トリのオリンピックも二日目、冬のオリンピックの花形ジャンプ競技。
続々と選手が跳ぶ中、次は注目の日本選手、5大会連続出場の田原選手。
アナウンサーも、注目の選手の出番に興奮を隠しきれないようである。
「いよいよ5大会出場の田原選手です、最近調子を落としているとの情報も
ありますが、その実力を遺憾なく発揮してくれることを望むばかりです。。」
各国のアナウンサーの声を電波に乗せて世界中に伝える中、
ジャンプ台の上ではカウントダウンを告げる電子音が規則正しい音色を
上げている。
今まさに跳びだそうと身構える田原選手の目には一体なにが映っているので
あろうか。
白く下方に伸びる滑走台は外から見る限りさほどのものではないようだが、
、一旦スタート地点から覗き込むとまさに奈落の底に向かう一本道と化す。
飛距離観測をする観測員が、着地点の左右に集まっている観客の姿は
まさに色とりどりのゴマ粒ほどにしか見えない。
最後に一オクターブ高い音が響き、目の前のスタートライトが赤から青に
変わると同時に、バーを握り満を持していた彼の身体が溜め込んだ
エネルギーを爆発させた勢いで滑走路上に躍りだしていった。
すかさず身体を揺すり、進路を調整してグングンとスピードを上げていく。
その見事に流線型を作る姿勢は会場にいた全てのジャンパーはもちろん、
テレビを見る世界中の人々に簡単の溜息を吐き出させるほどに美しい。
グッと引き結ばれた口許、顎の僅か数センチ下を氷の道が駆け去って
いき、視界の両端から見える風景はもはや一本の線にしか見えていない。
遠くにあったはずのジャンプ台の終点が目の前に来た瞬間、身体にかかる
重力の抵抗が増し、僅かに傾斜角を緩めたジャンプ台から大空に向かって
彼の身体は空に舞ったのである。
両翼を大きく広げ風邪の抵抗を心地よく受け、まさに大空を跳んで、
いや飛んでいるのだ。
「距離が延びます、K点ラインはどうかっ、ちょっと姿勢を崩しましたが
大丈夫、どんどん延びていきますっ。
さぁ、今着地〜、K点ラインを超えたぁ。
95メートル、95メートルっ、予選突破は確実でしょう。
日本の田原やりました、旭川動物園の仲間達もきっと喜んでいる
ことでしょう。」
そのアナウンサーの興奮も収まらないうちに、電光掲示板に田原の記録と、
順位が表示され、会場を拍手と歓声が包んだ。
が、その興奮も冷め遣らぬうちに、掲示板の表示が消え、別の
表示が現れると、一転して落胆の溜息へと変化させたのであった。
「えっ、田原が失格?
体重が足りなかったって。」
アナウンサーが飛び込んできた職員からメモを手渡されると、それを
一瞥して慌ててマイクに向かって話し出したのである。
「日本の田原選手、失格ですっ。
競技後の測定で、翼長に対して200グラム体重が少なかったようです。
田原失格ですっ。」
トリのオリンピック ジャンプ、そこには魔物が住んでいると言う。
スキーを使わず腹で滑走するそれはまさに頭から突っ込む死のダイブに
等しく、その恐怖にはベテランペンギン選手でさえ、一瞬のうちに
キロ単位で体重が減ってしまうこともあると言う。