいのですから。
カメくんは、まず首をできるだけ伸ばして、周囲を観察しました。
実は、これはカメくんしか知らないことなのですが、この部屋には
悪者がいるのです。
昔、カメくんがもっと小さい頃は、透明なガラスの部屋に入っていて、
外の様子もよく判ったのですが、大きくなってからは収納ケースとかいう
部屋に変わりました。
これは広くていいのですが、壁が半透明ですので、外の様子がよく
見えなくなってしまいましたのです。
で、誰も部屋にいない時に、なにか黒くてすばしっこい奴がカメくんの部屋の
周りを走り回っていることがあるのです。
あまつさえ、カリカリとカメくんの部屋を齧ったりします。
そいつの黒い影しか見えませんから正体は判りませんが、もしお父さんや
お母さんがいじめられでもしますと大変です。
ですから、こうやって散歩の時に、そいつを見つけて懲らしめてやろうと
考えていましたのです。
ぐるりと一通り辺りを見回してから、本格的な探索です。
ヨジヨジと素早く壁に近づき、いないかどうか確認します。
もちろん、家具の隙間や机の下など、隠れられそうな場所も見逃すことは
ありません。
あちらこちらと調べ回っていますと、「カメくん。」とお父さんの呼ぶ声が
聞こえてきました。
「お父さん、どうやら怪しい奴はいないようです。」
お父さんに安心してもらうために、カメくんは振り向きザマに明るく
言いました。
だって、お父さんもお母さんも、僕のように硬い甲羅も鋭い爪も持って
いないのですから、僕が護らないといけないのです。
実はカメくんの声が、お父さんには届いていないのをカメくんは知りません。
お父さんには「くぱぁ」という空気が抜けるような音にしか聞こえて
いませんのです。
でも、お父さんは、呼びかけにカメくんが振り向いてくれたことで
ニコニコ顔です。
手にした袋の中から、煮干を指で摘んで、カメくんの前に置いてくれました。
それを目にしたカメくんは、またまた興奮状態です。
いつもお母さんがくれる丸いツブツブのご飯は、美味しいのですが
お父さんがたまにくれる煮干は、また格別なのです。
ササッと身体の向きを変え、ヨジヨジとダッシュで近づいていき、カプと噛り付きます。
でも、ちょっと心配になってしまうことがあるのでした。
「こんなに美味しいものを僕にくれて、お父さんが食べる分は大丈夫なのかな・・・。」
だから、カメくんは、丸齧りしたいのを我慢して、お父さんのために
半分だけ残しますのです。
「さっ、どうぞお父さんも一緒に食べましょう、美味しいですヨ。」
今日もカメくんは、幸せいっぱいなのでした。

2009年11月25日(水)              
「タートル新聞 夕刊」より抜粋


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