今はもうすっかりとその姿を変えてしまいました京都の町並みでございますが、
二千年の都と呼ばれるだけございまして、いろいろな物語が紡がれてございます。
時は江戸時代末でございましょうか、動乱に揺れる京都の市中を闊歩する一段が
ございました。
人きり集団または壬生狼と呼ばれ、勤皇浪士達はもちろん市井の民にも恐れられた
お方達がおられましたのでございます。
その名を「新撰組」。
これは、徳川幕府とともに時代の浪に翻弄されながらも自らの青春を真っ直ぐに貫いた
漢達の物語でございます。
「ぐふっ!」
ついいましがたまで、数人の薩長藩士を相手に互角以上に剣を揮っていた沖田が
口元を抑え激しく咳き込み始めた。
相手の藩士達がここぞとばかりに一気呵成に打ち込んでいくが、
流石に新撰組一番の剣士の名は伊達ではないということか、
防戦一方になっているとはいえ、激しく咳き込み、抑えた手の隙間からは
吐き出した血を溢れさせながらも、三人の剣先を見事に交わし凌いでいる。
それが功を奏し、私と土方くんが沖田のところに駆け寄る時間を作り
出せたのである。
土方君が三人をその剣先で威嚇し、私も相手に剣を向けたまま沖田の傍らに
しゃがみ声をかけた。
「大丈夫か沖田。」
私の問いかけに、頷こうとしたはずみか、途端にさらに勢いをまして血の塊を吐き出したのだ。
悪い予感に身を焦がしながらも、私は尋ねずにはおれなかった。
「まさかとは思うが、労咳か・・・。]
カッと眼を剥いた沖田は、さらに激しく咳き込むと、がっくりと膝を落とし、切れ切れに言ったのである。
「近藤先生、戦いの最中に・・・、申し訳ありません・・・。
土方君が立ちふさがってくれているとはいえ、隙あらば打ち込んでいこうぞと
伺っている藩士達に、睨みを利かせながら沖田の背中を支えてやる。
「何を水臭いことをいう、我らは志をともにする仲間ではないか、
仲間を助けるに理由はいらん。
それより病なら病となぜ相談いたさぬ、ワシでは役不足か。」
肩越しに聞こえてくる近藤の声に、沖田の目頭が熱くなり、恥ずかしさを
隠すように彼の顔が伏せられていった。
「近藤先生違うのです、向かいの家の二階の窓に、」
「なに二階、まさか鉄砲か!、撃たれたのか。」
その沖田の指差す二階に視線を走らせながらグイと身を乗り出し自分の体躯で
庇おうとする近藤の耳に、彼の消え入りそうな声が届いた。
「裸の女が見えましたのです。」
俄然と立ち上がった近藤は、天も割れよとばかりの大音量で叫んだのであった。
「歳三!さっさと始末せえやっ!、沖田!、鼻にチリ紙でも詰めとけぇっ!」
江戸時代の最後のあだ花として、京都の町を駆け抜けた若き魂達。
時代が大きく変わるとき、歴史はどれだけの血を欲するというのでしょうか。
今宵はこれまでといたしますが、「新撰組!血風録」にて、いずれまたお会いいたしませう。