「メリーのクリスマス」

 「私メリーさん、今煙突の前にいるの」
・・・
「私メリー−さん、いま暖炉の前にいるの」
・・・
「私メリーさん、いまあなたの部屋の前にいるの」
・・・
「私メリーさん、いま あなたの枕元にいるの」
・・・

 私は同僚のサンタに声をかけた。
「どうだい新入りの奴は、聞いたが、なかなかに有望らしいじゃないか。」
事務処理をしていた彼は、手を止めるとメガネをずらし、目頭を揉みながら顔を上げた。
「確かになかなかの逸材じゃな。
 家への侵入のしかたや屋内の移動なんかはもう芸術的と言ってもいいじゃろう。
あそこまで誰にも気づかれることなく、移動できる奴は、サンタの中に何人いるかってぐらいじゃな。」
私は思わず感嘆の声を上げてしまった。
鬼教官とも恐れられている彼をして、これほどの評価をうけられるとは
恐ろしい新人が現れたものだ。
「じゃぁ、早々に研修を打ち切って、即戦力として現場投入決定だな。」
昨今のサンタ不足を実感している現場統括サンタの私としては一人でも
サンタを増やしたいのだ。
それが、稀に見る逸材であるのなら喜ぶなというほうが無理というものではないか。
だが、そんな私の喜びが判っているにも関わらず、彼はなにかスッキリとしないものを
見るような目を向けてきた。
「確かに逸材だと言うのには反対せんし、データ的にもなんら問題はないんじゃよ。
ただなぁ、研修で子供役をしたサンタが一人残らず布団の中で怯え震えておったと
いうのが気になってのぉ。
なにがあったか問いただしても誰一人として答えるものはおらんかったし、
見ていた限り、変わったことはありゃせんかった。
じゃがな、わしはなぜか奴をいかせてはならんような気がしとるんじゃ。」
私を見る彼の目は、どこか怯えを含んでいるかのように、揺れていた。
お互いに次の言葉がでてこず、気まずい沈黙がその場を重く包み込んだ。
そのときだ、微かにだが聞き間違いようのない声が脳裏に響いてきたのは。
「私メリーさん、いま事務室の前にいるの」
互いに顔を見合わせ、軋み音を上げそうな動きで いつからか尋常ではない気配を発している扉に顔を向けると、
扉に嵌められたスリガラスの向こうに、人の影が浮かんでいるのが見えた。
でも、あれは、本当に人の影なのだろうか・・・。
ガラスに映った影は動くことなくそこにたたずんでいる。
そして、二人もまた扉を凝視したまま動くことができなかった。
                −完− 

2018年12月24日(土)          
「年刊 サンタ通信」 2018年号より抜粋


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